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走っちゃう子の幼稚園探し日誌④〜あるがまま、希望へ手を伸ばす。



身体を動かすことがいいからここの体育園がいい……息子さんは保育園加配がいちばん手厚いから良い………からの、息子さんは大丈夫(これが未だにいちばん理解できない)。でもお母さんが療育の先生にならないで。名前の発生練習はしないで。私たちはプロですから、素人には気づかないところまで気づいています。

・・・と毎度二転三転する児発の有難いお言葉を受け流し、時に苛立ち混じりに応戦したり、急遽味方を増やしながら11月1日を駆け抜けました。
味方である筈の児発も大混乱の状態で、門外漢なのに今後の療育予定や、そのチーム編成、息子本人の個別のデータ資料作成迄私が全てやることになったのでした。
もっとも、これも昨今の発達界隈ではごくありふれた光景の様ですが……今更気がついてやり始めたけど、我ながら着手が遅いなぁぁ(泣)。
せめてもう少しコーチング依頼出来る専門家を先に見つけるべきだったorz

それでもそのほかの電話掛けを夫に代わって貰ったり、要所要所で実母に息子を見てもらって各機関に対応したりする事が出来た分、何とか最後まで生き長らえさせて頂いたように感じつつ、記録を綴って参ります。



1:未だ見ぬ園は何処?焦るお盆休み

方針が二転三転する児発の言い分を疑い、自宅からなんとか通えそうな条件の隣町の幼稚園を探すことにした。時は気が付けばもう8月中旬、見学するにしてもプレを申し込むにしてもそんなに時間が無い。
切迫したデッドラインの気配を背後に感じつつ、息子の昼寝タイムは必死でネットの評判や各園の方針をじっくり読みこんでいって、私達の希望が合いそうな園を絞り込んでいった。

実母・実弟に助言された通り、中小規模、自由遊びの時間配分が多め、情操教育中心の園。加配もある方が安心。
その結果、一箇所ものすごく気になる園を見つけた。盆明けを待って電話したのであった。


2:体現された「在るがまま」の風景

その園はお寺の経営する小規模園で、境内は即ち園庭といった、非常にコンパクトな園だった。大通りに面しているものの、注意して見ない限り記憶には残らないような、本当にひっそりとした園だった。

電話口で息子の現状は敢えて話さずに予定されていた日時に見学に伺うと、ちょうど降園時間直後だった為園児と保護者で園庭がごった返してた。
鐘楼台に登ったり、本堂の軒下でかけっこする子、はたまた我が子がどこにいるのか探す親御さんもいたり、迎えに来て子どもを待つ間座って休憩する外国ルーツの親御さんもいる。先生も先生で、ごめん、先生忘れてたよ!と園児に何か謝りながら猛スピードで職員室に走っていらっしゃる。

---ああ、親も子も、先生さえも、自然でのびのびしているな。
何より各々の「在るがまま」が許容されてるから、こういう雰囲気になるんだろうか。
個性を大切にしてる!と謳っていた最初の見学園では、確実にこういう雰囲気にはならないよな。
つまり、教育方針の体現って言葉にならない雰囲気からも読み取れるんだな。


そんな風に考えながら、職員室へと向かった。
迎えて下さった園長先生と主任の先生は、いつも通り「こんにちは」を明瞭に発語せず、会釈だけしてそそくさと園庭の園児に混ざって遊ぼうと脱走を試みる息子を見ても何ら顔色を変える事なく、そのまま案内しながらうまく構って遊んで下さったのだった。
それもいたずらと探索に精を出す息子を、にこにこ温かく見守るまなざしで。

園内を案内して頂きつつ、わざわざ市を跨いでまでここの園に見学に来ようと考えたのか、そしてどんな事が本人は好きなのか、はたまた実弟の所属寺院は…という話迄、息子本人を交えてじっくりお話させて頂いて、最後にクラス編成と教員配置についての話になった。
「基本は各学年はこうなんですが、今年度は補助の先生が居るクラスもあります。」


その一言を聞いて、私は覚悟を決めて話し始めた。
ここには、受容して貰える可能性があるのではないだろうかと。




3:希望の光に手を伸ばす

---先生、この子は言葉の理解はしているものの表出の発達が遅く、しかもご覧頂いた通りとても元気でよく動きます。

1歳半健診の段階では何も問題なしでしたが、私達保護者側からその2点が心配だという事で2歳過ぎから支援センターにかかり、未診断ですがこの夏からようやく療育に通わせて頂いております。

今の様子をご覧頂くとそうは見えないかもしれませんが、座ってじっくり考えて遊ぶことも好きな面もあります・・・可能であれば、今在園されているお子さん方のように、療育と並行して通わせて頂くことを希望しておりますが、ご都合はいかがでしょうか-----

何度も、どこの機関へもこういう息子の状態を繰り返し説明してきた。
しかし発達に課題があると知れば、バイアスのかかった後退り、若しくは清々しいほど事実に触れず、無視を決め込むケースが多かった。
息子の「在るがまま」の姿を直視して、更に私達保護者が希望を込めて伸ばした手を前にして、そっと握り返してくれるような温かさをもった「誰か」とは中々遭遇していなかった。



そしてこの質問の瞬間も、その誰かがどこの誰になるのかも未だ決まってはいなかった。
市内の園は例の体育系園と物理的に通園が難しい園以外は受け入れを渋る事が把握出来ており、その為に引越しをするにしても資金がコロナのおかげで吹き飛び、もう後はない。
すべてがギリギリの状況で、立ち位置が明確でない我が子の、その「誰か」になってもらえないか、藁をも縋る気持ちであった。


4:言葉にならない言葉

詳しくお話しさせて頂く為に通された職員室での園長先生の丁寧な聞き取りの時間は、希望が見えず苦しさから丸まった背筋が自ずとピンと伸びるような、誠実さが感じられる時間だった。

同時に赤ちゃんの頃からの息子の発育経過に触れて、深く理解しようとして下さっていることに内心とても驚いていた。
こんなに多角的に、息子の姿を否定も肯定もせず、あるがままに理解しようとして下さる方には出会えていなかったからだ。

……言葉はどんな子にとっても生きていく上で全ての根幹になります。表立って本人の口から出ていなくても、その子なりに何かを感じ取りますしね。だから親御さんが言葉を気にかけて早く療育へ繋がるようにされたのは、本当に良かったと思いますよ。
ただ私達は幼児教育の専門家です。だけど専門の心理/療育分野は分からない。だから療育の先生にもお話を聞いて、巡回もして頂いて、良い対応方法を教えて貰いながら育てるんです………

園長先生がゆったりと温かく話して下さった言葉が、これまで必死でやってきた事を包んでくれたように感じられた。

その温かさは同じ空間内にいた息子にも伝わっていたのか、すっかり先生方に心を開いて笑顔になっていた。以前最初に見学にお邪魔した園での様子とは、打って変わって別人のようであった。


---この笑顔が何より大切な、意思の籠もった貴方の言葉なのだろうね。

そう感じて、この園を第一希望にしようと考えたのだった。









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