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ハッピーエンドについて考えさせられた話(小川糸「にじいろガーデン」感想)

株式会社NoSchoolという教育ベンチャーでCTOをしている名人です。

ベンチャーで仕事に忙殺されていると感性を失いそうになるので、意識して映画や小説を摂取しています。

そこで、最近読んだ「にじいろガーデン」が面白かったので、その感想文を書こうと思い立ちました。

あらすじ

一言でいうとレズビアンのカップルとその子どもたちの一家の半生を描いた作品です。

生きていくのに何かと苦労を強いられるけど、それに向かって前向きに立ち向かいながら、でもそれで何もかもうまくいくほど現実は甘くないよね、というところをフィクションなのにある種冷静に描いた作品だなーという印象を抱きました。

テーマについて

昨今何かとLGBTが話題に上がりますが、小説の主人公がLGBTであるものはこれまで読んだことがなかったので、序盤で主人公の女性同士が駆け落ちするシーンで、てっきりLGBTをテーマに据えた小説なのかと思いました。

もちろん主人公たちがレズビアンであることで、周囲から冷たい対応を受けたり好奇の視線を浴びたりといった描写はありますが、別にそういう世の中が悪いからみんな多様性を認めていこう、といった強いメッセージ性は別に感じませんでした。

どちらかといえば、

誰でも生きていて周囲から浮いてしまったり、不運な目に遭ったり、ヤケになったりありますが、そういうところも引っくるめて自分の人生として受け入れていくしかないよ!

的な、周囲は関係なく自分の人生を生きようというメッセージを受け取ったような気がしました。

描写について

というのも、この物語は家族の物語なので、レズビアンのカップルだけがスポットライトを浴びるのではなく、その子どもたち(なぜ子どもがいるのかは小説を読んでのお楽しみとして...)にもスポットライトを当てて描写されています。

なので、それぞれの立場から、特殊な境遇になって様々な障壁を乗り越えていく過程がしっかりと描かれています。

だから、この小説はLGBTがテーマなのではなく、人生をそもそもどう生きていくかといった大きく抽象的なテーマを持っているように捉えられました。

ラストについて

にじいろガーデンはラストがそこそこ衝撃的でして、あ、そういう終わらせ方しちゃうんですか・・・って感じなのですが、読み手はどんなラストであろうが受け入れざるを得ないんですよね。

逆にキレイなハッピーエンドで全員幸せで終わったら、小説の中の世界だなと距離を置いてしまうのですが、ちょっと現実的というか、少なくともハッピーエンド(では無いと直感的には思う)終わり方をしたものですから、あたかも主人公たち一家が現実の家族であるかのように思わされる形で終わります。

周囲から好奇の視線にさらされ差別を受ける環境下にあって、それでも前向きに進んできたのに、ハッピーエンドを迎えられない。

現実っていつもそんなものです。

ある意味現実的な終わり方をするからこそ、

読み終えたときには、これまでの家族のあらゆる行動、駆け落ちだったり子どもたちの反抗期だったり旅行に行ったりのあれやこれやをすべて、そういう家族のあり方もアリなのだなぁ、と受け入れるしか無い。

また、ハッピーエンドと思えないような終わり方であったとしても、自分の生きる道を常に選んできた彼らにとっては、それはそれで一つの人生であり、極端な話その展開が彼らにとってハッピーエンドなのかそうでないのかは、読者である自分には決められないことだなあとも実感します。

他者との関わりについて

現実世界に目を向けると、

インターネットやSNSの普及でいろいろな人の人生が容易に拡散され、羨ましがられたり炎上したり、気軽に他人の人生にいちゃもんをつけたり羨望したりということができるようになってきたし、事実そこから生まれる「余計なお世話」というやつが世間を騒がせるようになってきたなと思っていて、

でも、他人がどう言おうが、自分の人生にとってこうするのが一番大事なんだと決めてそこにまっすぐ向かっている人生はさぞ美しいと思うし、

向かっている過程で充実した人生はどのような終わり方を迎えても(極端な話、どんな生き方をしても死ぬときは死にますからね)、周りの人がどうこう言うまでもなく”ハッピーエンド”だなぁと。

じゃあ他人の人生には何も関わらなくていいかというとそういうわけでもなく、

「にじいろガーデン」では主人公たち一家の周りに少数ながら活動を応援してくれる人たちも居て、

彼らの生き様については何も言いませんが、そこに向かうにあたって困っていることに関しては助け合うという関係性を保っているように見えました。

他人との関わり方って難しいなあと日々思っていますが、「にじいろガーデン」の登場人物たちは一つヒントをくれたような気がしました。

最後に

感想文をこうやって文章にすると表面的になっちゃいますが、

小説を読むという体験の一番面白いところは、

実際にその登場人物の一員になったかのように没入して、

心を揺さぶられ、そしてラストを迎えて本を閉じたときにハッと我に返って

現実世界に目を向ける。

この一連の流れだなと感じました。

文章で表現する以上に実際に読むことで感じられることが多いので、ぜひ興味を持った方は読んでみてください。
彼ら一家の一員になって激動の人生を過ごし、受け入れるという強烈な体験によって、大袈裟ですが自分の生き方も考えさせられるような小説です。

小川糸さんの作品を読んだのは初めてですが、このように誰かの人生を緻密に描写して何かを感じさせてくれるようなものが多いんでしょうか。

ぜひ他の本も読んでみたいです。

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