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10年ぶりの再会。診察。

「名月さん」

15時過ぎ。自分がいる病室に女性の声が響いた。
返事をして後ろを振り返るとそこに立っていたのは約10年前に私を診てくださった先生だった。

転棟したため、主治医が変わったのだが、最初はとても驚いた。まさか10年越しに再会することになるなんて。

「ご無沙汰です」
咄嗟に出た言葉。今思えば使い方を間違っていたと思う。でも、私はそんな余裕がなくて頭に思い浮かんだ言葉を口から放っていた。

「お久しぶり、名月さん。私のこと覚えてる?今少しお話しいいかな?」
主治医からの言葉に首を縦に振った。主治医の後ろについて診察室へ向かう。

私は主治医を絶対に許さない。
約10年前に私にちゃんと診断名をつけて支援が必要と判断してくれたら今まで酷い目に合わなかったのに。辛いことが少なかったかもしれないのに。
私は走り疲れた。あなたのせいでボロボロになった。

そう思ってたはずだったのに。
私は主治医からの質問に平然と答えていた。

「いっぱいいっぱい傷ついたんだね」
そうだよ。私はいっぱい傷ついてきたんだよ。
ずっと我慢してきたんだよ。

質問に答えながら涙を流した。泣き顔なんて晒すもんかと思っていたのに。人はこんなに自分の意思に反して涙を流すものだと知った。

看護師さんに言ったところで頓服を渡されて「お部屋でゆっくり休んで」と言われるから心の奥底で我慢してたことを吐き出した。主治医にぶつけた。

主治医はこう言った。「名月さんの心の中には「どうせ相談しても無駄、声を上げても何も変わらない。だから我慢する。」っていう考えがあるんじゃないかな」
泣いても何も変わらない。そう強く思っていた自分には刺さる言葉だった。またボロボロと泣いてしまった。

10年越しに診た私はどう変化したのだろうか。

診察が終わると主治医は「久しぶりに話したけど、本当によく考えて話してるんだね。話し方がしっかりしているね。」と褒めてくれた。

私より歳上の方が私にかけてくれる言葉。
「話し方がしっかりしている」
パズルのピースのように細かい単語を繋ぎ合わせて会話を紡いでいる。
言葉は私の武器であり、友達だ。

現実は変わらないかもしれないけど声を上げることで変わるものがあるかもしれない。
もっと頼ろう。私の友達に。

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