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その庭園には音が降る

5℃あれば大丈夫だ。気温が上がるのを待って家を出る。駅から2分のところに殿ヶ谷戸庭園はある。

門の向こうには2月に入ったばかりの枯れた風景があった。人影は少ない。細い道の両側にはサツキ、アジサイ、フジ、ハギ、ヒガンバナなどが、控えている。花の季節はキレイで賑やかなのかもしれない。2月のここは魅力的か? 愚問だ。そんなことは、歩けばわかる。

その庭園は崖地を利用した造りで、坂道や階段が幾つもある。雨上がりなら滑りそうな土の道を下りていく。舗装されていない道を歩くのは、いつだって不慣れで楽しい。植物名板を見ながら、それぞれの場所のベストシーズンを思い描く。現実とイマジネーションの二重写し。

そんなふうにして歩いていると、頭上から音が降ってきた。懐かしい! この音、知ってる! 見上げると、高い枝の先にある細い葉が風に揺れている。上の方で吹いている風の姿は、見えないけど、タケの葉が擦れ合う音でわかる。タケの葉の音はいい。薄くて簡単に揺れるから、少しの風で軽やかな音が立つ。分厚い葉、たとえばツバキの葉が音を立てるような風はマフラーが飛ばないように握りしめて身体に余計な力が入る。

進んでいくと、今度は下の方から音がしてくる。湧き水。池に、飛び石で幾つかのルートができている。そこもそれぞれ、聞こえてくる水音が違う。流れる音、段差を落ちていく音。水の音にも、種類がある! こんなサウンドスケープ、想像していなかった。

暑くて、散歩に行けない。しかたなく脳内で記憶を散歩する。Youtubeのインストラクターと室内散歩する。涼しくなったら、リアルな散歩をしよう。それまで体力をつけていこう。

補足:リーフレット的には、雪吊り・冬囲いなども2月の見どころです。赤いウメも咲いていました。

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