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空から氷が降った日

私はバスの中から外を眺めていた。どしゃ降りかと思っていたが、目線を下に向けると白い粒が地面に叩きつけられては消える。氷か。いや、それを雹と言うんだっけ。

私の恋人は準備のいい男だ。持っていたバッグの底から黒い折りたたみ傘を私に持たせて、電車に乗って行った。雪が降ると聞いていたのに薄手のアウターで寒い寒いと言い放つ私とは違う。もちろん傘を持っていくなど思い浮かぶことさえなかった。

バスを降りると人の多さに今日が土曜日だったことを思い出す。おまけに近くで大きいライブがあるらしい。アイドルでも来たのだろうか。顔に唇のマークを付けた女たちを横目に私は歩く。方向音痴なので道も曖昧なままに。

行く手を阻むように風と氷が大粒降ってきた。

誰かが外を見て霙が降ってる、と呟いた。ああ、これ、霙か。みぞれ。難しい漢字。


思い出深いあのバンド、活動休止前最後のライブ。大人になった私たちと変わらないのに変わってしまう彼ら。取り残されたのはどっちの方だろう?
霙が降った寒い土曜日、どこよりも熱い瞬間を過ごした。

#冬 #日記 #エッセイ