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【敗北の少年】kemu楽曲の物語を改めて考察してみる【10周年】

八度目まして。夢結(@Mei_yumeyui)といいます。よろしくお願いします。

サムネイルは「敗北の少年」2:37辺りのスクリーンショットを使わせていただきました。

企画概要はこちら

【GUMI】敗北の少年【オリジナル曲】

【HD】 敗北の少年 【GUMI オリジナル曲】- KEMU VOXX

「少年は神に成り損ねた」 - 動画説明文より
「今日も、午前5時の始発に乗って。」- マイリストコメントより

8作目です。今回はPVの一枚絵を考慮しません。理由としては、この一枚絵は元々、イラスト担当のハツ子氏が自身の同人誌の表紙として描いたものであって、動画投稿用に描かれたものではないからです。(動画投稿日よりも前に公開されていることが確認できる該当のpixivページ

これを念頭に置いて歌詞を見てみると、この曲の視点はイラストのマキちゃんではなく、「リンカーネイション」のユイちゃんであることは明白だと思います。わかりやすいのは2番のAメロです。

耳鳴りが こだまして 僕に 奇跡が問いかけるんだ
「君の夢 憧れたヒーローに 今すぐ させてあげよう」
みたいに 差し伸べられたって 嬉しくないんだ

上記の部分が、「リンカーネイション」の以下に該当します。

曇天の大都市に 耳鳴りがぱちり

は いらないんだ

というわけで、この記事では、この曲の主人公・語り手はユイちゃんだと断定して続けていきます。ユイちゃんについての詳細は、「リンカーネイション」の記事をご覧ください。

ぶつかって 逃げ込んで 僕はいつしか ここに立ってた
誰もが憧れる ヒーローに なりたくて でもなれなくて

誰もが憧れるヒーローになりたい、という願いを持った主人公が、悪戦苦闘している様子が見て取れます。

これぐらいじゃ 届かないこと 分かっていたのに

そういった子供のような夢を持っている一方で、どこか現実的です。

敗北の少年 現実を謳え
あんな風に 空は飛べやしないんだ
こんな夜に 意味があるなら 僕らは 地を這う

サビではその現実的な部分が色濃く出てます。
あんな風に~が指しているのは上で触れたヒーローに関してだと思います。ヒーローといえばマントを広げて空を飛んでいるイメージですよね。

耳鳴りが こだまして 僕に 奇跡が問いかけるんだ
「君の夢 憧れたヒーローに 今すぐ させてあげよう」
飴みたいに 差し伸べられたって 嬉しくないんだ

最初にも触れた部分です。
奇跡によって願いが叶うという、飴のように甘い提案が差し出されます。しかし、主人公はこれに対して良く思いません。

敗北の少年 存在を謳え
君みたいに 眩しくはなれないけど
こんな夜に 意味があるなら
僕らは 地を這う まだ地を這う

ここに登場する「君」というのがマキちゃんなのかもしれません。人々の願いを叶えて回るその姿は、憧れのヒーローと重なったことでしょう。
そうだとすると、考慮しないとはいったものの、あの一枚絵は結構しっくりきます。ユイちゃんの一人称視点として、マキちゃんが描かれているという解釈です。

そして、君みたいに眩しくはなれないけど、と置いた上で、主人公は地を這うという選択をします。

鼓動を知って 息を吸い込んで
「僕は遠慮するよ」

「リンカーネイション」の「飴は いらないんだ」の部分ですね。主人公は願いが叶う奇跡を拒みます。

敗北の 敗北の少年 平凡を謳え
あいにくと 神は信じないタチで
すれ違いの物語よ さよなら

マキちゃん(開発者)の意図は、人びとの願いを叶え、平和な世界を築くことです。奇跡を差し出したのも、おそらく善意によるものです。

対して、ユイちゃんの立ち位置は、夢は、自身の力で地を這ってでも掴み取ることこそに意味があり、他人に叶えられた夢に価値なんてない、というところにあります。これは、この曲の根底にあるテーマでもあります。

このすれ違いは、ユイちゃんが奇跡を拒み、マキちゃんが奇跡の匣を破壊したことによって終わりを迎えます。ここに焦点を当てたのが、前作「リンカーネイション」だったというわけです。

敗北の少年 現実を謳え
僕らは泥を這い蹲るもの
こんな夜も 愛しいから
僕らは地を這う ただ地を這う

二行目はまさに上記で述べたテーマを表していますね。

最後に、本人によるライナーノーツから一部引用させていただいて終わりにしたいと思います。

信念に従って選び取ったものが他人から見た敗北であっても、それを糧にして今日を生き抜くのが、そしてやがて辿り着いてしまう事が何より輝かしいと思っています。- PENGUIN RESEARCH「WILL」セルフライナーノーツ より


......改めて私がまとめる必要はなさそうです。
お付き合いいただきありがとうございました。
次回「拝啓ドッペルゲンガー」でまたお会いしましょう。


おまけ

・時系列

2012/04/28 同人アルバム「PANDORA VOXX」収録
2013/03/27 メジャーアルバム「PANDORA VOXX complete」収録
2013/05/06 動画「敗北の少年」投稿(complete音源)
2015/10/22 PENGUIN RESEARCH LIVE「研究発表会」にて披露
2015/11/07 動画「敗北の少年 -PianoArrange-」投稿
2016/03/12 PENGUIN RESEARCH MV「敗北の少年」投稿
2017/05/31 kemu=堀江晶太を公表

・関連インタビュー記事

kemu / 堀江晶太インタビュー|ボカロP、コンポーザー、バンドマン いち音楽家のあくなき表現欲求 - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

KEMU VOXXがフィクションなら、PENGUIN RESEARCHでは現実の、今ここで生きてる人間のことを書こうと思ってて。だからそこは自分の中で明確に線引きしてますね。ただ「敗北の少年」だけは例外というか、KEMU VOXXの曲の中で異質だったんですよ。つまりこの曲は、フィクションであるSFの世界を拒否した人の話で、僕としては現実の人間の世界に寄った歌詞だったんです。だからPENGUIN RESEARCHでセルフカバー(2016年3月リリースの1stミニアルバム「WILL」収録)できたんですよね。

求められるkemuらしさとは。「拝啓ドッペルゲンガー」リリース記念インタビュー | アニメイトタイムズ

──ではバンド、PENGUIN RESEARCHとしての活動とkemu voxxとしての活動が交わることはあり得るんでしょうか?
堀江:どうでしょう、今のところはあんまり考えてないんですけど例えば「敗北の少年」は既にやってるんですよね。でもこの曲は、kemuとしてノンフィクションのことを書いた曲のうちの1つだからという理由があるので。

・仮タイトル

敢えてここには載せていませんが、PENGUIN RESEARCH ミニアルバム「WILL」内のセルフライナーノーツに記載されています。地を這う、という歌詞はこれが由来なんですね......

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