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【漫画原作アイデア】『常闇幽太の幽霊事件簿』シナリオ・設定まとめ

1タイトル
『常闇幽太の幽霊事件簿』

2ジャンル
オカルトミステリー

3ターゲット読者層
10〜20代男女

4あらすじ
主人公の青年・常闇幽太は、子どもの頃から幽霊が見えるという特殊能力を持っていた。この世界に溢れる肉体を持たない魂だけの存在たちを、常に身近に感じながら生きてきた幽太。彼が出会う幽霊たちは、怪談話で聞くような恐ろしい存在ではなく、死んだ後の新たな人生をとことん楽しんでいる個性豊かな魂ばかりだった。しかし生きている人間と同様に、幽霊たちにも悩みがあった。最初は幽霊の世界とは関わらないようにしていた幽太は、ある出来事をきっかけに、幽霊たちが抱える悩みを解決するための「常闇幽霊相談所」を開設する。これは、幽霊が見える青年・常闇幽太が、この世界に漂って生きる幽霊たちの悩みや事件を解決するまでの記録をまとめたものだ。

5登場人物
■常闇幽太(とこやみ ゆうた)
幽霊が見える青年。ある出来事をきっかけに、幽霊たちが抱える悩みや事件を解決するための「常闇幽霊相談所」を開設する。幽霊の世界についての知識が豊富。イケメンだが口が悪い。除霊する力はないが、幽霊に対して生きている人間と同様に接し、常に幽霊の視点に立って考えることで、彼らの悩みを解決している。「常闇幽霊相談所」は幽霊たちの間でも評判が高い。

■雨宮霊奈(あめみや れいな)
「常闇幽霊相談所」でアルバイトとして働いている、自称「世界一オカルトに詳しい女子高生」。幽太の助手として、悩みを抱える様々な幽霊の話を聞いたり、心霊スポットを訪れたりしている。幽太とは違い、幽霊の姿を見る力は持っていない。オカルトと漫画が大好きで、たまに幽霊と漫画の話で盛り上がることがある。

■モルス
幽太が霊感スイッチをOFFにした状態でも視える謎の存在。人間でも幽霊でもないが、その正体は不明。見た目は普通の人間だが、どこか邪悪な雰囲気が漂い、首が180度捻じ曲がるなど、人間離れした動きを見せることがある。自らを「モルス」と名乗っている。幽霊の体を強制的に消滅させる力を持っている。

6脚本
第一話

・ある時、誰かがこう言った・「死後の世界など存在せず、人間は死んだ後、無になる」と・だが、本当にそうだろうか?・根暗な少年、常闇幽太は、子供ながらにそう疑問を感じていた・幽太は知っていた・死後に人間は魂だけの存在となり、新たな人生を送っている・物質的な肉体を失ったからって、その人の意識や思い出が消えることはない・科学的な証拠は全くないが、幽太にとってはそれが真実だった・なぜそう言い切れるか?・なぜなら、幽太には視えているからだ・肉体なき魂だけの存在たちが・幽太に視える幽霊たちは、世間一般で言われている怖い存在では全くなかった・幽霊たちは街の至る所にいる・彼らは基本生きている人間には姿が視えないため、常識のタガが外れて好き放題しているやつが多い・街中で全裸になったり、大声を突然上げたり、普通は入ってはいけない場所に平然と入ったり・もちろん生前と同じように常識の範囲内で生活しているマトモな幽霊もたくさんいる・だがその一方で、様々な理由で苦しみながら幽霊生活を送っている不憫なやつもいる・例えば、会社で自分に対してキツくあたってきた上司への恨みや憎しみに囚われる者、自殺をしたことへの後悔と自責の念に苦しみ続ける者、自分がなぜ死んで生前はどんな人生だったのかを思い出せない者など・幽太にとって、そんな幽霊たちが身近にいる生活は、小さい頃から当たり前に起きていた・しかし幽太は、自分の幽霊が視えるという能力については、一人の親友を除いて学校で会うほとんどの人間には教えていなかった・教えたところで信じてはくれないだろうし、世の中には生者に危害を加えるような悪い霊も存在するため、同級生を巻き込みたくはなかった・ある時、幽太の能力のことを知っている唯一の親友と公園で遊んでいたら、公園の片隅にこちらを睨んでいる中年男性の幽霊が立っているのを見つけた・幽太は面倒なことに巻き込まれたくなかったため、その幽霊のことを親友には黙っていた・1時間ほど、公園で親友とサッカーをして遊んでいた幽太・しかし公園の隅には例の幽霊が相変わらず立ってこちらを見つめ続けていた・幽太はその幽霊のことが気になってしょうがなく、幽霊のいる方向をチラチラ見るようになっていた・幽太のその行動に気づいた親友は「もしかしてまた何か見えるのか?」と興味津々で聞いてきた・幽太はそれを誤魔化そうとしたが、好奇心旺盛な親友は、幽太の見ていた方向に駆け出していってしまった・慌てて彼を止めようとする幽太だったが、時はすでに遅かった・中年男性の幽霊は馬鹿にされたと思ったのか、突然ものすごい形相になり、親友に襲い掛かろうとした・もちろん親友には幽霊の存在は視えていなかったが、何かを感じ取ったのか、親友の体は突然金縛りのように固くなり、泡を吹いて倒れてしまった・こんな経験は初めてだった幽太は恐怖でパニックになり、急いで救急車を呼んだ・その後病院に運ばれた親友は、幸いなことに命に別状はなかった・しかしこの事件がきっかけで、幽太は幽霊が視えるという自分の能力に嫌気がさし、二度と幽霊なんて視たくないと思うようになった・そんな幽太の姿を見た彼の祖父は、彼を何とか助けてあげようとする・実は幽太の祖父は、地元では有名な除霊師だった・だが地元ではただのおかしな人としか見られていなかった・しかし幽太は、祖父がとてつもない力を持っていることを知っていたため、祖父のことを心から尊敬していた・そんな祖父がある時、自分の能力に思い悩む幽太を見て、それを解決するためのある力を彼に伝授した・それは、自分の中にある霊感スイッチをON OFFに切り替えるための方法だった・幽霊が視える能力を持っていても、霊感スイッチをOFFにすることができれば、幽霊の姿が見えなくなるという・幽太は教えられた方法を何度も試すうちに、霊感スイッチをOFFにする方法をマスターすることができた・それから中学高校に進学していった幽太は、しばらく幽霊とは無縁の生活を送っていた・幽霊の世界とは一切関わらない平和な日々が過ぎていった・そして大学に進学し、将来の就職先に悩むようになった幽太・幽太には特技も趣味も全くなく、唯一の取り柄だった幽霊が視えるという能力も封印していたため、何の仕事に就けばいいか分からないでいた・そんなある日、幽太の人生を一変させるような事件が起きる・大学での講義を終えて家に向かって夜道を一人で歩いていた幽太・すると、かつて親友が泡を吹いて倒れた例の公園の前にやってきていた・突然幽太は、あの時の中年男性の幽霊が今もいるのか無性に気になってしまい、霊感スイッチをONにした・しかし、そこにあの幽霊の姿はなかった・諦めて帰ろうとしたその時、突然夜の虚空を切り裂く叫び声が響き渡った・驚く幽太・すると暗闇の中から一人の幽霊が怯えた様子でこちらに向かって走ってきた・その幽霊は「助けてくれ!助けてくれぇ!!」と叫んでいた・こんなに怯えている幽霊を初めて視た幽太は、その幽霊の顔を見て再び驚く・それは、あの時公園の隅から自分と親友を睨んでいた中年男性の霊だった・幽太は意を決してその幽霊に話しかけた・するとその幽霊は幽太のことを覚えていたらしく、幽太に助けを求めてきた・どうすればいいか全く分からなかった幽太・確かに幽太は霊が視えるという力を持っていたが、祖父のように悪い霊を除霊するなどの特殊な能力は持っていなかった・しかしその時の幽太にとって一番知りたかったことは別にあった・幽太は目の前の幽霊に質問した・「どうしてあの時俺たちのことを睨んでたんですか?」・すると中年男性の幽霊は急に怒り出した・「んなこと今はどうでもいいだろ!!俺は生まれた時から体が弱くて、子供の頃はロクに友達と遊んだことがなかったから、お前らのことが羨ましくて見つめてただけだ!!今じゃ幽霊になって遊ぶことすらできなくなっちまったがな!」・その理由に納得した幽太・(へ〜、こいつらにも悩みってあるんだな)・心の中でそう考えていた幽太に対して再び助けを求める幽霊・「そんなことより助けてくれ!あんた幽霊が視えるならあいつのこともどうにかできるだろ!?」・「あいつ?」・幽太が暗闇の奥に目を向けると、一人の男がこちらに向かって歩いてきた・見たところ幽霊ではなく生きている人間のようだ・しかしよく見ると何か変だ・(何だろう?言葉で表現はできないけど、こいつ…人じゃないような気がする)・中年の幽霊は叫び声を上げて謎の男とは反対方向に逃げ出した・中年幽霊は逃げながらこう叫んでいた・「消されたくない!俺はまだこの世界にいたいぃ!!!」・その言葉の意味が分からなかった幽太・謎の男は幽霊の後を追ってゆっくり歩き出した・幽太はその男に声をかけた・「あ…あの、何者か知りませんが、死んだ人のことはそっとしてあげてた方がいいと思うんですけど…」・すると、なぜか男の首が幽太の方に180度曲がり、恐ろしい表情でこう言った・「お前には関係ない。俺様の楽しみを邪魔するなら、お前も消すぞ…!」・そう言われた瞬間、身体中に寒気が走った幽太・(こいつは明らかに人間じゃない!見た目は人間だけど、中身は別物だ!)・幽太の体は、本能からか恐怖で一歩も動けずにいた・「もうこんなことに関わるのはウンザリだ!!」・そう叫んだ幽太は、霊感スイッチをOFFにした・しかし、衝撃的な事実に気づき戦慄する幽太・霊感スイッチをOFFにしたにも関わらず、目の前の謎の男の姿は消えなかった・混乱する幽太・(霊感スイッチをOFFにしても視えるってことは、こいつはやっぱり人間なのか?でも…さっき首が180度回ったのは一体何なんだ!?)・さっきの中年の幽霊が心配になった幽太は、怖かったが勇気を振り絞って謎の男の後を追うことにした・後を追っていくと、中年幽霊と謎の男が交差点の真ん中で対峙していた・幽霊の方は男に必死で命乞いをしていた・幽太は離れた位置で二人のやりとりを見つめていた・すると謎の男は不敵な笑みを浮かべて、左手を開いて幽霊の方に向けた・「穢れなき魂よ、父なる神のもとに帰れ!!!」・男がそう叫んだ瞬間、目の前にいた幽霊の姿が一瞬で消滅した・幽霊が消える瞬間を初めて視た幽太は、恐怖に全身が包まれた・するとその謎の男は、今度は体ごと幽太の方に向けてこう言った・「我が名はモルス。この世界に蔓延る罪深き魂たちに引導を渡す者。いつかお前とも、ゆっくり話す時が来るだろう」・その瞬間、モルスと名乗った謎の男は夜の闇の中に消えていった・夜の静寂が戻ったことで、自分の心臓の鼓動以外は何も聞こえなくなった・この出来事がきっかけで、幽太は幽霊の世界についてもっと知見を広げようと考えるようになった・今まで幽霊たちには悩みとかがないと思い込んでいた幽太は、あの中年幽霊の言葉を聞いて、幽霊の世界にも自分たちが知らない悩みや事件があるのかもしれないと考えるようになっていた・そして一番気になるのが、あの謎の男の正体だ・おそらくあいつは人間でも幽霊でもないそれ以外の存在だ・普段幽霊以外の見えない存在(例えば妖怪や神や天使など)を視る力がなかった幽太だが、あの男が幽霊以外の存在であることは直感で分かった・しかしあいつが具体的に何なのかは分からなかった・いつかその正体を暴いてやる・幽太がそう思っていた矢先、幽太に霊感スイッチのことを伝授してくれた祖父が、老衰で他界した・祖父のことは大好きだったが、生きているうちに面と向かって感謝の気持ちを伝えることはできなかった・(そうか…この世に未練や後悔を残す幽霊ってこうやって生まれるんだな)・何となく自分の中で納得した幽太・それから数年後、大学を卒業した幽太は、都内の片隅に「常闇幽霊相談所」という事務所を開設した・目的は、悩みや事件などを抱えるあらゆる幽霊たちを助けるための、幽霊界のなんでも屋になることだ・最終的には、モルスと名乗るあの謎の男の正体を突き止める・そう心の中で誓った幽太による、新たな幽霊ライフが始まった

第二話
・幽太が「常闇幽霊相談所」を開設してから1ヶ月が経った・幽太は都内を歩き回って広告を貼りまくった・この広告を幽霊たちが見てくれればいいと思っていたが、この1ヶ月間、幽霊の来客は一人も来なかった・次第に幽太は、自分一人で事務所の宣伝をするのには限界があると感じ始めていた・そろそろ誰か助手的なやつを雇った方がいいかもしれない・幽太がそう考えていた矢先に、事務所のドアを誰かがノックする音が聞こえた・幽太は、初めての幽霊のお客が来たと期待したが、よく考えたら幽霊は肉体を持っていないためドアを叩くことはできない・じゃあ誰がこんな見るからに怪しい場所を訪ねてきたのか?・ドアがゆっくりと開き、来客の姿を見た幽太は目を丸くした・ドアの向こうに立っていたのは、眼鏡をかけたポニーテールの女子高生だった・(じ…女子高生?)・なぜ女子高生がこんなところにいるのか理解できない幽太・するとその女子高生は一枚の紙を前に突き出して威圧的な声で言った・「あなたですね!?こんな胡散臭いポスターを街中に貼っているのは!!」・よく見ると女子高生が手に持っているのは、幽太が1ヶ月前から街中に貼っていた事務所の広告だった・「胡散臭いだと?そのポスターのどこが胡散臭いってんだよ?」・女子高生は言い返した・「このポスターには『幽霊が見える男常闇幽太が幽霊の悩み事を何でも解決!』って書いてあるけど…」・その瞬間、その女子高生は幽太を明らかに馬鹿にしているような嫌味な顔で笑って言った・「あなた、幽霊が見えるって嘘でしょ!?そんなの信じるやつがいると思う!?ハッ、マジでウケるわ!」・幽太は呆れて言い返した・「…お前、ただそれが言いたくてここに来ただけか?特に用がないならさっさとウチに帰ってお勉強でもしてろ。俺は幽霊の客にしか接待はしねーんでな」・女子高生は怯む様子もなくさらに言い返した・「私がここに来た目的は、あなたに教えるためよ!今のオカルト界の最新トレンドについてね!」・目が点になる幽太・「ハ?」・女子高生はオカルトブームの変遷について熱く語り出した・「始まりは1970年代!『ノストラダムスの大予言』がベストセラーになってオカルトの第一次ブームが起こった!それからオカルトの最盛期は1990年代、ミステリーサークルや人面魚、人面犬が話題になり、子供たちの間ではトイレの花子さんなどが流行した!」・急に熱く語り出した女子高生に若干引いている幽太・「おいおい…」・それでも彼女の語りは止まらなかった・「2000年代に入ってもオカルトブームは続いた。アポロ計画陰謀論やFBIの超能力捜査官、テレビに出てた『動物と話せる少女』とか。でもよく考えてみて。もう今のオカルトはもはや私の知っているオカルトではなくなってるわ」・幽太は諦めて彼女の話を黙って聞くことにした・「私にとってのオカルトは、貞子とか夏の怪談とか海外のB級ホラー映画とか、そういう夏に観たら一気に涼しくなるようなエアコン知らずの地球に優しい超エコなジャンルのことを言ってるのよ!宇宙人の襲来?秘密結社の陰謀?そんな話どうでもいいわ!とにかく、あなたがオカルトに関して間違った情報を流せば、オカルトブーム衰退のスピードは早まる一方なの。だからお願い、今すぐにこの事務所を畳みなさい!!!」・「いや、お前はさっきから何の話をしてるんだ!!?」・思わず突っ込む幽太・「いいかお嬢さん、俺は間違った情報を流してるつもりもないし、事務所を畳むつもりもない。分かったらさっさと帰ってくれ!」・すると女子高生はムッとした顔で言った・「お嬢さんなんて呼び方はやめて!私にもちゃんと名前がある!私の名前は雨宮霊奈。世界一オカルトに詳しい女子高生よ!」・幽太にはその名前に聞き覚えがあった・「お前、確かこの間どっかのテレビ局がやってたオカルトクイズ大会で優勝した…あの雨宮霊奈か!?」」・ようやく自分の正体に気づいた幽太にニヤリと微笑みかける霊奈・「やっと気づいたみたいね。だったら早く事務所を畳んだ方がいいわよ。幽霊が見えるとか幽霊には悩みがあるとかこれ以上嘘を言い続けるなら、私がテレビ局にあんたのことチクっちゃうから!そしたらあんたの人生はお終いよ。『虚偽の情報で利益を得ようとした詐欺能力者』ってね!」・幽太は無理やりこいつを追い出そうかと一瞬悩んだが、こいつに間違った噂を広められても困る・(…いっそのこと全部話しちまうか)・そう考えた幽太は、事務所の奥の引き出しからトランプカードが入った小さなケースを取り出した・一瞬怯む霊奈・「な…何する気!?」・幽太は霊奈の方に振り返ってこう言った・「お前に見せてやるよ…幽霊が実際に視えるっつー決定的な証拠をな!」・その後二人は近くの公園に向かった・「こんなところで一体何する気?まさか…ここで待ち合わせしてる相手に私の体を売るつもり!?」・霊奈の発言に再び突っ込む幽太・「お前…オカルト番組の観過ぎだぞ」(まぁ、実際そうなんだろうけど)・霊奈は幽太に連れられて、公園の片隅にあるベンチに座った・「ここでババ抜きをやる!」・意外なワードが出てきて驚く霊奈・「ば…ババ抜き〜!?何で?」・幽太は霊奈に質問した・「お前、ババ抜きはやったことあるか?」・霊奈は自慢げに答えた・「当たり前でしょ〜。っていうか私、ババ抜き結構強いわよ。その辺の素人相手なら絶対に負けないんだから!」・それを聞いた幽太はニヤリと笑った・「なら丁度いい…。最初に言っておくがお前はこの後、必ずババ抜きで俺に負ける。これは宣言じゃない。予言だ」・それを聞いて憤慨する霊奈・「ハァ!?言ってくれるじゃない!じゃあもしアンタが負けたらさっきの事務所は今日中に畳んでもらうわよ!?」・幽太は自信満々で答えた・「いいとも、約束するよ。だが始める前に少しだけ時間をくれ」・霊奈は顔をしかめた・「何か妙なことしたらぶっ飛ばすわよ」・すると幽太は、突然顔を横に向けて小声で独り言を言い始めた・しかし彼が何を言ってるかはよく聞き取れなかった・霊奈には幽太の見ている方向には何もないように見えた・すると気が済んだのか、幽太は霊奈の方に向き直ってゲームを始めた・自信満々でゲームに挑む霊奈・しかし結果は、なんと霊奈の惨敗だった・相当ショックを受けている様子の霊奈・「そんな…この私が…素人相手にババ抜きなんかで負けるなんて…!」・幽太は彼女がここまで悔しがることが意外だった・「たかがババ抜きに負けたくらいでそんな悔しがるか?普通」・すると霊奈はムキになって叫んだ・「たかがですって!?それでも勝負には変わりないわよ!私は人生で起きる全ての勝負に勝ち続けていたいのよー!!!」・「お前、オカルトクイズ大会のチャンピオンだよな?確か…」・気を取り直した霊奈は、幽太にどんな手を使って勝ったのかを問いただした・「一体どんなトリックを使ったの!?」・幽太は種明かしをした・「簡単なことだ。ここにいるおばさんに、お前が持ってたカードの絵柄をこっそり教えてもらってたんだ」・幽太は虚空を指差しながらそう言った・しかし霊奈には幽太の指差す先には何も見えなかった・「ハ?おばさんなんてどこにいるのよ?」・すると幽太はわざとおどけた様子で言った・「おかしいなぁ。他にもその辺にうじゃうじゃいるぜ。肉体なき魂だけの存在がな」・その瞬間、全てを察した霊奈の顔から血の気が一気に引いた・「ま…まさか、幽霊に頼んで私のカードをカンニングしたってこと!!?」・幽太は答える代わりに憎たらしい顔でニヤリと笑った・しかしその事実を受け入れられない霊奈・「嘘よ!幽霊なんて映画や漫画の中だけの存在よ。本当に実在するわけがない!」・幽太はこんなの常識だと言わんばかりに答えた・「嘘って言われてもな。実際俺には視えてんだけどなぁ」・それでも信じようとしない霊奈・「じゃあこの質問に答えられたらあなたの言うことを信じてあげるわ!」・幽太は耳くそをほじりながら平然と答えた・「どうぞ」・すると霊奈は公園中に響き渡るほど大きな声で質問した・「今私が穿いているパンツの色は何!?」・幽太は、さっきから彼女の股に顔を突っ込んでいる年配男性の幽霊に聞いた内容をそのまま答えた・「白」・霊奈は悔しさから絶叫した・「そんなぁ〜〜〜〜!!!??嘘でしょぉ〜〜〜〜!!!?????」・その後霊奈は観念して家に帰って行った・ようやく静かな時間を取り戻すことに成功した幽太・(はぁ、やっと帰ったか。もう二度とごめんだな、あんなオカルトオタクと絡むのは…)・それから1週間後、常闇幽霊相談所には未だに一人の幽霊も相談に来ていなかった・次第にイライラが溜まる幽太・「あー!何で誰も来ないんだよ!あんだけ宣伝したのによー!まさか誰もあのポスターを見てないのか!?」・すると事務所の入り口の奥から聞いたことがある声がした・「それは多分、幽霊たちが文字を認識できていないからよ!」・ドアが開くと、そこにはあのオカルトオタクの女子高生が制服姿で立っていた・「お前は…雨宮霊奈!?何でまたここに!?」・霊奈は答えた・「明日から夏休みに入るからちょっと学校帰りに立ち寄ったのよ」・それでも幽太の疑問は消えなかった・「だから、何しに来たんだって聞いてんだよ!また嘘つき呼ばわりするなら今度こそ出禁にするぞ!」・すると霊奈は申し訳なさそうな顔でこう言った・「別に、私だって幽霊がいることを信じたくないわけじゃないわ。幽霊の話は昔から大好きだし、それに、そういう私たちに見えない世界が実際にあるって…はっきり言ってロマンじゃない!!!」・幽太は霊奈の意外な答えに戸惑った・「…え?」・「というわけで、私をここで雇って!」・霊奈の突然の告白に慌てる幽太・「はぁ!?ふざけんな!お前まだ高校生だろ!?雇えるわけないだろ!!」・霊奈は平然と答えた・「大丈夫よ。ウチの学校、アルバイトするの許されてるから」・幽太は反論した・「いや、アルバイトて……ここはコンビニじゃねーんだぞ!?幽霊と関わる仕事だ!生きてる人間じゃなくてな!それに、幽霊の世界をファンタジー映画みたいな御伽話の国とか思ってたら痛い目見るぞ!」・幽太の脳裏には、かつて目の前で幽霊を消滅させたあの謎の男の姿が再び浮かび上がっていた・「でも知らないんでしょ?事務所になかなかお客さんが来ない理由を。私は知ってんだけどなー。でも雇ってくれないなら教えても無駄みたいねー」・霊奈のその言葉に一瞬心が揺らぐ幽太・悩んだ結果、最初に折れたのは幽太の方だった・「しょうがねぇな…。まずは1ヶ月間のお試し雇用だ。弱音の一つでも吐きやがったら今度こそ追い出すからな!」・その言葉を聞いて霊奈は大喜びした・「やったー!」・こうして、幽霊が視える男とオカルトオタクの女子高生による、最高で最恐の夏が始まるのだった

第三話
・歌舞伎町・そこは、死者も生者も娯楽と快楽を求めてひしめき合うアジア最大級の歓楽街・今夜も人々は、この眠らない街で己の欲を満たすために朝まで遊び尽くしていた・そんな街の暗がりで、一人の幽霊が路上にうずくまって泣いていた・だが彼の苦悩を受け止めようとする者は、生者も死者も誰もいなかった・夏のある日、セミの鳴き声が鳴り響く中、ある一人の女子高生が燃えるような太陽光を浴びながら常闇幽霊相談所にやって来ていた・今日は彼女の初出勤の日だった・「いいか?この仕事内容はいたって単純だ。幽霊たちが抱えている悩みとか事件とか何でもいい。それを俺たちが解決してやる。それだけだ」・幽太は霊奈にそう説明した・「でも、そもそもお客さんが全然来ないんでしょ?」・幽太はその理由について、霊奈が何か知っているようなことを言っていたのを思い出した・「そういやぁお前、この前幽霊は文字を認識できないとか言ってたが、それは一体どういうことだ?」・すると霊奈はニヤニヤした顔で幽太を見つめてきた・「ぷぷっ、幽霊相談所とか開いておきながら幽霊に関する知識はゼロみたいね、常闇さん?ウケるw」・幽太は思わず赤面した・「わ…悪かったな」・幽太のその顔を見てますます調子に乗り始める霊奈・「私にそれを教えてほしかったら、何か見返りをもらいたいわね!」・霊奈の理不尽な要求にイライラし始める幽太・「あのなぁ…お前の仕事は時給1300円だぞ?それで十分だろ!?」・「お金なんていくら持ってても心は満たされないわ」・そう言ってプイッと顔を背ける霊奈・「お前…まさか学校でイジメられてるのか?」・思わずムキになる霊奈・「んなわけないでしょ!?」・ため息をつく幽太・「分かったよ。今日の仕事が終わったらメシでも奢ってやる。それでいいか?」・それを聞いてようやくやる気を出した様子の霊奈・「私、六本木で回らない寿司が食べたい!」・幽太は苛立ちを抑えながら言った・「いや…スシローで我慢しろ」・その頃、都内にあるとあるベンチャー企業のオフィスでは、鈴木透と言う名の二十代前半の若い社員が、休憩時間を使って喫煙室で一服していた・その時鈴木は、先日上司から伝えられた鈴木のビジネスパートナーである同僚の突然の訃報を思い返していた・その瞬間、鈴木は怒りに顔を歪ませて、喫煙室に置いてある椅子を思いっきり蹴り飛ばした・一方常闇幽霊相談所では、霊奈が事務所に幽霊が全く来ない理由を説明していた・「これはあくまで私の推測なんだけど、人間って死んだら幽霊になるでしょ?基本人間って幽霊になっても、その人が持っている特技とか趣味は生前と全く変わらないのよ。幽霊になったからって突然瞬間移動とか空を飛べるみたいな超能力が使えるようになるわけじゃない」・「あぁ、確かにそうだな」・幽太はこれまでに自分が関わってきた幽霊たちの事例を見ても、霊奈の言っていることは正しいと思った・「でも、一つだけ例外があるのよ。幽霊になったらなぜか文字が認識できなくなるの。読もうとしてもそれが文字かどうかも分からないのよ。文字だけじゃないわ。漫画やイラスト、スマホの画面とかも認識できない。それがただ肉体を持っていないからなのか、私たちとは住んでいる次元が違うからなのかは分からないけど…。とにかく、ポスターなんか貼っても幽霊には文字が読めないから無駄よ!」・説明を終えた霊奈がチラッと幽太の顔を見ると、彼は明らかに今の話を信じていないといった様子で霊奈のことを睨んでいた・「お前、幽霊が視えるわけでもないのに、何でそんなことが分かるんだ?どーせまた下らないオカルト番組かなんかを観て、誰かが適当に言った説を信じてるだけだろ?」・そう言った幽太は、彼女がまたブチ切れるだろうと予感して思わず身構えた・すると霊奈は勢いよく立ち上がって叫んだ・「その通りよ!!!悪い!!?」・(…当てられて逆ギレかよ)・心の中でやれやれと首を振った幽太は、彼女にある提案をした・「まぁ…俺も確かなことは分からないから何とも言えんが、事務所の中で頭を捻っててもしょうがねぇ。一旦街に繰り出すか!分からねぇことは直接本人たちに聞けばいい」・その言葉を聞いてテンションが上がる霊奈・「え?幽霊たちにインタビュー?うわっ最高!それって動画に撮ってネットに上げたらノーベル賞とかもらえるんじゃない!?」・どこまでいっても欲深い女子高生にただただ呆れる幽太だった・それから二人は歌舞伎町にやって来た・幽太に質問する霊奈・「何で歌舞伎町なの?幽霊に会うならお墓とか心スポの方が良くない?」・幽太が答えた・「ばーか。お前、自分が幽霊になったとしたら死んだ後にそんなところ行きたいと思うか?ただでさえ生きてる人間に自分の存在を気づいてもらえないのに、そんな人気のない寂しい場所に幽霊が行くわけないだろ!」・霊奈の脳内に疑問が浮かんだ・「え?でも夏の怪談とかで、心霊スポットに行ったら幽霊を見たって話よく聞くけど……」・幽太がさらに答えた・「あぁ、別にそういう場所に幽霊が全くいないとは言ってない。だが好き好んでそういうところにいる幽霊は、大体イカれた奴ばっかだ。自分の姿が見えないのをいいことに、生前にやれなかったことを倫理全無視で平気でやってる奴らだ。そんな奴からはマトモな情報は得られないだろうな」・「ふーん…」・その話を聞いた玲奈は、幽太のことをただ幽霊が視えるだけの口の悪い陰気な大人だと思っていたが、それが間違っていたと密かに考え始めていた・(意外と幽霊のこと知ってんじゃん。この人)・幽太は辺りを見渡しながらさらに説明を付け加えた・「幽霊ってのは大抵、賑やかで楽しそうな場所を好むんだ。そういうところにいた方がそいつの気分も上がるからな。だから歌舞伎町は幽霊たちがたむろするのに打ってつけの場所なんだよ」・すると幽太は、さっそくホストクラブの前で佇んでいる中年女性の幽霊を見つけた・「あのおばさんに聞いてみよう」・二人が彼女に近づくと、その幽霊は驚いた様子で二人を見つめた・「あなたたち、まさか私のことが視えてるの?」・幽太は慣れた様子でその幽霊の質問に答えた・「まぁな。正確には視えてるのは俺だけだ。隣にいるこいつは俺の助手だ」・霊奈には目の前の幽霊の姿が視えず、声も聞こえなかったが、幽太が目の前にいるであろう幽霊と会話していることは理解できた・おばさん幽霊から色々聞いた後、一旦道の端っこに移動する二人・すると幽太は信じられないといった表情で、悔しそうにおばさん幽霊から得た情報を霊奈に話した・「本当だった……!幽霊には俺たちの文字が認識できていないらしい」・その瞬間、霊奈は勝ち誇ったように大喜びした・「ホラー!やっぱりそうじゃない!私の情報収集力を舐めんじゃないわよ!何たって私は世界一オカルトに詳しい女子高生だからね!!」・(なんかムカつく…)・幽太は心の中でそう呟きながら、今後の計画について考えた・「とにかくだ!もう宣伝用のポスターを街中に貼るのはやめだ!直接幽霊たちに事務所のことを教えまくる!これしか方法はねぇ!」・(最初からそうすればよかったのに…。そもそも許可なく街中にポスターを貼りまくるって普通に違法だから!)・霊奈は声に出してそう言いたい衝動を必死で抑えた・幽太はさっそく、その辺の幽霊たちに常闇幽霊相談所のことを直接宣伝しまくろうと思い、通りに向かって振り返った・すると目の前に青白い顔をした若い男性の幽霊が急に現れた・「うおぁっ!!!??」・思わず絶叫する幽太・いくら普段から幽霊を見慣れている幽太でも、目の前に知らない男の顔が突然現れたらさすがに驚いてしまう・「な…何だお前突然!!?」・すると、その幽霊は深刻な様子で幽太に事情を話し始めた・「じ…実は、さっきあなた方が女性の幽霊と話しているところを見かけて、よ…良ければ私の悩みを聞いてほしいんですが…。他に悩みを打ち明けられる相手が誰もいなくて……」・幽太はその幽霊の意外な頼み事を聞いて目を丸くした・「きた…。初めての仕事だ」・幽霊が視えなかった霊奈は必死で状況を理解しようとした・「えっ?仕事の依頼?ウソぉ!?」・こうして、常闇幽霊相談所開設以来、初めての仕事がようやく舞い込んできた

第四話
・正午近くになり、その日の暑さは最高潮に達していた・幽太と霊奈はコンビニで買ったアイスを食べながら、近くの建物の影に入って先程の幽霊の悩み事を聞いていた・「実は僕…大学卒業後にとあるベンチャー企業に就職したんですが、入社初日からとんでもない量の仕事を上司から押し付けられて、毎日死にそうなくらい働いてたんです」・「ブラック企業だ…」・霊奈は幽太に通訳してもらった内容を聞いてそう呟いた・「だけど僕、仕事のスピードが遅いから…いつも上司に怒鳴られてました。『お前はどんだけ鈍臭いんだ!こっちの迷惑も少しは考えろ!』って……」・「典型的な社畜ってやつだな」・幽霊の話を聞いていた幽太もそう呟いた・「ですがある日、上司が僕に挽回のチャンスをやるって言い出したんです。『今度クライアントの前で僕が会社の商品をプレゼンして、クライアントの反応が良ければ僕を昇進させてやる』って」・幽太と霊奈は黙って彼の話を聞いていた・「ですがプレゼンを発表する直前になって、死んだんです…僕…交通事故に遭って」・幽太は話をまとめようとした・「つまりこういう事か?あんたは生前に自分にキツく当たっていた上司への恨み辛みが消えなくてこの世に留まっていると?」・するとその若い幽霊は首を横に振った・「…違います」・するとそれを聞いた霊奈も自分の考えを言った・「じゃあ、プレゼンを発表する前に死んじゃったことがものすごく未練になってるとか?」・すると幽霊は再び首を横に振った・「それも違うと思います」・「じゃあ何なんだよ?」・もったいぶっている様子の幽霊に対して不機嫌になる幽太・すると幽霊はようやく答えた・「実はそのプレゼンの発表は、私と私の同僚と二人で協力して発表する予定だったんです。そのプレゼンが成功していれば、そいつも一緒に昇進できたはずだったんです。だけど、僕が途中で勝手に死んだせいで、そいつにも会社にも迷惑をかけてしまった……!」・両手で顔を覆ってすすり泣き始める若者幽霊・幽太の通訳を聞き終えた霊奈は再び自分の意見を言った・「でも、それって考えすぎじゃない?だってあなただって好きで死んだわけじゃないんでしょ?自殺したわけじゃないんだし。同僚の人が昇進できなかったのは全然あなたのせいじゃない。いっそのこと生きてた頃の辛かった思い出なんて全部忘れて、幽霊生活を思いっきり楽しんだら?」・すると、幽太がジト目で霊奈のことをギロっと睨みつけた・「お前、本当に馬鹿だな」・幽太のド直球発言にブチ切れる霊奈・「な…!?私今何かおかしなこと言った!??」・幽太はさらにキツい口調で言い返した・「あぁ言ったよ!無知丸出しのアホな発言をな!いいか?人間が死を恐れる一番の理由は何だと思う?痛いからだ!車で轢かれるとか銃で頭を撃ち抜かれるとか、想像しただけで痛そうだろ?だが実際はそうでもねぇ。人が死ぬ瞬間は脳から快楽物質が大量に分泌されるから、死の直前とその瞬間は意外と痛みや苦しみは感じないんだ。その事実をこいつに当てはめて考えると、何が言えると思う?」・幽太は目の前で泣いている幽霊を指差しながら霊奈に質問した・「な…何が言えるって……。死ぬ時は意外と楽だったとか?」・霊奈は自信なさげな声でそう答えた・幽太は怒りを抑えながら説明した・「そうじゃねぇ。これは幽霊全般に言えることだが、事故で死んだ人間は、自分が死んだという事実にはしばらく気づかない。今言ったように、人間は死ぬ時に痛みも苦しみも感じない。眠りに落ちるように一瞬で幽霊になっちまう。だが、普通の人間は死ぬ瞬間はものすごく痛いもんだと思い込んでいるから、その先入観のせいで、実際に自分が死んでもそのことに気づけない奴が多いんだ。きっとこいつもその類だろうな…」・しかしその説明を聞いてもいまいち理解できないでいる霊奈・「で…でも、今の話とさっきあなたが私を馬鹿って言ったことがどう関係してるの?」・幽太はいつにも増して真剣な表情で、自分の考察を語り始めた・「もしこいつが、自分が死んだことにしばらく気づけていなかったっつー俺の考えが正しいとしたら…おそらくこいつは、自分の葬式にも顔を出せず、家族や会社の同僚とかにも死後に一度も会いに行ってないのかもしれない。こいつが自分の死に気づくまでどれだけ時間がかかったかは知らねぇが、こいつは真面目そうなやつだから、気づいた頃には罪悪感から怖くて大切な人のところへ行けなかったんだろう。自分が勝手に死んだことに対して同僚がどう思ってるのかが不安なんだろうな。死んで幽霊になったやつからしたら、残された人たちが自分のことをどう思っているのかなんて知りようがないからな」・その説明を聞いて、ようやく理解した霊奈・「じ…じゃあ、この人が自分にとって大切な人たちへのいろいろな想いを断ち切れない限り、幽霊生活をエンジョイすることができないってこと……?」・「あぁ、簡単に言うとそういうことだ」・幽太は目の前で未だに啜り泣いている幽霊を哀れな目で見つめた・(こいつと同じような立場の幽霊は今までにごまんと見てきた。だがどいつもこいつも、その後立ち直るまでとても時間がかかった。この幽霊は服装や話し方からして、死んだ時期はおそらくそんな過去の話じゃない。直近一年の間の出来事だろう。なら尚更、立ち直るまで相当時間が…)・幽太が頭の中でそう考えていた矢先、突然霊奈がある提案をした・「じゃあ、今会いに行こうよ!プレゼンを一緒にしようとしてたその同僚に!」・その言葉を聞いて顔を上げる幽霊・「え…?」・しかし幽太はその提案に反対した・「お前はどこまで馬鹿なんだ!?こいつがさっき自分で言ったんだぞ!その同僚は、こいつが事故で死んだせいで昇進のチャンスを逃したんだ!もしそいつがこの幽霊のことを心底恨んでいたら、そいつと再会したこの幽霊は二度と立ち直れなくなる!お前はそこまで考えて……」・しかし霊奈はそれでも引き下がらなかった・「馬鹿はあなたの方でしょ?常闇さん。幽霊が生きてる人間を恨むんだったら分かるけど、残された人たちが死んだ人間のことを恨むなんてあり得ないわ!それに、この人はきっとその同僚から心底信頼されてたはずだし、この人も同僚を信頼していたはず。人間って、血が繋がってない赤の他人との間にできた信頼関係の方が意外と長続きするもんよ?そう考えたら、この人の同僚が昇進のチャンスを逃したくらいで彼のことを恨んでるとは思えないわ」・幽太はそれでも霊奈の提案を受け入れる気にはなれなかった・「霊奈、お前…こいつが生前どんな人生を送ってたかもロクに知らねぇくせに……」・するとその幽霊が静かに話し出した・もう泣くのはやめたようだ・「実は、その子の言う通りなんです」・彼のその言葉に驚く幽太・「え?」・「僕とあいつは大学の陸上サークルで知り合って、卒業後はそのまま同じ会社に就職したんです。大学時代は4年間ずっと、一緒に汗水垂らして辛い練習を乗り越えた仲です。就職後も僕たちの信頼関係が揺らぐことはなかったです」・幽太は彼を問いただした・「じゃあ何でそいつと会うことがそんなに怖ぇんだよ!?」・すると幽霊は再び泣きそうな表情で本音を話し始めた・「会うのが怖いんじゃない!あいつに会わせる顔がないんだ!僕はあいつの信頼を裏切った!あいつに恨まれても何も文句は言えない!ただ……今更のこのこあいつに会いに行く自分の姿を想像すると…恥ずかしいんだよぉ!!!」・初めての客である彼の本音を全て吐き出させることができたと感じた幽太は、ついに決断を下した・「行こう!あんたの同僚のところへ。謝りたかったらそいつに思ってること全部伝えろ。そいつもきっと分かってくれるはずだ」・霊奈も目の前にいるであろう若者幽霊を勇気づけた・「大丈夫よ!私たちもあなたと一緒に行ってあげるから!」」・するとその幽霊は、涙でぐしょぐしょになった顔でようやく笑顔を見せた・「あぁ…そうするよ」・その後幽太と霊奈は、若者幽霊に案内されて、彼が生前働いていた会社にやって来た・幽太は会社の正面玄関から堂々と中に入り、受付の女性に事情を説明したが、全く信じてもらえなかった・挙句の果て不審者扱いされて、無理やり外に追い出された・「チッ、やっぱりこんな話信じてくれるようなやつはいねぇか……」・すると、若者幽霊が反対側の歩道を見て突然声を上げた・「鈴木……!」・反対側の歩道からは、若者幽霊と同年代くらいの若い男が、半袖のワイシャツ姿でこちらに向かって歩いて来ていた・しかし彼には、幽霊となったかつての同僚の姿は視えていなかった・鈴木と呼ばれたその男は、不機嫌な様子で幽太と霊奈をジロリと睨みつけた・「おい、ここは逢い引きしていい場所でもパパ活していい場所でもないぞ。ちちくり合うならよそでやれ」・「ハァ!?」・霊奈はギロリとその男を睨み返した・「俺は今虫の居所が悪いんだ。大学時代からの親友が突然事故で逝っちまったんだからな!」・その言葉に反応する幽太・「俺たちはあんたが言うその親友をここに連れて来たんだが?」・鈴木はますます幽太のことを疑った・「何だと?」・事情を説明する幽太・「俺には昔から幽霊の姿が見えるっつー不思議な力がある。死んだあんたの親友から直接聞いたよ。あんた、こいつと組んでプレゼンを発表しようとしてたんだろ?だけど突然こいつが死んだせいでプレゼンの発表は中止となり、昇進のチャンスを逃したあんたは、自分のことを強く恨んでるだろうって」・すると鈴木は、持っていたコンビニ袋をボトリと落とした・「恨んでなんかいるわけないだろ……!何も知らない部外者が、知ったような口を聞くな!!!」・鈴木のその言葉を聞いて驚く若者幽霊・「あいつは昔から真面目なやつだったから、プレゼンの準備にもいつも全力で取り組んでた。あんないい奴が…突然事故で死んだなんて信じられなかった……!あいつの訃報を聞いた後何度も想像したよ。あいつがあの世で罪悪感に苦しんでたらどうしようかってな!だが、俺はあいつを恨んだことなんて一度もない……!だってあいつは……高木は俺にとって一番の………!!」・そう言って泣き崩れる鈴木を見て、高木も涙を流した・幽太はそんな鈴木の肩に優しく手を置いた・「あんたのその気持ち、俺が責任を持って高木さんに伝える。絶対だ、約束する!」・鈴木は顔を上げて幽太を見た・「誰がそんな話を信じると思ってるんだ?」・しかしそう言った彼は、涙を流しながら空を見上げて笑っていた・その後、事務所開設後の記念すべき最初の客となった高木と最後の挨拶を交わす幽太と霊奈・「本当にありがとうございました。これでもうこの世には何の未練もありません。安心して成仏できそうです。できれば何かお二人にお礼がしたいのですが…」・すると幽太は高木に一つだけ頼み事をした・「じゃああんたの方からその辺の幽霊たちに俺たちのことを宣伝してくれ。事務所の名前は『常闇幽霊相談所』。幽霊の悩み事なら何でも解決する幽霊界の何でも屋だ。新宿駅のすぐ近くにあるから気軽に来れるしな!」・高木はその頼みを快く承諾した・すると霊奈が高木に言った・「せっかくこれで気持ちが軽くなったんだから、成仏する前にもうちょっとこの世界を楽しんでったら?どこか行きたい場所とかやりたいこととかはないの?」・すると高木は気恥ずかしそうにこう言った・「実は僕、少年漫画が昔から大好きで…秋葉原に行ってみたいとはずっと思ってたんですが。仕事が忙しくて生前はなかなか行けてなくて」・幽太の通訳でそれを聞いた霊奈は、急に目を輝かせて漫画の話をし始めた・「えー!高木さん漫画好きなんですか?私も大好きです!今度一緒に漫画について語り合いましょうよ!おすすめの漫画紹介しますよ!」・勝手に盛り上がる霊奈を見て再びジト目になる幽太・(おいおい、そん時お前に通訳するのは俺なんだが……?)・しかし楽しそうに視えない幽霊に話しかける霊奈を見て、不思議と心が温かくなる幽太だった・その後、約束通りスシローで霊奈に夕飯を奢る幽太・「まぁ…回ろうが回るまいが、日本の寿司の美味しさは変わらないわね」・そう言いながらもぐもぐ寿司を食べる霊奈・「さっきは悪かったな…。お前を何度も罵倒して」・突然謝り出す幽太に驚く霊奈・「どうしたの?急に。アニサキスでも食べちゃった?」・「ちげーよ!!」・幽太は話を続けた・「どうやら俺は、お前のことをみくびってたみたいだ。幽霊に対してあそこまで同じ目線で接することができる人間はそうそういない」・すると霊奈も謝った・「私もあなたのことを誤解してたわ。まさかあなたがあそこまで幽霊について物知りだとはね。それで?私は正式に事務所のスタッフとして雇ってもらえるのかしら?今日はあんなにも活躍したんだから当然……」・思わず笑みを浮かべる幽太・「ふっ…そういう偉そうなことは最初の1ヶ月を乗り越えてから言うんだな」・こうして、常闇幽霊相談所はついに本格始動を始めたのだった・その頃、歌舞伎町の夜道を軽い足取りで歩く幽霊の高木・親友の本音が聞けてようやく自分の中のしがらみから解放された気分だった・それはまるで、今にも空の上に昇天してしまいそうなほど気持ち良い気分だった・その時、高木の目の前に異様な雰囲気を漂わせた謎の男が立ちはだかった・「お前……なぜ何も未練がねぇのにこの世界に存在している?」・高木の体に鋭い悪寒が走った・急に自分の中に恐怖が湧き上がってきて、思わず反対方向に駆け出す高木・この恐怖は今までに感じたことがないものだった・事故に遭った瞬間でさえ、ここまで恐怖はしなかった・しかし今自分が感じている恐怖は紛れもなく、死に対する恐怖だった・それも肉体の死ではなく、魂の死・あの謎の男から一刻も早く離れないと、自分という存在自体がこの宇宙から消されてしまう・本能でそう感じた高木・「誰か……助けて……!」・しかしその瞬間、高木という存在は跡形もなく消え去った・夜の歌舞伎町に、人でも霊でもない謎の存在が発する不気味な笑い声が響き渡った

7ラストまでの大まかな展開
幽霊たちが抱える悩みや事件を次々と解決していく幽太と霊奈。そんな中二人は、幽霊界に広まるある噂について耳にする。それは、幽霊たちに恐れられている魂殺し(たまごろし)という異名を持つ謎のの存在に関する噂だった。それがモルスのことだと気づいた幽太は、全ての魂たちを守るべく、モルスに戦いを挑む。モルスの目的は、この世界で暮らす全ての魂の浄化だった。幽太とモルスの戦いは、幽霊界だけでなく、次第に人間界をも巻き込むほどの大規模な事態に発展していくことになる。

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