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ヴィルジニー・デパント(2020)『キングコング・セオリー』の読書感想文

ヴィルジニー・デパント著『キングコング・セオリー』を読んだ。翻訳は相川千尋さんで、2020年に柏書房より出版された本である。

ヴィルジニー・デパント(Virginie Despentes)
1969年、フランス・ナンシー生まれ。現代フランスを代表する女性作家。小説、エッセイの執筆や映画製作、翻訳、歌手活動など多方面で活躍する。パンクロックのライブに通い10代を過ごす。15歳の時に精神病院に入院。1994年に『バカなヤツらは皆殺し』(原書房 刊)で作家デビュー。本書『キングコング・セオリー』でラムダ文学賞(LGBTを扱った優れた文学作品に与えられる賞)、『ヴェルノン・クロニクル』(早川書房)でアナイス・ニン賞など、これまでに10あまりの文学賞を受賞。俗語を多用した口語に近い文体で、社会から排除された人々や、現代に生きる女性たちの姿を描く。シャルリー・エブド襲撃事件や性的暴行で有罪となったロマン・ポランスキーのセザール賞受賞、BLM運動にいち早く反応し、メディアに寄稿文を投稿するなど、現実社会に向けて常に発信を続ける作家でもある。35歳の時に女性に恋をしたことをきっかけに、レズビアンになったことを公表している。
柏書房より引用

著者の語り口は、率直で力強いが、強引ではない。

売春の体験などが語られるのだが、ガーターベルトにピンヒールという娼婦、女性性の記号を取り入れたところ、男性はごく簡単に寄ってくるようになったという描写に驚く。男は記号を真正面に受け取り、欲情する。本当に、そんなに単純なのか、と。

存在しない女たち』と同様に、女は男の亜種であり、女は永遠の外国人である、と著者は述べる。日本より、はるかに男女平等が進んでいるかのように見えるフランスですら、その程度なのである。

しかし、極東に住むわたしも、フランスのフェミニズム、たとえば、ボーヴォワールの『第二の性』という発見から、ものすごく恩恵を受けている。

もちろん、フェミニズムという思想も、個々のフェミニストも完璧ではない。著者は「フェミニズムは冒険だ」と述べている。その通りで、あからさまな差別や違和感を言語化していくのが今のフェミニズムの流れなのだと思う。それが止まることはないだろう。もちろん、誰も無傷ではいられない。ただ、後戻りはできないだろう。

「昔はよかった。黒人を奴隷にできた時代はよかった」と、今の時代、公に口に出すことはできないし、そこに戻るべきではない。

「昔はよかった。女性を使用人として娼婦として奴隷のように扱えていた時代はよかった」と口に出す人は、まだ少なからずいる。

わたしたちの冒険はこれからも続く。今の人間が朽ち果てたあとも続く。今のわたしが過去の人々に感謝しているように、未来の人たちに感謝してもらえるような生き方をしなければならないと思う。


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