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#映画感想文212『エゴイスト』(2023)

映画『エゴイスト』を映画館で観てきた。

監督が松永大司、脚本が狗飼恭子、主演が鈴木亮平、ほかに宮沢氷魚、阿川佐和子が出演している。2023年製作、120分の日本映画だ。

主人公の浩輔(鈴木亮平)は、14歳で母を亡くして、千葉の田舎町でゲイであることを理由にいじめられて育ち、同級生を見返すかのように、現在は東京でファッション誌の編集者として働いている。高給取りのようで、デザイナーズマンションで暮らし、ウォークインクローゼットにはブランドものの服がずらりと並んでいる。

ゲイの友達との飲み会で、「最近、太っちゃってジムに行くのも億劫で~」と話していると、パーソナルトレーナーをしているという龍太(宮沢氷魚)を紹介され、龍太とのトレーニングが始まる。一緒に過ごしているうちに彼は病弱なお母さん(阿川佐和子)の面倒を見て、生活していることを浩輔は知る。

ウリもしている龍太にとって、金払いのいい浩輔は逃したくない客だった。ただ、徐々に、恋愛感情を抱き始めてしまい、龍太は別れを切り出し、姿を消す。別れがたいと考えていた浩輔は、出会い系サイト?で、龍太を見つけ出し、寄りを戻す。ここまでが前半。

寄りを戻したのち、浩輔は生活費として毎月20万円を渡すから、売春はやめてはどうかと提案する。それを龍太は承諾し、リサイクルの仕事(家庭の廃品回収)と深夜の皿洗いの仕事を始める。母親は働けず、おそらく無年金状態。龍太は生活のために高校中退しており、仕事の選択肢はあまりない。ヤングケアラーであり、大黒柱でもある。龍太は責任感が強く、母親を支え続けていた。そして、浩輔のサポートはあったものの、過労死に追い込まれてしまう。ああ、そうか。最低賃金で長時間での仕事はきついのだ。もちろん、売春も、身体的にも精神的にも負荷が高いが、拘束時間は普通の労働よりは短く済む。浩輔が龍太を愛し、ある種の支配をしたことによって、彼を死に追いやってしまったのだ。

とはいえ、浩輔の方も、ただの会社員である。映画の終盤、彼の貯金の残高は百万円を切っていた。しかし、200円の梨ではなく、1,000円の梨を買うプライドの高さは健在で、生活を切り詰められない。

浩輔にとって、お金とは他人と繋がるために使うものなのだ。お金は支配と被支配の関係を瞬時に作り出す。それは雇用でも、恋愛でも同じことだ。経済的なことを理由に離れられない関係はいくらでもある。それは双方にとって負担感はあるものの、ある種のセーフティーネットにもなる。しかし、日本の生活保護制度がもっと使いやすいものであれば、龍太は高校を卒業してから、就職することだってできただろうし、世帯分離をして、母親が受給することだってできただろう。

愛と経済は切っても切れない。その駆け引きを大人は自然とやれてしまうのだろうけれど、わたしはいまだにうまくできないし、できなくてもいいやとも思っている。お金で誰かに支配されたくないし、誰かを支配したくもないのだ。そのことを久々に思い出したりもした。

阿川佐和子のしわとシミだらけの顔がとてもよかった。そして、鈴木亮平の圧倒的な存在感。表情と佇まいに自然と惹きつけられてしまった。鈴木亮平がいなければ、この映画は成立しなかっただろう、とも思う。彼の代表作のひとつになるのではないだろうか。

映画の本筋ではないのだが、わいわい馬鹿話のできる浩輔の友達の存在がとてもうらやましかった。

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