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#映画感想文298『サン・セバスチャンへ、ようこそ』(2020)

映画『サン・セバスチャンへ、ようこそ(原題:Rifkin's Festival)』(2020)を映画館で観てきた。

監督・脚本はウディ・アレン、出演はウォーレス・ショーン、ジーナ・ガーション、ルイ・ガルレ、エレナ・アナヤ。

2020年製作、88分、スペイン・アメリカ・イタリア合作。

モート・リフキン(ウォーレス・ショーン)は映画批評家で大学の講師をしていた。退職後は映画祭への情熱も失われているのだが、映画プロデューサーの妻に付き添って、スペインの映画祭にやって来る。

どうやら、妻は若いフランスの映画監督と不倫関係にあるようだが、モートには妻をつなぎとめる気力も体力もない。心臓に痛みを感じ、病院に行くと、女性医師に心を奪われて…、という物語が軸にある。

老齢のモートは、スペイン滞在中、いくつもの映画の夢を見る。その映画の中に自分や自分の家族、関係者が入り込んでいる。ゴダールの『勝手にしやがれ』、トリュフォーの『突然炎のごとく』、ルイス・ブニュエルの『皆殺しの天使』などが引用される。

その映画の中で、モートは、小説を書こうとして書けないこと、永遠に未完の傑作を書いていると盛大に周囲から皮肉られる。モートはドストエフスキーのような作品を書きたいと思っているが、ずっと書けずにいて、そのことにフラストレーションを抱えており、そんな自分を責める自分が見せる夢の中に彼はいる。

創作をしたいと思いながら、なかなか取り組めない人にとっては、恐ろしく身につまされる描写である。

ウディ・アレン自身が、映画界の巨匠の域に達した映画をまだ撮ることができていないという焦燥を抱えている、というジレンマを描く意図もあったと思われる。(ただ、ウディ・アレンはもう十分に傑作を撮れているから、映画を撮り続けられているのだが…)

そして、『アニー・ホール』で人生は孤独で惨めなものだと言っていたとおり、モートに奇跡は起こらない。妻には捨てられてしまうし、女性の医師は年寄りの自分を相手にはしてくれない。悲しみの中、ニューヨークに戻り、精神科医にスペインでの顛末を語る。

映画の原題は『Rifkin's Festival』、つまり、モート・リフキンの映画祭という意味で、映画の中でいくつもの映画が上映されており、それはさながらウディ・アレンの映画走馬灯であった。

モートの夢の中で、映画評論家としてのおすすめを教えてちょうだいと言われ、日本映画の『忠臣蔵』と『影武者』をあげるのだが、彼のいないところで失笑されてしまう。観客としては、アジアの映画を取り上げてくれてよかったと、なぜかほっとしてしまった。

傑作ではないと思うが、好きな映画である。そして、モートが悲しみと苦しみを癒すためには、書くしかないのだと思う。駄作を書きまくっていくしかない。自分自身と向き合い、一人きりになるのは、モートだけでなく、誰にとっても難しい。でも、それができる人が、何かを残せる人になれるのだろう。

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