見出し画像

宮崎伸治(2020)『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』の読書感想文

宮崎伸治の『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』を読んだ。2020年11月にフォレスト出版から出された本である。出版業界、翻訳業界の暴露本でもある。

Newsweekの印南敦さんの書評を読んで興味を持ち、手に取った。Amazonのレビューも、とても多くて驚いた。それだけ、読み手が知りたいと思うことが書かれた本ということなのだろう。

この本で描かれているのは、資本主義そのもので、結局お金を出すほうが圧倒的に強い、という空しい事実だ。受注する側は弱い、企画を出す側は弱い。買い手が強く、ときに横暴なふるまいをする。

「フリーランスって自由でいいよね」なんて寝言みたいなことを言う人がいるが、フリーランスのほうが会社員より全然大変だ。足元見られるし、組織が守ってくれるわけでもないし。

もし、フリーランスで仕事をするなら、SNSで人気者になっておくこと、副業をすることも大事になってくる。しかし、翻訳作業は膨大で、確認や修正などにものすごく時間がかかるのだろう。収入は少ないのにフルタイムでやっても、おそらく時間が足りない。いわゆる、割の合わない仕事で、やりがい搾取でもある。大学教授で文学翻訳をされている方がいるが、いつやっているのだろう。研究論文はどうしているのだろう、と思う。

著者の宮崎さんは、現在警備員として働かれているらしいが、翻訳教室(翻訳講座)、英語のレッスンなどはできるのではないかと思ったが、おそらくやりたくないのだろう。トラウマと嫌悪感があるとモチベーションなど、上がりようがない。

‎ 2021年12月には、上記の本が出版されているので、書くこと自体が嫌いになったわけではないのだろう、と思う。

いやはや、組織は本当にいい加減で、出入り業者にひどい仕打ちをする。ただ、社員もそれほど特権階級というわけでもないのが悲しいところだ。

(数年前、某大手出版社の社員が全員契約社員で一年更新だという噂を聞いた。真偽不明だが、ありそうな話だと思った。そのような条件だと、本当に出版の仕事をやりたい人だけが残るので、ある種のフィルターにはなる。著名人のご子息ご令嬢が腰掛けをやめるのはよいことだ。ただ、そういう人たちを抱える余裕がない、というのは、やっぱり超ヤバいのかも!)

「個人」のブランディングやブランド化に、わたしは懐疑的だったのだが、今はそうでもない。いろんなところにチャンネルを持っておくことで、自分自身を守ることができる。自分の城を構えておく必要があるのだな、改めて思う。そして、noteやkindleといったプラットフォームを活かして、個人で売っていかないと生き残れそうにない。

一つのことに専念、専心するのはいいことだ。ただ、それが難しければ、いくつでもわらじを履けばいいのだ。お金を引っ張ってくる方法をいくつか編み出しておくことが大事。何か所からも収入を得られる力があれば、それこそがリスクヘッジにもなるのだろう。といっても言うは易し。この道のりもなかなか険しい。

この記事が参加している募集

#読書感想文

188,615件

チップをいただけたら、さらに頑張れそうな気がします(笑)とはいえ、読んでいただけるだけで、ありがたいです。またのご来店をお待ちしております!