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#映画感想文307『ボーはおそれている』(2023)

映画『ボーはおそれている(原題:Beau Is Afraid)』(2023)を映画館で観てきた。

監督・脚本はアリ・アスター、主演はホアキン・フェニックス。

2023年製作、179分、アメリカ映画。

ボー(ホアキン・フェニックス)は、母親の誕生日に帰省することになっているが、すべてが憂鬱。母親に会いたくないとは口にしないが、気が重い様子が見て取れる。

帰省の前日から、ボーの周辺では奇々怪々なことが起こり始め、帰省することができない。そのことを母に伝えると、彼女はひどく不機嫌になり、ボーは狼狽する。

本作は悪夢から悪夢がどんどん連なっていくパニックホラーである。ボーはいつも被害者で対処するだけで精一杯。

単純に解釈すれば、ボーは母親に支配され、母親は息子を支配し続ける。母親は息子の反発すら許さず、従順であることを望み、セックスに対しても抑圧的。

一方のボーは発達障害と強迫性障害を抱えており、うまく生きられず、苦しんでいる。五十近いのに経済的にも精神的にも母親から自立できずにいる。

親をうまく殺せないと、子どもは前に進むことができなくなってしまう。あるとき、子どもは親の無力さと無知に侮蔑的な感情を抱き、親の限界を目の当たりにすることで自立が促される。あるいは、親と自分が異なる世界に住んでいることに気が付くこともある。多少の差はあれど、誰もが経験する過程だ。

親の方も、あるとき、自分の知らない子どもの顔を知り、我が子が別人格であることを理解し、血を分けた他人にすぎないことを思い知る。

そのように親離れ、子離れして、適当な距離を保って付き合った方がいい。しかし、それができない親子もいる。本作では、母親と息子の息の詰まるような関係性が、これでもかと描かれており、憂鬱の連続であった。

わたしは退屈していなかったにも関わらず、「早く終わってくれないかな」と願いながら見ていた。わけがわかっていないボーが逃げ惑うのを三時間も見続けるのは、かなりの苦行であった。そして、夢オチであったらいいなと思ってすらいた。しかし、アリ・アスターが観客を甘やかすことはなかった。

間違いなく映画的な体験ができる。ただ、しんどい思いをしたのは事実で、もう一度見ようとは思わない。アリ・アスターが「みんな、どん底気分になればいいな」とインタビューで答えたとおりの観客になってしまった。

劇中アニメーションが素晴らしく、そこで少しだけ癒された。昨年、公開されていた『オオカミの家』を観に行かなかったことを後悔した。


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