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#映画感想文252『苦い涙』(2022)

映画『苦い涙(原題:Peter von Kant)』(2022)を映画館で観てきた。

監督・脚本はフランソワ・オゾン、出演はドゥニ・メノーシェ、イザベル・アジャーニ、ハリル・ガルビア。

2022年製作、85分、フランス映画。

本作はフランソワ・オゾン監督がドイツのファスビンダー監督の『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』(1972)をリメイクした作品だという。

主人公のピーター・フォン・カント(ドゥニ・メノーシェ)は映画監督で、熊のような巨体だけれど、恋愛体質で失恋したことに落ち込んでいた。そんな彼のところに、ある日、23歳の美しい青年アミール(ハリル・ガルビア)が現れ、彼は一目惚れしてしまう。

アミールは、斎藤工と妻夫木聡を足して二で割ったような人で、愛嬌と色気がある。ピーターは彼にメロメロで、自作にアミールを俳優として出演させたり、家に住まわせたり、小遣いを渡したりしている。ピーターは自分の権力を使ってアミールをものにしようとしたのだから、まったく被害者ではない。ただ、アミールも打算的でずる賢いところがあり、被害者ではない。化かし合いなのだが、ピーターの方がいちいち狼狽する。

惚れた弱みとはよく言ったもので、アミールが離れていくと、ピーターは酒とドラッグに溺れ、旧知の女優や母親、娘を罵倒したり、部屋中の物を壊したり、もうヒステリックに大暴れする。(それに一目惚れって、相手の容姿が全部好きだということだから、嫌いになることがそもそも難しいのだろう)

恋をすると人は愚かになる。

それをフランソワ・オゾン監督は描いているし、映画館では恋の病に苦しむピーターを観客が笑うのだ。恋をしている当事者の苦悩は悲劇だが、外から見れば喜劇になる。

ただ、真正面から恋ができるって、素晴らしいことではないか、という気もした。第三者が滑稽だと嘲笑するのは簡単なことだ。恋をしている当人だけが歓喜に震え、その恍惚感を味わうことができる。失うときには悶え苦しみ、七転八倒する。それは特権でもある。

場面のほとんどはピーターの自宅で地味なのだが、ピーターの感情が乱高下するので、結構、忙しい。

恋を観る側の人生より、恋をする側の人生の方が絶対にいいと思うものの、それをするだけの気力体力がない。若いときから恋愛体質ではなかったので、ちょっとだけピーターが羨ましい。(でも、やっぱり面倒くさいが先立ってしまう笑)

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