フェルミ推定―間違えることを恐れない練習―

 一時期持て囃されたフェルミ推定ですが,最近はあまり聞かなくなったように思います。
 地頭力を鍛えるのに向いているなどと言われていますが,私はこの地頭力というものに対して懐疑的です。仮に地頭力というものがあったとしてフェルミ推定で鍛えられるとも思いません。
 なぜならば,フェルミ推定は練習さえすれば誰にでもできるテクニックだからです。

 一方で,フェルミ推定を授業で取り扱うことには賛成しています。表題にもしましたが,フェルミ推定は間違えることを恐れない練習になるからです
 特に進学校の生徒たちは間違えること,確証が持てないことに対して口をつぐみがちです。未知に対してのアプローチの仕方を知らないのです。フェルミ推定は未知に対しての突破方法を教えてくれます。

 まず,フェルミ推定とはなにかを説明します。
 次にフェルミ推定のやり方を紹介します。
 最後にフェルミ推定の教育的な意義を振り返ります。

フェルミ推定とはなにか

 Wikipediaによると

フェルミ推定(フェルミすいてい、英: Fermi estimate)とは、実際に調査することが難しいような捉えどころのない量を、いくつかの手掛かりを元に論理的に推論し、短時間で概算することである。

とあります。

 ここで重要になるのが,「いくつかの手がかりを元に論理的に推論」するというところです。
 つまり,正確な数値を出すことを目標としているのではなく,論理的で説得力のある説明がなされることが大切なのです。
 もちろん,実際の値とかけ離れた数値が出てきてもいいというものではありません。計算結果が現実にありえない数値になったのならばどこの評価が甘かったのか振り返る必要があります。
 一方で,計算結果が現実の値と近ければいいというものでもありません。計算過程が説得力のあるものでなければならないのです。説得力を増すためにどのような仮定をおけばよいのかを検証し続ける必要があります。

 実際にフェルミ推定を行うときは,大胆に予想すること,間違えることを恐れないことが大切です

フェルミ推定のやり方

フェルミ推定を行う手順は次の 5 ステップです。

1.前提の確認:今から求めたいものはなにかを確認します。
2.アプローチの設定:どのような計算をするか立式します。
3.モデル化:計算式に代入する値を概算します。
4.計算を実行
5.現実性を確認

 アプローチの設定とモデル化を行う際にはどのような数値が使いやすいかを知っておく必要があります。
 以下では,8 種類に分けてよく使う数値をまとめています。

画像1

 それでは例題を解いてみましょう。

例題:日本のコンビニの店舗数を概算せよ。

1.前提の確認
【需要ベース】1 日に何人がコンビニを利用するか求める。
【供給ベース】1 日 1 店舗のコンビニに何人が来店するか求める。

2.アプローチの設定
コンビニ利用者数 ÷ 1 店舗あたりの利用者数 = コンビニ数
という式でコンビニ数を求めることができる。

3.モデル化
【需要人数】
社会人は利用が多いが,老人や乳幼児は利用が少ない。
日本人全体で平均的に 3 日に 1 回コンビニを利用するとする。
【供給人数】
朝・昼は来店者数が多いが,深夜は少ない。
午後 3 時ごろが平均的と仮定して体験的な人数で計算する
1 つの店舗について平均的に 2 分にひとりが来店するとする。

4.計算実行
【需要人数】
日本の人口が 1.2 億人なので,3 日に 1 回コンビニを利用すると,1 日あたり 1.2 億人 ÷ 3 = 4000 万人 が利用している。
【供給人数】
2 分で 1 人来店するなら,1 時間で 30 人,1 日で 720 人が来店する。
【コンビニ数】
よって,4000 万人 ÷ 720人 = 5.6 万店舗

5.現実性の検証
日本フランチャイズチェーン協会によると 2018 年度のコンビニ数は 58340 店舗ですので,現実の数値に近いようです。

 今回はたまたまいい数値になりましたが,モデル化の部分がかなり強引なように思います。より説得力を増すにはどうすればいいでしょうか。
 たとえば,需要人数を年代別に算出する。供給人数を時間帯別に算出するということが考えられます。供給人数に関しては体験的な数値だけでなくピーク時はレジの稼働率が 100 % だとして来店者数を算出するとより説得力が増すと思います。
 大切なこととして,これらの方法で計算し直した結果,現実の数値から離れたとしてもいいのです。なぜなら,上の計算で現実の数値と近かったのはたまたまなのですから,論理的に説得力のある説明の方がフェルミ推定的な考え方だと言えます

教育的な意義

 予想を立ててその内容をプレゼンするということは社会の中では普通のことであると思います。そのときに大切になるのは説得力があるかどうかです。説得力をもたせるためには論理的である必要があります。この論理的であるというのは仮定の部分と計算の部分が明確に分かれているということです。
 フェルミ推定は「論理的である」ということのひとつの型だと考えてください。
 前提の確認 ⇒ アプローチの設定 ⇒ モデル化 ⇒ 計算の実行。この型の中で生徒たちが苦手とするのは「前提の確認」と「モデル化」です。
 普段の勉強においては,問題は提示されているものでありますし,数値は問題文に書かれています。
 特に「モデル化」は致命的に苦手です。「モデル化」でいい数値を選ばなければ,あられもない計算結果になります。つまり,「間違えてしまう」のです。普段から「正しい答え」を出す練習をしている生徒にとって「間違える」ことは相当なストレスのようです。「モデル化」での数値の選び方に明確な正解はありません。経験と勘に頼っています。このことが生徒の苦手につながっているのだと思います。

 月並みな言い方ですが,世の中の大抵のことに論理的な正解はありません。えいやっと勢いをもって対処するべきことが多くあります。そうしたときに固まってしまわないように,上手に間違える,大胆に間違える,説得力を持って間違える。そういう練習としてフェルミ推定をしてみるのはいかがでしょうか。

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