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書きかけの手紙

部屋にある紙類を終活しようと思っている。

とにかく、紙が多い。

もし私がいなくなったら、この紙たちは、ただの紙切れで、

捨てられるだけ。

それならば、自分で決着をつけたい。

あっちこっちから紙を引っ張り出していたら、書きかけの手紙を見つけた。

10年以上経っているだろうか。

大学時代の恩師へ出そうとしていた残暑見舞いの手紙だ。

タイムカプセルのような感じがした。

これと言って何もないたわいのない文章。

海外で住むようになって、率直に感じたこと、

変わり映えのない毎日が見えるようだ。

『残暑お見舞い申し上げます。
〇〇先生、お元気でいらっしゃいますか?
日本の夏もかなり暑いとニュースで聞いています。
ご自愛ください。その後、いかがお過ごしですか?
何か新しい事にチャレンジされているのではありませんか?
最近、こちらの衛星放送で、NHKワールドをずっと見ています。
海外に向けての日本の放送ですから、
最新の情報やら日本の伝統やら、とても充実した内容で、
改めて日本を見直しています。
その中で、いつも感心するのは、
”日本人の自己向上心”と
伝統職人、伝統芸能などなど、若い世代に絶対に受け継いでもらいたい
日本の技。
メイドインジャパンの凄さです。
どんどんと中国や韓国に追い抜かれてしまう産業界。
今でこそ、”日本製”の素晴らしさを、もう一度世界に知らせることが
必要です。
そして、もう一点。戦争反対、兵器廃絶、原爆廃絶。
原爆の被爆者が残っているうちに、
日本が世界に発信していくことはたくさんあると思います。
アピールすることが苦手な日本人。
控えめは、日本の美徳であるけれども、
出る時は出ないと伝わらない。
日本という国は、世界がもっと注目していい大切な要素を
いっぱい持っている国だと思います。
悲しい、情けない事件が日本で頻発している今だから、
よけいに”良き日本”を想います。
”頑張れ!日本”です。

断食月になりました。
平和であることを願い、食べ物があることに感謝し、
より深い信仰心を確かめる月です。
そして、貧しい人々には、施しをたくさんし、
良い行いをし、祈る時間を多く持ちます。
イスラム教たちは、この月が大好きです。』

手紙は、ここで終わっていました。

宛先の恩師の先生も、亡くなってしまった今、

行き場のなくなった手紙。

自身の手で消滅させよう。


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