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私の仕事~支援するということ~

朝一番、相談に来た男性は、無精ひげを生やし、薄汚れた上下のスウェットに、ボロボロのスポーツバッグと紙袋を持っていた。
靴は履き古したサンダルだった。
住むところもなく、公園で寝泊まりをしていたという。
手持ち金も尽き、頼る友人もなく、食べるに事欠いた状態だった。

椅子に座ると、ボツボツと、男性は話し始めた。

友人とともにIT系会社を経営し、順風満帆であったが、
リーマン・ショックのあおりを受けて倒産。
この時、友人からの裏切りを受け借金を背負わされることとなる。
これまでの暮らしは一変したが、
「こんなことぐらいで負けるものか、今にみていろ」と自身を奮い立たせてしのいだ。
しかしそのうちに生活費にも事欠き、アルバイトをしながら日々を暮らすのが精いっぱいになった。
運悪く体調不良となり、バイト先でのプライドの高さも相まって失職へ。
家賃が払えなくなり、ネットカフェで夜を過ごしていたが、すぐに利用料も払えなくなった。
そうしていくつかの公園を転々とし、現在に至ったのだった。


私は相談員として、ただ男性の話を静かに聴いていた。

「そうでしたか」「ご自身の力でなんとかしようと頑張られたのですね」

まともに睡眠や栄養を摂っていないからであろう。男性の目はうつろであった。

最後に男性は、体調さえ整えば働きたいのだと言った。その時の目は真剣そのもので、強い意思を感じた。

結局、男性は自立支援センター(路上生活者のための支援施設)を利用し、仕事を見つけるという選択をした。

数か月が過ぎた。

たまたま自立支援センターの担当者と話をする機会があった。なんでもその男性から私へ伝言があるのだという。

「あの時はただ話を聴いてくれて感謝している。どうして自分のような赤の他人の話を、あんなに親身になって聞いてくれたのか、自分は本当に不思議だった。そして自立支援センターの支援員も同じように、自分に寄り添ってくれた。自分は『これが福祉の仕事なのだ』と気づき、興味がわき、福祉の仕事を目指そうと思うようになった。きっかけをくれてありがとう」

私にとって思いがけないことであった。
男性からのメッセージは、私への大きなプレゼントだと思った。目頭が少し熱くなった。

支援というものに正解はない。
あの時に、ただ聴いていた私の支援が、いいのかどうかなんて、もはやどうでもいいことなのだ。
ただ、
一人の人の生活が、少しでも良いものになることを信じて、
その人に向き合うこと。それが私の仕事なのだと思う。

#私の仕事

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