【特集記事公開】めぐる、7号/思い出の服に、捨てないという選択肢を
オーダールーム アルテサーナの高橋良江さん
もう一度着てもらうことに価値がある
サイズが合わず着られなくなった服や、母から受け継いだ着物……。愛着がある服のリフォームを提案する『アルテサーナ』では、裾上げなどの簡単なものから、和服を洋服に作り変えるような仕立て直しまで幅広く対応している。
店を切り盛りする高橋良江さんは、針子として30年以上洋裁に携わってきた。営業時間中は採寸や共に仕事をするお針子さんへの指示出し、閉店後は店奥の作業場で縫製を行うこともしばしばあるという。
この日は徳島市内に住む西本さんがジャケットを持って来店。30代の働き盛りの男性で、幅詰めの依頼をよくするのだそう。「服の知識量が豊富でクオリティーが高い。ミリ単位の細かな要望を聞いてくれるので安心して任せられます」と、信頼を寄せている。丸帯の仕立て直しにやってきた井上さんは、以前に母親からもらった紋付きの喪服を普段着にできないか相談したことがあるという。
着物は黒いスカートやポーチへ、帯はかばんやワンピースの一部に、帯締めはかばんの持ち手へと生まれ変わった。「母の想いが詰まった喪服をたんすの肥やしにしてしまうのはつらいと思っていました。普段使いできるものに作り直してもらって、日々の中で母を感じられるようになったことがうれしいです」と井上さんは目を細める。
「直す立場として、着たいと思ってもらえるような服にすることを大切に思っています」と、凛とした表情で話す高橋さん。今後本当に着るのかどうかをしっかりヒアリングしたうえで依頼を受けるようにしている。特に仕立て直しの依頼では、採寸から仕上がりまでの間に、デザインや使う生地などを何度もお客さんと相談する。「思い入れのある服を直すということは、お客様の思い出にもふれるということ。人生の一部に携われることは何よりの喜びです」と、高橋さんは顔をほころばせた。