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[ショートショート]しかし、死んでゆきます

アーサー・コナン・ドイルは知っているかい?

じゃあ、シャーロック・ホームズは?

じゃあ、彼が住んでいた下宿の住所は?


筋肉少女帯が好きだった。

クラスの子たちは今どきのバンドやら曲やらを聞いていたけど

アングラな僕は大槻ケンヂの紡ぐ世界が大好きだった。

最後の聖戦、221B戦記は、泣いた。


ある人はQEENかも知れない。

ある人はROCKかも知れない。


母さんの影響で、僕はいわゆるヴィジュアル系バンドにハマった。

それもちょうど、母さんが聴いていた時代のヴィジュアル系。

その中に、変な名前のバンドがあった。

それが筋肉少女帯。

僕の人生の総てといっても過言ではないくらい、僕に衝撃を与えた。


さほど裕福ではない家庭ではあったけど、母さんがフライングVのギターを誕生日プレゼントと買ってくれた。


月の光とともに、アンプを通さず鳴り響くギター。

月の光は静かに、弦を照らす。


それから6年。

僕のつくったミクスチャーバンド「あぶら」はいくつかのアルバムを出したし、ライブで箱を溢れさせるくらいまでになった。

「俺の歌声は、天使の歌声だぜ?ゴスペルなめんな!」

いつも仲良くしてくれるボーカルは、本気で歌で世界を救うつもりでいた。


だけど、もうお遊びは終わり。

母さんを少しでも楽にさせてあげたくて、僕は高校卒業とともに就職を考えていた。

学校の帰り、バンドを解散することを話し始めると、

「まぁ。ノゾミが決めたことなら仕方ないじゃん。てか就職するって初めて聞いたんだけど。なんで隠してわけ?」

と意外にも笑顔で返してくれた。

勝手ながら、怒られると思っていたからだ。


信号が赤になる。


雑踏に紛れて他愛もない話しが続く。


「あのさ。ずっと言えなかったんだけど」


ドンっという衝撃で僕の体は吹き飛んだ。

車?突っ込んできた?

ゆっくりとスローモーションで世界が回る。

これって脳内ホルモンが分泌されて生き残るために思考を加速させているって聞いたことがある。

というか。こんなことを考えたいんじゃなくて!アイツに言わなきゃならないのに、このまま言えないのは嫌だ。

「僕は君に会えてよかった」

誰とも馴染めず、浮いていて、友達らしい友達なんていなくて。

ずっと一人ぼっちだった僕に君は話しかけてくれた。

「どんな曲、聞いてんの?」

ノゾミのなくならない世界。筋肉少女帯。

「ふーん。筋肉少女帯?なにそれ?初めてきいたよ」


家では母さんと二人だったし、学校では一人だったし。

ずっとそれでいいと思ってた。

でも、君が僕に友達という概念を作ってくれたんだ。


ありがとう。


大好きだよ。君が。


体に二度目の衝撃が走る。

こんなにいい天気の日にいけるのか・・・

母さんは僕がいなくなったら、悲しむかな?

君はどうだろう?

僕のために泣いてくれるかい?


君と一緒にバンドを続けてもよかったかもね。

しかし、僕は死んでゆきます。


ああ、だけど、最後のお願い。

君の歌声で、僕は天使になりたい。

だから泣かないで。

これが最後のお願い。


世界が5100度の炎に巻かれないように。


僕の名前と同じく、ノゾミをかなえてください。


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