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奥川恭伸~復活への軌跡

はじめに

ついにこの日がやってきました。
暁めぐりです。
2021年、2年目にしてシーズンを駆け抜け、日本一の立役者となった奥川恭伸。
記憶に新しいCS初戦の史上最年少完封勝利、日本シリーズでの山本由伸との投げ合い…
待ち望まれた新星が今日、2年と2ヶ月振りに一軍での登板を迎えました。
この記事では、「あの日」から2年を超える復帰への軌跡を、スタッツと当時のニュースから振り返ります。
最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

※記事に何かあればこちらまで
https://twitter.com/Meguri_Akatsuki


2021と「あの日」

奥川恭伸の2021年の投球がどんなものだったか。スタッツを振り返ってみます。

奥川恭伸2021 主なスタッツ

この年、小川とともにチームトップの9勝をあげた奥川。
球速/奪三振率は高橋奎二やサイスニードと同水準でしたが、特筆すべきは四球スタッツ。K/BBの値は60イニング以上投げた先発投手でダントツでの両リーグトップBB/9は0.86、つまり9イニングで1個以下の計算で、これも両リーグトップでした。

ここに奪三振能力が加わり、素晴らしい投球を実現しました。
FIPはセ・リーグ先発投手で4位となる2.89を記録。まさにエース級の働きでした。

2022年もOP戦から好調でした。
最終戦では5回6奪三振で自責0。得意の制球で見逃し三振を量産し、前年よりも凄みが増した感もありました。

そして迎えた「あの日」ホーム開幕戦、奥川は4回わずか53球でマウンドを降りました。原因は右ひじの違和感

当初、次回登板は予定通りとされましたが、そこから約1年、奥川恭伸の実戦投球を見ることは叶いませんでした。
同年11月にはトミー・ジョン手術をしないとの報道。

この時点でブルペン投球はできていたようで、選択した治療法のなかでは、順調な回復ぶりだったのかなと。
目指すは2023シーズン中の復帰。日本一奪還への起爆剤に、という希望を抱かせた2023年の初めでした…

2023のファーム戦績と再離脱

背番号が18に変わったこの年は春季キャンプも二軍から。ブルペンにも入るなど、上々のスタートを切りました。

春、チームが投手陣の覚醒確変で沸くなか、4/18のイースタンロッテ戦にて385日ぶりの実戦復帰
1イニングを9球で三者凡退、直球は最速151キロを計測。怪我明けで球速が落ちる投手も多い中、同じような球速帯で帰ってきてくれました

その後は球数を増やしつつファームで登板を重ねます
6月までに7試合に登板。

奥川恭伸2023(前半) ファーム戦績

30球、50球、70球と順調にクリアし、6/13には100球目安をクリア。同日、最速154キロを叩き出しました。
登板後のコメントでは、

ボールの使い方、配球の部分が得点圏でうまくいかなかった。そういう反省が出てきて、すごく野球をやっている感じがする。(中略)試合で100球をこなせますよというアピールはできた。あとは首脳陣の方が今日の結果や内容をどう捉えるか。(1軍に)いきたい気持ちは強い

ヤクルト・奥川恭伸、1軍復帰に向けて「あとは首脳陣の方が今日の結果をどう捉えるか」

と順調ぶりをアピール。一軍が5月に8連敗、6月に7連敗を記録してリーグ3連覇が絶望的となるなか、明るいニュースとなりました。

ただ、登板結果から分かるように、調子自体は良くなかったようです。
例えば6/13の試合、ストレートでの空振りはなく、ストライク率は50%
球数、被安打、四死球なども本来の状態ではなかったことがわかります。

6/27の登板では5回途中8安打6失点と苦労しましたが、試合後の小野寺コーチのコメントでは、

いい勉強でした。今日はブルペンもあんまりよくなくて、その中でどうしていくか。次への課題も見つかったし、一つまた違う抑え方も見えてきた部分はある。本人は悔しがっていました。チェンジアップで奥行き使ったりとか今まではあまりなかった。早い球速の球が多かったが、チェンジアップの必要性も感じられた。そういうところは試合じゃないとなかなか感じられないのでよかった。

ヤクルト・奥川恭伸「自分の引き出しを増やせるように」

と、あとは内容だけ、身体の状態は万全そうでした。

因みにこの試合では当時楽天にいた西川遥輝が奥川からホームラン。まさかスワローズに来るとは、この時は想像すらしていませんでしたね…

このように、内容さえ良ければ一軍での登板も見えてきた奥川。しかし、7/4の練習中に左足首を骨折

シーズン中の復帰は絶望的となり、秋の実践復帰を目指すことになりました。

2023秋~期待と不安と

当初、フェニックスリーグでの復帰が予想されていましたが、予定より早くファーム最終戦で実戦復帰。

1回11球、2奪三振で三者凡退ストレート、スライダー、カーブで空振りをとるなど内容も上々。
フェニックスリーグのメンバーに名を連ね登板が期待されました。
が、フェニックスでは登板なしで帰京。
のちの記事では

本調子ではない中で投球していたためバランスを崩し、上半身のコンディション不良で帰京した

ヤクルト・奥川恭伸「上半身に負けないぐらいの強い下半身を作る」

とのこと。秋季松山キャンプには無事参加。四国IL・愛媛戦に登板して最速154キロ、3回をパーフェクト投球でした。

球数も3回22球とらしさを見せました。
この年の実戦登板はこれが最後。年始には能登半島地震で被災するなど激動のオフを送りました。
オフのトレーニングなどのインタビューがこちら

下半身のトレーニングとストレートのスピン量の話が面白いです。

2024~完全復活へむけて

2024年のキャンプは一軍スタート。
2/13にライブBPに登板すると、18日に中日との練習試合で初実戦。
星稜の後輩、内山壮真とバッテリーを組んで2回無失点でした。
その時のスタッツがこちら。

2024 2/18 中日戦 奥川恭伸スタッツ

直球の平均は146キロと2021と同水準で、ストライク率79%を記録。2月の初実戦としては完璧、2023のファームよりもかなり良かったです。

ただ、その後コンディション不良でキャンプを離脱。

1か月半後の3月下旬にブルペン投球を再開、4/20に実戦復帰し、2023年と同じような復帰プログラムに戻りました。
4/27には50球をクリア。

ここからはロングイニングを投げた5/6からの登板をスタッツとともに振り返ります。

5/6 巨人戦

2024 5/6巨人戦 奥川恭伸スタッツ
(ムービングはカットボール)

この日は7回2安打1失点、四死球1の3奪三振でした。
ストレート平均147キロとほぼ2021年の水準に戻り、ストライク率も74%を記録空振り率も8%と、2023年の復帰以来最高の出来
目安の70球を消化しきることなく68球で7回を投げ切る圧巻の投球でした。

5/17 日本ハム戦

2024 5/17巨人戦 奥川恭伸スタッツ

5回93球8安打7失点1四球で降板。
状態の悪い中目安の100球付近に到達。
ストレートのスタッツこそ落としましたが、ここまで実戦で空振りのなかったフォークで2つ、空振りを奪いました

5/26 西武戦

2024 5/26西武戦 奥川恭伸スタッツ

7回100球5安打2失点4四死球のHQSを記録。
ストレート平均146キロ、空振り率5%と2021年に準ずるスタッツ。この日はスライダーが冴え渡り、空振り率26%、2奪三振

一軍野手の苦しむ西武戦とはいえ順調に仕上がっています。2023年の今頃と比較しても、状態は良さそうでした。

6/6 オイシックス戦

2024 6/6オイシックス戦 奥川恭伸スタッツ

50が目安のなか、4回途中48球2失点で降板。
イニング少ないですが、ストレートは平均148キロと復帰後最高を記録。ストライク率も86%とほぼゾーン内で勝負しています。
カーブを多投するなど「調整」として色々試してたのかなと。
この登板の直後、一軍登板の可能性が報じられ、6/13、正式に予告先発が発表されました。

3イニング以上投げた4試合の成績がこちら。

奥川恭伸 ファーム4試合(3イニング以上)のスタッツ

総合成績
被打率.209
奪三振率4.37、K/BB2.75WHIP0.97
ストレート平均146キロ、空振り率5%

直球の出力は戻ってますし、ストライク先行の投球にもなっています。
ファームの成績をどう扱うか難しいですが、今季一軍初先発で好投した山野太一の成績も同じくらいでした。

間違いなく昨年のこの時期より状態はいいと思いますし、あとは本人の調子次第。
日本シリーズでオリ・山本由伸と投げ合った京セラドームで、約2年の時を超えて遂に、スワローズの新星が帰ってきます!!!!

復帰登板スタッツと奥川への期待

復帰初戦、奥川恭伸は5回1失点で降板。
なんとか逃げ切って3シーズン振りの勝利を手にしました!!!!
インタビューでのくしゃくしゃの顔に、この2年間の想いが詰まってましたね

スタッツはこんな感じ。

奥川恭伸2024 6/14オリックス戦スタッツ

ストレートは平均148キロで、2021年同様の出力で復帰
肘の怪我と考えれば本当に良かったなあと。空振りはなかったものの、ストライク率65%とカウントに苦しむことはなかったですね。

スライダーは圧巻の空振り率25%。左打者の内、右の外にきっちり制球される素晴らしいボールでした。
カーブでカウントを整えるシーンもあって、ファームでやってきたことの集大成となるような投球。

無四球で1失点にまとめたのは本当に流石としか言いようがなかったですね。
もう戸田には戻らないぞ、というような決意さえ感じました。

今後のことを少しだけ、言うのであれば…
ストレートでしょうか。
復帰戦の投球分布がこんな感じです。

奥川恭伸2024 6/14オリックス戦
ストレート投球分布

初回に少し荒れたのもありますが、意図せず抜け気味になったり、真ん中に入ったりするシーンもありました。
空振りもそうですが、この辺りは一軍登板を重ねながら徐々に戻していけたらなと。

ポテンシャル的にはまだまだ良くなると思いますし、今後の投球を楽しみに見たいですね

奥川恭伸への想い~おわりにかえて

2年前の2021年、新エースの誕生に夢を見たスワローズ。あれから去年まで、スワローズのエースの座は小川泰弘が守り続けました。

今季は小川も離脱し、その座に最も近い吉村貢司郎は次のステージを目前にもがき、高橋奎二も掴みきれずに現在に至っています。

2年の時を超えて、そのスタートラインに戻ってきた奥川恭伸。まだ23歳の大卒の年齢。過去は変わらないけれど、「いまここから」再び上を目指せる、その舞台に還ってきたことを本当に嬉しく思っています

まだ1試合投げただけ、これから抑えたり、打たれたり、いろんなことがあるでしょう。エースという肩書は近いようで遠い、それは吉村貢司郎を見ていてよくよく分かっているつもりです。

だからこそ、
どうかこれからもスワローズファンの希望であってほしい。そしていつの日か、エースと呼ばれる投手になってほしい。
それが奥川恭伸の宿命だと、そう思うから。

参考文献

『ヤクルト・奥川が4回1失点、わずか53球で降板 高津監督「今は何とも言えない。次回は予定通り」』2022年3月29日 スポニチアネックス

『ヤクルト・奥川、右肘の手術回避 保存療法で来季中の復帰目指す』2022年11月3日 スポニチアネックス

『ヤクルト・奥川恭伸が385日ぶりの実戦で1回三者凡退「思ったよりもうまく投げることができた」最速151キロ計測』2023年4月18日 サンスポ

『ヤクルト・奥川恭伸、1軍復帰に向けて「あとは首脳陣の方が今日の結果をどう捉えるか」2軍で実戦復帰後6度目の登板』2023年6月13日 サンスポ

『ヤクルト・奥川恭伸「自分の引き出しを増やせるように」 7度目登板で五回途中6失点ながら収穫も』2023年6月27日 サンスポ

『ヤクルト・奥川恭伸、次回登板8月中旬以降に 4日に左足首痛め…』2023年7月7日 サンスポ

『ヤクルト・奥川恭伸がイースタン・リーグ、日本ハム戦で実戦復帰! 11球で1回をパーフェクト投球』2023年10月1日 サンスポ

『ヤクルト・奥川恭伸、四国IL・愛媛との練習試合で3回をパーフェクト投球!最速は154キロマーク』2023年11月11日 サンスポ

『【大型インタビュー】ヤクルト・奥川恭伸、日本一を「もう一度」 故郷・石川に「投げる姿を届けたい」』2024年2月6日 サンスポ

『ヤクルト・奥川恭伸、痛めた箇所は肩肘ではなく大事を取って検査』2024年2月25日 サンスポ

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