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奄美大島逃亡記 vol.1

奄美大島に来た。


正確には、奄美大島へ逃げてきた、と言った方が良いかもしれない。


1月、生きてきた中で最も悲しくて辛い出来事があった。

大切な存在を失くすことが、世界に絶望を感じることなのだと知ったのは、24年の人生で初めての経験だった。

嫌な出来事は、この社会で生きていると往々にして起きるけれど、なんだかんだわたしは快眠族なので眠れなかった夜はないし、目を覚ましたくない朝が来たこともなかった。(忘れているだけかもしれないけれど)

涙が止まらず、眠ることができなかったのはこれが初めてだった。

この時期は、良くも悪くも仕事が忙しかったので気を紛らわせられた。だけどふとした時に我にかえり、やり場のない感情が溢れてくることは防ぐことができなかった。(泣きながら社外との会議に出席した日もあった)



2月、同じくらい悲しくて辛い出来事が起きた。

また大切な存在を失ってしまった。
同じくらい、と比較するのは失礼なのかもしれないけれど、私にとってはどちらも心から大切な存在で、代わりはいない。

私がこれから年齢を重ねていったとしても、そしてどんなに自分で誇れる"成功"を手にしたとしても、一生それを話すことはできないし、その身体の温もりに触れることができないのだと思うと、どうしても辛かった。

だけど、この時期も大きな仕事が立て込んでいたので、感傷に浸る暇はなかった。


そうやって、割れそうな状態でフリーズした心や感情をごまかして過ごしていたある日、映画「クローズZERO」でめちゃくちゃ喧嘩をした後のように、なぜか目がめちゃくちゃ腫れた。これはきっとストレスと、泣きすぎて擦っていたからだと思う。

自分には大丈夫と言い聞かせて、周りにも気丈に見せていたけれど、この時、知らぬ間に身体が悲鳴を上げていたことを知り、心と身体は連動していることを実感した。

島、到着

慣れない車を走らせる。前に運転したのは2年前の石垣島だったっけ。

「奄美に行く」と信頼する先輩に伝えたら、真っ先に心配されたのが運転だった。

それで、4月のはじめに河口湖までドライブ講習を開いてくれたのだ。そんな優しい愛に見送られ、海沿いを運転している。


昔から私が何より好んできたリフレッシュ方法は、大自然に囲まれること。


あぁ、なんて気持ち良いんだろう。


初日の今日は、着いた途端に雨が止んだ。ほんの些細なことでラッキーだと思えるのは、自分の良いところだと感じる。

午後に到着したので、おやつがてらジェラートを食す。

お店のお姉さんに、奄美ならではのフレーバーを聞いたら、真塩(マシュ)、奄美黒糖をおすすめいただいた。パッションフルーツ味も追加して、豪華にトリプルにしよう。


ひと休みしたところで、少しお散歩。ハートロックは干潮時付近でないときれいに見られないと聞いていた。今は14時すぎ、ちょうど良い。

"ハートロック"だなんて、人間の主観で自然が生み出したものに名前をつける文化はつくづく面白い。「いとをかし」な営みを繰り返すのが、人間という生き物の性なのだろう。


次に訪れたのは、大島紬の工房。どうやら大島紬なるものは、奄美の文化を学ぶには、見ておいた方が良いらしい。泥染という技法は、草木だけでなく泥でも色をつけられるのかと新鮮だった。

大島紬は、後から布を染めるのではなく、折る前にとても細かく製図をして、最終的に機織りをしたときに柄がうまく出るように糸を染める前染式とのこと。着物を織るのに、糸を染めるところから数えて1年かかるそう。職人が手間ひまをかけてできた紬は、かなりお高くつくが、妥当もしくはもっと値段がしても良いと感じた。

この工房周辺には奄美ならではの植物が自生していて、見応えがあった。トトロごっこができるほど大きな葉っぱや、たった1日で花がしぼんでしまうハイビスカス、THE BOOMの歌に登場するデイゴなど、歩いているだけで賑やかで楽しかった。


また車を走らせ、ひさ倉の鶏飯を胃袋に駆け込む。食べてみたかった名物料理、やはり絶品だった。どうやらわたしと同じような一人旅の民がちらほらいる。みんな豊かな自然を欲しているんだろうか。


途中、充電コードを忘れたことに気がつき、ファミリーマートへ寄った。駐車場はけっこう空いている。隣の車にぶつけないで済むため、心なしかほっとする初心者ぶり。
(でも、半ドアのランプが点灯してたり、フットブレーキかけたまま走りだしたりしたので、冷静に今思うとひどかった)


ドミトリー近くの駐車場の住所を地図に入力。ここからは30分強、もう少しで宿だ。

奄美大島は、トンネルが多い。山を切り拓いているから仕方ないのだろうと思うものの、乱視っぽいわたしの目にとっては道が見えづらかった。世の中のメガネ・コンタクト勢は大丈夫なのか?と疑問に思う。

目印の銀行をうっかり過ぎそうになったけど、無事に到着。1日目、安全運転を徹底できた。


予約した宿は1人部屋ではないはずだったのだけど、お姉さんによると今日明日は他にだれも来ないとのこと。なんと広々した空間がまるっと貸切!ラッキーだなぁ。

夜ごはんまでにお腹を空かすべく、てくてく散歩へ。風が強くなってきた。観光客は少なく、地元の方の普段の暮らしぶりを見ることができた。これはいつものことだけど、その土地ごとのスーパーでどんな品が人気なのかはチェックしておきたい。

ご当地名物発見。「ひっきゃげ」と「あずきがゆ」。ちょっと気になる。


そして、奄美大島はチェーン店でなくとも想像以上にキャッシュレス化が進んでてびっくりした。ここまで営業しにきたのだろうか?と気になる。


今日はどこで夜を過ごそうか、と歩いていたら、島唄が聴こえてくるお店があった。どうやら人は少なそう。1人でも気楽にいられるかも。せっかくなので奄美大島の郷土料理を堪能したいと思い、「かめ」というお店ののれんをくぐった。

伝統コースなるものが3,000円。奄美の焼酎も含まれた飲み放題が1,000円で追加できた。とびんにゃ(巻貝の塩煮)、もずく酢、ピーナッツ豆腐、豚足と島野菜煮などなど…… すべての料理が、とびっきり美味しかった。

どうやら親子で店を切り盛りしているそうで、わたしがもぐもぐゆっくり食べる中どんどん料理が運ばれてくるもんだから、息子さんは「料理を持ってくるペース早くてごめんなさい…」と謝ってくれて、共に笑った。そんなこんなしてるうちに、お店も賑わってきた。


宿に戻り、写真を整理する。

オードリーの若林くんが前に著書の中で言っていたフレーズを思い出した。

"人間は欲張りな生き物だ。安定と安全を求めるくせに、それに飽きると不安定と危険が恋しくなる。死にたくないけど生きてるって実感したい。たまには瞳孔が開くことでもないとやってられないのである。" ー 表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬 (2017)


明日はマングローブと奄美大島の生き物たちに会いに行く。


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