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体験レポ兼備忘録 六日目

おはようございます。
朝七時前。もうすでに今日予定されていた採血が終わった。寝ぼけまなこのうちにススッと採っていく。皆さん上手だ。(入院当時記録していたものを編集して後日投稿しております)

毎朝、喘息の吸入をする。入院していてもそれは欠かせない。しかし肺炎になったからなのか、何故か分からないが未だかつて無いくらいに咳き込む。立っていられなくなってしゃがんで咳をしまくる。

昨夜から大部屋になったから私一人の洗面台ではないし、なるべくスムーズに吸入を済ませたい。吸入する際は予備うがい、吸ったあとのシッカリうがいをしなければ口内にカビがはえてしまうが、そのうがいが咳き込みつらかった。
大部屋ではさすがに咳き込みはマシに吸入を終えたいと思ったので、おちびが作ってくれたハートに折られた特製お守りを握って洗面台に向かう。

咳き込まずに吸入終わった。
お守りパワーすごー!と浮かれていたらポトッとお守りを床に落っことしてしまい少しへこんだ。お守りをパタパタとはたいてゴメンネと心の中で謝る。

この日の朝はちよっとソワソワした。昨夜話しただけの向かいのベットのおばあちゃんがもう退院してしまうのだ。もう、と言ってもおばあちゃんは二月から入院していたのでやっと退院できる、そんな気分なんだろうな。
耳が遠いけど、物静かで。食事も作ってくれた人の事を考えたら残せないから頑張って時間かかるけど食べるの、という品のいいおばあちゃんだ。好きなタイプの人。
九時半頃に妹さんとその旦那様とみられる二人がおばあちゃんを迎えに来た。やっぱり年が離れてるよな、と思った。何故かと言うと昨夜お話した時におばあちゃんは長崎にいて二歳で被爆してね、と言ってらしたからだ。なんとなく、年子とかじゃなくて年が離れてるのかな、と思ったのだ。年子とかの可能性だって別にあるんだけど、年子だったら妹さんも赤ん坊時に被爆してるであろうとか色々考えていて、戦争が少し落ち着いてから生まれた妹さんなのかなあと想像していたのだ。単に想像。
お迎えにやってきたのは何歳くらいか分からないけどキラキラする黒のトップスを着ているとても元気そうな女性。やはり全然お若い。旦那様も来ていてなんかめちゃお洒落した人だった。私が顔を出したら妹さんが挨拶してくれて。おばあちゃんにもバイバイと手を振った。もう会えない。まあ、病院だしお互いもう会わないくらいが健康的なんだろう。元気でいてね、おばあちゃん。

おばあちゃんのいたスペースは職員さんが素早く掃除しに来て、ぽっかりとした空間ができた。
と、思ったら新しい人が入ってきた。
凄いな、病院のベッドの回転の早さよ。

新しく来た人はこの辺に住んでる人らしい。「大阪も大阪やで!」と自慢げに言うおばちゃん、私は一抹の不安を抱く。
しようと思ってしてるんじゃないけどおばさん観察をしていたら昼食が来たので私も食べる。新しいおばちゃんはどうも少ししか食べなかったようだ。カーテンで見えないけど音で大体把握出来る。
「……もしもし?……うん、ご飯?あかんわ、病院のん美味しくないもん。……うん、あれや、家からなんか持ってきて。あとな、寒いから貼るカイロ。」
電話を掛けて家族であろう誰かに頼んでいる。やっぱり病院食嫌いタイプなのか。まあ、私だって辛くないわけじゃない。おやつだって出ないもんな。朝昼夕、不味くはない、不味くはないけど夫の作ったご飯が恋しいし。でも病院的にこれを食べてね、と栄養も考えて出してくれてるものだから苦手なもの以外は食べてる。少食なので完食することはなかなかできないけれど。

しばらくしたら電話であれこれ頼まれた娘さんがやってきた。
「お母ちゃんこれな、カイロと、アンカは?アンカいる?いらん?これ羽織っときや」
羽織ものを持ってきてくれたのだ、さすが娘さん、気が利くな。
「あと、他はゼリーとか、持ってきたで。なあ、美味しくないもんな病院のん。なんでもいいから食べれるもん食べなあかんで、ほら、プリン。栄養あるからな、食べ」
プリンって栄養あったっけ?と斜め上を見つつ考えながら、何年か前便秘が酷すぎて絶食したことを思い出す。食べていいのは少しのゼリーとか少しのプリンとかで、まともに食事っぽいうどんを食べた時は感動したのを覚えてるから、全然食べないことを考えたらプリンも栄養なのだろう。

主治医の先生が来られた。
入院後のレントゲンがどんなだったかを説明してくれた。肺の炎症は綺麗になっていたそうだ。よかった。

そしてこの夜、私に悲劇がふりかかる。これは大袈裟な言い方をしてると思うが。
新しく来た大阪のおばちゃん。
テレビをイヤホン付けずに流している。そういえば娘さんが来てらした時のこと。
「お母ちゃん、テレビな、イヤホンつけなあかんねんで。……でもなあ、イヤホン耳に悪いねんなあ……」
そこォ!?気にするところ!!
周囲への配慮<母の耳の心配。
色んな人がいるなあ、ほんと。

という訳でおばちゃんはテレビを大きな音で流している。
まあね、それはいいよ。いいよっていうのも変?いや同室なんだし変じゃないよね?別に上から目線とかで見てるんじゃないよ。
夕方番組とか、やっているようだ。そんなこんなで過ごしていた。聞き慣れた刑事ドラマの音楽と「この後九時から!」という声。
わーーーーっ!このままテレビ付けっぱなしだったら!
先週の回、しんどくて見てないのに音だけでネタバレリアルタイムされてしまう!
あたふたとする私。
それでもまだ別におばちゃんは悪くないんやで。先週のを見てないのも、録画してみんなで揃って見ようってなってる私がいるだけで。
ティッシュをギュッギュッとして両耳に入れてみた。何の遮音にもならない。
テレビを見る人向けにデスクの引き出しに片耳のイヤホンが入れられてた。ガサガサ漁って取り出し適当も適当にサブスクの音楽アプリでとりあえず何か流す。でも片耳だから、どうしてもテレビの音が聞こえてしまって。
部屋を出た。行き場もなくて女子トイレの入口に凭れて小さく溜息をつき、夫に耳栓とかイヤホンを持ってきてくれるようにメッセージを送った。

部屋に戻ったらまだ十時前なのにもうテレビは消えていて、拍子抜けだった。
もう消灯の時間。私もベッドに入り、薄い布団をかぶる。

自宅じゃない、それだけでもう色んなことが違ってきて。そういうことを含めて健康って有難いのだと思う。

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