見出し画像

「じゃない」チョコレート

夫が自分のスマホ画面を見せながら聞いてきた。
「めぐちゃん、この中で食べたいチョコレートある?」
急にチョコレートの話なんてどうしたんだろう?と疑問に思いながら画面を見るとチョコレートのメーカーはゴディバ。
「え?なんで?」
夫はブランドとかそういうものに関心がないタイプなので聞いた。
「いつも使ってる薬局のポイントが、期限切れで1000ポイントくらいあるから消費しときたいねん」
ああ、なるほど。せっかく貯めたポイントが失効してしまうのは確かに勿体ないが……。まじまじとスマホに表示されているチョコレートを検分する。夫が使っておきたいポイントは1000ポイント。対してゴディバのチョコレートは安くても2800ポイント、高くてそれより1000プラスされてしまう。ただ消費するにしてはなんだか申し訳なくなるポイントだった。
「高すぎるよ。そこまでして食べたいってわけじゃないし」
正直にそう言ったら、夫はスマホ画面を操作して
「そっかあ、お金として使う方法もあるみたいやねんけど」
「じゃあそれでいいやん、無理に物に替えなくても」
この話はここで終わったつもりだった。

買い物に出かけていった夫が帰ってきた。何やら見慣れない紙袋を持っている。
「めぐちゃん、どうぞ」
「えっ?何?」
白い紙袋は金色の箔押しでゴディバのロゴが表記されている。
「ゴディバ?いらないって言ったのに」
「うん、でも変にチョコレート気分にさせてしまったかなあって。あとこれも」
そう言って渡されたのはロゼーヌの赤い箱。
「メリーチョコレート!」
数日前にたまたま、おちびとスーパーで可愛いチョコレートだねと言って話したので記憶に新しかった。

理由を整理すると、チョコレートの画面を見せたから私がチョコレート食べたくなっただろうかと、ゴディバのチョコレートを買ってみたらしい。でもお手頃価格のものは中のチョコが少なくてロゼーヌはプラスアルファしたのだと。
「これって、バレンタインのチョコ?」
私は一般的にあまりお金を使わない性分だし、これらは箱が小さくてもどちらも高級な部類に入る。前倒しのバレンタインかと思って聞いてみた。
「違う違う。バレンタインじゃないよ。それはまた別で」
「そうなん?“じゃない”チョコレートなん?」
「そう、“じゃない”チョコレート」
気遣ってもらえたことは純粋に嬉しかったのでありがたくいただいた。(受け取っただけで、食べるのは後
)そしてずっと背後からおちびの「チョコレートいいなあ」の視線が私に刺さる。

視線が気になるしロゼーヌはいくつか、おちびにあげたが大半独り占めして食べた。

何でもない日の何でもない豪華なチョコレート。
一粒ずつ、丁寧に食べる。
夫の性格が滲み出たプレゼントだなあと思いながら。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?