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Fintechの本質と未来〜いまこそ啐啄同機を〜

Fintechは1980年〜1999年に誕生してから市場として成熟してきている一方で、これから大きく変革を起こせる市場でもあると捉えられています。
近年ではEmbedded Financeという概念が浸透しはじめており、異業種からの参入も増え、金融サービスの提供主体が伝統的金融機関から変わり、金融機能のシームレスな連携も増えてきているなど、新たなフェーズを迎えようとしています。
そこで今回、一般社団法人Fintech協会で代表理事会長を務める沖田氏をお迎えし、Fintechの「本質と未来〜いまこそ啐啄同機を〜」をテーマにお話いただきました。
(本内容は2021年3月2日に開催したWinter/Spring 2021 Summit内のFintech Batch 6 EXPO内で行われたKeynote Sessionの内容をもとに作成しています)

【登壇者】
沖田貴史 氏
一般社団法人Fintech協会 代表理事会長
ナッジ株式会社 代表取締役
一橋大学商学部経営学科在学中に、米国CyberCash社の日本法人であるサイバーキャッシュ株式会社(現・株式会社DGフィナンシャルテクノロジー)の立ち上げに参加し、2015年まで代表取締役CEO。
2012年デジタルガレージ傘下としてecontext ASIA社を共同創業し、翌2013年香港証券取引所に上場。 2016年に、SBI Ripple Asia株式会社代表取締役に就任し、ブロックチェーン技術の日本・アジアでの実用化に貢献。
その間、米国Ripple社、インドネシアTokopedia社などのユニコーン企業の役員も歴任。 主な公職に、金融審議会専門委員、SBI大学院大学経営管理研究科教授など。日経ビジネス 2014年日本の主役100人に選出。

【モデレーター】
Plug and Play Japan株式会社 Fintech Director 貴志優紀

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イノベーションをテーマに挑戦し続けてきた20年

貴志:
まずはじめに、自己紹介とこれまでの取り組みについてご紹介をお願いします。

沖田氏:
私自身は90年代にインターネットが普及していくタイミングで、インターネットを介してモノの売り買いが当たり前になる時代がくるはずだと思い、1997年に決済サービスを提供するサイバーキャッシュ株式会社の起ち上げに参加したことがFintechに携わるきっかけとなります。

事業が順調に成長する中で、Eコマースを支える決済インフラをアジアでも作っていきたいと考え、インドネシアで合弁会社を設立しました。
設立した2008年頃は、日本がアジアのリーダー国のポジションであり、現在ではEコマースのマーケットで大きなシェアを占める中国ですら、まだ日本の半分の市場規模だった時に、これから中国や東南アジアが大きくなると考えインドネシアに進出しました。
結果インドネシアで起ち上げた合弁会社は順調に成長し、その後MaaS最大手の「Gojek」に買収され、同社の金融部門の中核になっています。
現在ではインドネシアで大手マーケットプレイスを運営している「Tokopedia」ですが、社員が数十人規模の初期段階から役員として従事し、日本で起きた新たな動きがアジアでより加速度をもって発展していくことに醍醐味を感じました。

直近ではブロックチェーン分野で、SBIグループとRipple社の合弁会社の起ち上げから、日本独自で行った金融機関とのコンソーシアムをリードするなど、フロンティアやイノベーションをテーマに挑戦し続けてきた20年となります。
2020年2月には、これまでの自分の経験や強みを活かすべく、チャレンジャーバンクとしてナッジ株式会社を起ち上げ、新たな挑戦をしております。
ナッジ社のバリューの1つに「The best way to predict future is to invent it(自我作古)」を掲げているのですが、これはAlan Keyが発した言葉で「未来を予測する一番良い方法は自分が創ることだ」ということを意味しています。学生時代にネット決済の会社を起ち上げる際この言葉に出会い、起業家/イノベーターの本質をよく表していると思い、非常に感銘を受けたことを覚えています。

金融業界の構造変容

貴志:
20年以上にわたり金融業界を見てきた中で、現在どのような変化が業界で起きているのか教えていただけますか。

沖田氏:
これまで長くFintech領域に携わってきましたが、Fintechの本質というのはパワーシフト(*1)だと思います。
インターネットが金融に入ってくる中で、インターネットの本質を突き詰めていくとパワーシフトにたどり着きます。
例えば小売は10〜20年前と比べて大きく変化し、テレビや新聞などのメディアもデリバリーという設備や販売ネットワークがあったうえでコンテンツが成り立っていた世界でした。
しかしながら近年では、Netflixなど動画配信サービスが生まれたことで、業界構造が大きく逆転しはじめています。

このようにインターネットを介して、さまざまな業界で変容が起きている一方で、金融機関は相対的に変化が遅いように感じています。
もともと金融は、本質的には情報産業でありデジタル化との親和性は高いわけですが、証券のリテール分野では10年前からインターネットでの売買が行われているなどテクノロジー化は進んでいるものの、銀行や保険に関してはまだまだ変革できる余地はあるように思います。
そこがまさにチャレンジャーバンク(*2)が出始めてきた中で、変化スピードが加速しているように思います。

ビル・ゲイツが言った「Banking is necessary, but banks are not.」という言葉がありますが、金融サービスの提供主体が伝統的金融機関とは限りません。
世界中で形ややり方は違えどチャレンジャーバンクの市場は拡大してきており、日本も同様です。そのような状況の中で、チャレンジャーバンクが進める金融の民主化には2つあると考えています。

1つは利用者主権の徹底です。
これまで伝統的金融機関は、利用者よりも当局や社内に目を向けることが多かったように思います。
Fintech企業においても、先進テクノロジーや新規性などに注意がいき、実はお客様視点で物事を考えることが抜けがちという課題もあるように思います。
ブロックチェーンなどの新しいナレッジに触れるのは刺激的ではありますが、ユーザーの視点から考えると先進技術や新規性をそれほど求めているわけではありません。新規性にはかけるかもしれないけれど、ユーザーが本当に必要としているサービス・機能を提供する必要があります。それには経営者の胆力が必要だと考えます。

もう1つは金融サービス提供者の多様化です。
これまでは金融サービスは金融機関が提供しており、異業種からの参入があっても大手小売などの大規模な顧客基盤を抱える大手企業に限定されがちでした。
今後はこの構造がネオバンクやEmbedded Finance(組み込み金融)によって、金融機関以外の企業の新たな参入が増えることで、大きく構造変容が起き、金融サービスの提供者が多様化していくことが考えられます。

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出典:Fintech Batch 6 EXPO Keynote Session発表スライドより抜粋

次世代型のオープンイノベーション

貴志:
Embededded Financeにより、金融業界はどのように変わっていくのでしょうか。

沖田氏:
Embedded Finace(組み込み金融)といって、金融があらゆるサービスの中にシームレスに組み込まれ、さまざまな分野に溶け込んでいくでしょう。
実際にこの流れはすでにきていますし、今後はより一層加速していくと考えます。
本来、金融とはそのものがサービスではなく、決済サービスなどモノを買いその対価としてお金を払うなど、何かとの対だったものが金融が独り歩きを始め大きくなっていき、現在、原点回帰がなされはじめています。

特にFintechはこれまでアンバンドリング(*3)の世界がほとんどでしたが、これからはアンバンドリングとリバンドリング(*4)が同時進行していくことがオープンイノベーションがより発揮される形であり、未来の金融体験に繋がっていると思います。

ナッジ社も、「ひとりひとりのアクションで未来の金融体験を創る」というミッションのもと運営をしています。
そのために未来の金融体験には未来の金融機関が必要だろうと考え、チームメンバーや株主様、お客さま含め、全員でサービスを作り上げようとしています。

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出典:Fintech Batch 6 EXPO Keynote Session発表スライドより抜粋

貴志:
フィナンシャル・インクルージョンという点では、日本ではアンバンク層が顕在化していない状況はあると思います。絶対図として海外の方がアンバンク層が多い中で、日本でチャレンジャーバンクが対峙している課題というのはどういうものでしょうか。

沖田氏:
日本ではアンバンク層(*5)が極めて少ないですが、日本におけるフィナンシャル・インクルージョンは明確に存在しているはずです。
そもそもフィナンシャル・インクルージョンというのは、誰もが経済的に安定した生活を送れるように、誰も取り残されずに金融サービスへのアクセスを持てるようにするというものです。海外では銀行口座が持てないなど、金融サービスへのアクセスができない人が多いですが、日本においてはアクセスは持てるものの、自分から能動的に動かないと情報が取れない状況があります。例えば高齢者向けに配慮しようという動きはあり、デジタルデバイス観点で取り残されないという施策は多いですが、デジタル世代にとっては逆に使いづらく、結果としてデジタル層が取り残されているように思います。

サイレントカスタマーの声が届きづらいというのも重要なポイントで、現在のサービスは聞こえてくる声に対して提供している部分が大きいと思います。
顕在化している課題に対しては真摯に取り組むものの、表に出ていない声に対してどう取り組んでいくのかというのがキーポイントになるかと思います。

貴志:
顧客の顕在化していないニーズを拾っていくうえで、スタートアップと大手企業はそれぞれ何をすべきなのでしょうか。

沖田氏:
今回のサブタイトルにも掲げている「啐啄同機(さいたくどうき)」という言葉があるのですが、これは卵が孵化する時にヒナ鳥が卵の中から殻を突くの同時に、親鳥も外から殻を突き、そのタイミングがはまった時に殻が割れるという意味なのですが、結論それぞれが何かをやるのではなく、スタートアップと大手企業どちらの力も必要だと考えています。
スタートアップが持つ新しいものを生み出すエネルギーも大事ですが、伝統的な金融機関も同じ熱量を持ちながら一緒に作っていくことで、スタートアップが持ち合わせていない資金力やコンプライアンス面、場合によっては専門的な知識を補うことで良いサービスが生まれていくように思います。

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貴志:
まさにオープンイノベーションの真髄であり、強みを掛け算して新しいものを生み出すことが大事ということですね。最後に2021年のFintechのランドスケープについて教えていただけますか。

沖田氏:
Fintechはすでに非常に浸透しており、Fintech第2幕としてEmbedded Financeを中心テーマに、金融が日常生活にさらに溶け込み、金融が目的ではなくなる中で、サービスの提供者が金融機関である必然性も一層薄くなっていく時代になってきています。
この第2幕をどのように活動していくのかがキーポイントになると思います。人間は新しいものに対して最初は抵抗を感じるものの、高い適応力で対応していく能力があり、まさに2020年はNew Normalに順応していく中で、新しい生活スタイルが確立され、それに伴って新たなサービスも生まれています。


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