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苦労は買ってでもすべきものなのか?:目標志向性とパーソナリティによる効果の違い

 「若い時の苦労は買ってでもせよ」という言葉があります。苦労の中には、成長に効くものもあり、これは以前の記事で、チャレンジストレッサーと似ています。
 詳しいことは、以前の記事にまとめていますが、チャレンジストレッサーとは、時間のプレッシャー、重い責任などの仕事に関連するストレス要因のことを指します。これらのストレス要因は、成長に寄与するかもしれないものとして、チャレンジストレッサーと呼ばれています(Cavanaugh et al. 2000)。一方で、チャレンジストレッサーがパフォーマンスに与える影響に関する結果は研究によって異なり、Mazzola & Disselhorst(2019)のメタ分析では、チャレンジストレッサーとパフォーマンスの間に有意な関連がないことが確認されています。

チャレンジストレッサーが成長の糧になるかどうかは、
タイプによっても異なる

 チャレンジストレッサーとパフォーマンスにの関連について、一貫した結果が示されていないことを踏まえ、近年では、「どのような人にとってチャレンジストレッサーは成長の糧となりうるのか?」という問題意識のもと、いくつかの研究が進められています。

目標志向性による違い

 例えば、Ma et al.(2019)は、学習目標志向性と遂行目標志向性などに着目し、これらがチャレンジストレッサーとパフォーマンスの関連を調整するという仮説の検証を行っています。その結果、①自分を成長させたいという意欲である学習目標志向性が強い場合、②自分が有能だと示したいという欲求である遂行目標志向性が強い場合、時間のプレッシャーなどのストレス要因を自分の成長の機会と捉える傾向が強くなり、高いパフォーマンスを発揮することが確認されています。

パーソナリティによる違い

 また、パーソナリティの1つである、誠実性に注目したLin et al.(2014)では、さらに興味深い結果が示されています。誠実性が高い人は、チャレンジストレッサーが高い状況下において、高いパフォーマンスを発揮します。一方で、誠実性が高い人の場合、チャレンジストレッサーと心理的緊張の間の正の関連も強まります。すなわち、誠実性が高い人は、時間のプレッシャーや重い責任などが増すことで、誠実性が低い人たちよりも、強くストレスを感じるようになると言えます。

 このように、時間のプレッシャー、重い責任などが成長に強く寄与するかどうかは、その人の志向性やパーソナリティによっても異なります。また、Lin et al.(2014)の研究で示されていたように、成長に寄与している場合でも、彼らは同時に大きなストレスを感じていることが考えられます。
 部下の成長を促すために「責任ある仕事をガンガン任せよう」と、押し進めるのではなく、個々の特性や状況に応じて仕事を任せること、また、一見大丈夫そうな部下でも、強いストレスを感じている可能性があることを踏まえて、無理はさせずにこまめにブレイクを入れることなどが大事なのかもしれません。

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