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1/29 夏休みの自由研究、って話
「アリジゴクがウスバカゲロウに羽化する瞬間と、ボウフラが蚊に羽化する瞬間どっちが見たい?」
週刊誌の表紙になりそうなくらい高く澄み渡った夏空だった。入道雲の真ん中に飛行機が突っ込んだ。庭の樫の木にセミが10匹以上止まって、同じ教室に閉じ込められたようにリズムを合わせて鳴いていた。
「んー?」
横に座っている弟がこちらに顔を向けた。
「ボウフラ」
弟は一言で答えた。
「なんで?」
「アリジゴクがウスバカゲロウになるのはなんとなく想像がつくけど、ボウフラが蚊になる理由が全く分かんないから。アリジゴクってあんだけ地面に埋まってて、それだけ退屈に過ごしてたら綺麗になるよね。でもボウフラって気持ち悪いのに成長してもそのまま気持ち悪いじゃん。だから見てみたいの」
雨の日に、外にバケツを放っておけば水が溜まって、その中に蚊が卵を産む。台風が近づいて豪雨の中、一人庭の真ん中にバケツを置きに行った僕は「アリジゴクを見つける方が大変だったかもな」と思った。弟は棒アイス片手に縁側から僕を見ていた。
いつ羽化するか分からないので、僕と弟は夜中の12:00過ぎまでバケツの中をじっとのぞき込んだ。セミと同じで夜のうちに羽化するのだろうと思っていたからだ。僕と弟、2つの影が水面に落ちた。僕たちの苦労も知らずに、ボウフラは中でクネクネと身を揺らせて泳いでいた。
夏休みはいつも9:00に起きる。弟よりも僕の方が早起きだ。2つ目の台風が過ぎ去って雲一つない晴れ渡ったある日、庭に出ると倒れたバケツがあった。ボウフラはもちろん全滅していた、というよりも水が少しも残っていなかった。
「ボウフラ、死んだぞ」
僕よりも1時間遅れて起きてきた弟に、僕は棒アイス片手に淡々と告げた。弟は目をこすりながら、
「そう」
と興味なさげに言った。
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