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1/24 飛び出た財布、って話

 フィクションです。

 その日は、太陽がテラテラと照りつけて地面には陽炎がユラユラと揺れてそうなほどの猛暑日だった。

 京都はいつのシーズンも観光客が多い。春は円山公園の夜桜、夏は祇園祭りの山鉾、秋は嵐山の紅葉、冬は雪の降り積もった寺社仏閣と、まあどの季節にも“映えてる”ものがあるのだ。人並みはずれた人酔い体質を抱えている私は、いつの季節も自宅で丸まっているのが常だったが、その日は何かの用があって外出する羽目になった。
 祇園の交差点。朱色の門が(いつの季節でも)“映えてる”八坂神社を背に、私は信号が変わるのを待っていた。
 なるべく人を視界に入れないように前方2mあたりの地面に視線を引っ付けて歩いていたが、さすがに信号待ちをしている状況ではどうしようもない。

 それは目の前にあった。
私の前に立っているのは若い女性を連れている男で、まだらに色褪せたジーンズを履いていた。そのお尻のポケットから長財布が半分ほど飛び出ていた。
「私の視界の中に“何かから飛び出たもの”があってはならない」
 唐突にそのような憤りが込み上げてきて、心に一瞬の影がよぎり、気づけば私の手の中には男の長財布があった。

 陽も差さない狭い裏路地に入り、男の財布を開いた。私に犯罪を犯させた男がどのような人間なのか興味があったからだ。
 運転免許証を手に持つと、その裏に何かが貼られてある感触があった。裏返すと先ほど連れていたと思しき女とのツーショットが小さく貼られてあった。
 が、写真は不自然に盛り上がっており更にその下にまた別の写真が貼ってあるようだ。私はペリペリと女の写真をはがした。
 下から出てきたのは、パペットマペットの黒子の写真だった。
 
 って話。

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