ハイライト| 『真田太平記(十)大坂入城』
感動、圧巻の第十巻。この瞬間を迎えるために今年の1月から着々と読み進めてきた真田太平記。圧巻の真田丸、内容は濃く、一気読みしてしまった。
今回は大興奮の十巻を振り返って、私にとってのハイライトをトップ3形式で語ってみたいと思います。真田太平記ファンの方のハイライトもぜひコメント欄で教えてもらえると嬉しいです。
ではさっそくいきましょう。
第3位 猫田与助、逝く。
草の者、お江を執念深く追い続ける甲賀山中忍びの大ベテランとも言える猫田与助。第十巻ではかつての活躍を知る者もおらず、時代が豊臣から徳川に移り変わる中で、諜報の働きもかつて重宝された洗練された技を持つ忍者の時代は過ぎ去り、猫田与助も「過去の人」扱いされるようになってしまった。そんな与助も唯一の執念であるお江を仕留めようと、一縷の望みを若手の小四郎に賭ける。助けを得られた喜びも束の間、お江をようやく見つけたが無念の最期を遂げる。猫田与助は陰のオーラが常にまとい、悪脇役ともいえようか。しかし、そこに過去にこだわりを持ち続ける人間の醜さが表現されているようで、ストーリーにはなくてはならない存在だったと私は感じた。
第2位 幸村の心くばり
家康の水上巡視に奇襲をかけようと企んだ幸村。毛利勝永から船を借り、天満川に手勢七十を三艘の舟に乗せて待機をしていた時の挿話に私は感動した。11月末の寒い季節のことである。
この話から幸村の大将の心得のあり方の大事さが如実に伝わってくる。大坂の陣は、関ヶ原の合戦で東軍に敗れた西軍側の武士たちが牢人となり、この大坂の陣のために集結した寄せ集め部隊。幸村としては、自分の傘下の武士であれば思う様動いてくれるだろうが、今回はこの寄せ集めの部隊を如何に自分の思うまま機動させることが大事だった。そんな中、幸村が特段いつもと違うことをするのでは無く、真田家流の今まで通りのやり方を貫くことで、寄せ集めの牢人たちの心を掴むというのがいい。
急に現代の話に展開すると、昨今上司のあり方、指導の仕方が変わってきているし、世代間でも求められる上司のあり方は異なっている。しかし、戦国時代を生きた真田幸村の戦将としての振る舞い、そしてそれを小説に仕上げた池波氏の感じ方なんかに触れると、芯のところはあまり変わっていないのではないか、と思う。結局、人を惹きつけるものというのは人間いつの時代もそんなに違わないなぁと強く思った。そう思わせてくれた内容だった。
第1位 向井佐平次、幸村のもとへ
なんといっても向井佐平次の決意、行動には心揺さぶるものを感じない訳にはいかない。佐平次が沼田を去った際の信之の振る舞いもまた粋だなあ、と思う。
大坂にて佐平次と幸村の再会となるのだが、ここはまた池波氏はさらっと描いている。感動を煽るとかそんな余計な加工は必要ない。それがまたいいじゃないー。という感想。
いいなー、このやり取り。
佐平次「ちょっと太りましたね」
幸村「そっちはやせたねー、あんまりご飯が良くなかったんじゃない?」
まるで久しぶりに帰省した息子と親のやり取りだ。そこに加えて、
佐平次「ねぇ、くると思ってた?思ってたでしょ?」
と問い詰めるあたり、この2人の間柄がよーく分かる描写だなあと思う。五十を迎えてもなお主従関係が築かれるなんて素敵だなとここにも幸村の人間性が感じられるし、愚直に幸村を慕う佐平次の生き様にも清々しいものを感じるいい場面だな、と感動した。
クライマックスで登場する真田丸での合戦、大坂冬の陣の内容について、真田太平記ではさらっと書かれているのみ。それはある意味で意外だった。司馬遼太郎氏の『城塞』では結構詳しく戦況が記されていたのとは対照的でそれはそれで興味深い発見だった。
真田幸村、ここにありと世間に名を馳せるきっかけとなった大坂冬の陣、真田丸。ここからは終盤に向けたストーリーが展開されていくのだろう。あー、終わりが近づくと寂しくなるが、それでも読み進めていきたい。
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