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転生したら、天才で美形な男装少女でした。①

私はとても醜かった。しかし一方では頭も良く、運動神経もよく、視覚、聴覚、嗅覚何においても全て良しの人間。でもそれらの利点も、醜いという一つの欠点だけで潰された。醜いせいで昔からいじめられ、男子とは全く接点もなく、かろうじていじめられているときだけは接点があった。その程度である。そんな私は整形したいと思ったが家は貧乏で、しかも父親は飲んだくれのろくでもない男で、母親は醜い私を恥だといいながら虐待してくるとんでもない女。私は十歳にして希望を捨てた。まあそんなにして私は二十歳になってもいまだ整形もできず、マスクで半分顔を隠しながら生きていた。むしろよく生きてきたと褒めてもらいたい。正直何度死のうと思ったか。でも不幸は重なるものである。
その日私は押し付けられた残業を終え、ふらふらになりながら帰っていた。だから私は気づいてなかった。トラックが猛スピードで突進してくることに。
「そこの人、危ない!!」
え、と振り向いた途端、ドシンと体に衝撃が走り、眼の前が真っ暗になった。
...本当に最後まで最低の人生だったな。楽しくもっと生きたかった。


「ほんとにごめんなさいね」
いきなり声が聞こえた。いや、頭に響いたような感じ。でも目は開けられないし、しゃべることもできない。その声は喋り続ける。
「あなたの人生は手違いだったの。その変わりこれから楽しい人生にするわ。魔法の使える世界よ。あと、頭脳とか運動神経とかを2倍にしてあげる。きっと楽しいわよ。これからはお幸せにね」
私は全く分けがわからない。
...私の人生は手違いだった?失礼だな。とか思う余裕もなくただパニック状態。
そんなことを考えていると声はどんどん遠ざかっていく。
「あなたの人生は楽しいものだと約束するわ。...もうそろそろかしら。またね」


「ユーリ様。ユーリ様起きてください。朝でございます」
...誰かの声だ。でもさっきの人の声じゃない。それにユーリ様って誰?
なかなか起きないユーリ様にしびれを切らしたのか、その声の人は何故か私を軽く揺すった。
...えっ、まさかとは思うけどユーリ様って私?いや、そんなわけないか…あれ、そういえば、新しく人生をやり直すみたいなことをあの声の人(仮)が言ってたような。え、まじで?うん。ちょっとよくわかんない。
でも私の数少ない自慢は適応力。とりあえず頭をフル回転させる。
...え〜と、たぶん私はユーリっていう名前で感覚的に赤ん坊ではなく、様付けで呼ばれてるってことはお金持ちの家に生まれてるのだろう。あとは...ないね。わかるのはこれくらい?
自分の分かる情報を整理した後、私は目を開けた。
一番最初に目に入ったのは、私を覗き込んでくるきれいな若い女の人だった。たぶんこの人がさっきから私に向かってユーリ様と呼んでいる人だ。その人の後ろにはきれいな天井が見えた。紫色で金の糸で刺繍がしてある。
...ってこれは天井じゃなく天蓋てんがい!?これはまさかのお姫様ベッドとかいうやつ!?
素早く目だけであたりを見渡すと、どうやらそのとおりのようであった。いや、まさか私がお姫様ベットで寝る日が来るとは。…なんとも感慨深い。
「あの、ユーリ様?どうかいたしましたか」
...ハッ、この人のことを完全に忘れていた。とりあえず挨拶かな。
「お、おはようございます」
そう言うと、女の人は今度こそ怪訝な顔をした。
...えっ、なにか失敗した?変な顔でもしてたかな。
「あ、あの大丈夫ですか」
私はが聞くと女の人はハッと気を取り直し、
「あ、いえ問題ございません。それより今日は入学式ですので、お着替えをされた後、朝食でございます」
...えっ、学校あるの。私、大学生まで行ってるし、いじめの思い出しかないから行きたくないな。...あっそういえば私、というかユーリは何歳なんだろう。手の大きさからは中学生ぐらいだとしか思えないんだけど。気のせいだよね。
「あの、鏡ってどこですか」
女の人に聞くと、女の人はピシッと固まった。でもすぐに鏡を持ってきてくれる。
「あっ、えっとこのサイズじゃなくて、自分の全体が映るような鏡ってありませんか」
そう聞くと女の人は
「申し訳ございません。あの、それはこちらに持ってこれないので、そこまで向かっていただくということになってしまうのです」
「あ、はい、それで大丈夫です」
私が返事をすると、女の人は微妙な顔をして
「使用人に敬語を使わなくてよろしいですよ?」
といった。
...えっ、でも初対面の人にいきなり普通の口調で話すなんて無理だって。でもこの人が言ってるしなあ。
そんなことを考えながらベッドを降りようとすると、さっとふわふわのスリッパが差し出された。反射的に
「ありがとうございます」
と言ってしまう。女の人がまた微妙な顔をするのでこれからは敬語を使わないようにしようと決めた。
向かった先は服がたくさんある部屋だった。一番奥に、ものすごく大きな鏡があった。そして私は予想通り小さくなっていた。でも、そんなことよりもっと衝撃を受けたことがあった。
...えっ、私、ものすごい美形になってる!えっ、ほんとにものすごくきれい!
鏡の中には黒くて短い髪に形のいい大きな吸い込まれそうなくらい黒い目を持ったきれいな子がいたのだ。でも、男子か女子かもわからない。男子と言われても納得できるし、女子だと聞いても納得できる。
胸を見てみてもよくわからない。うーむこれは胸筋?それとも胸?
...でもきっと女子のはず。
「坊ちゃま」
と誰かに呼ばれた。
...えっ、なんか人変わってる!女の人から年取った女の人になってる!じゃなくてっ!えっ、今なんて言った。私には坊ちゃまって聞こえたんだけど。えっ、私ってもしかして男!?
頭がごちゃごちゃだ。
「あの坊ちゃま?」
私は、鏡の中の自分から目をそらし、振り返る。もうなんとでもなれという気分だ。
...きっと口調は男言葉のほうがいいよね。でもどんなのがいいんだろう。思いつくのは父が使っていた言葉。それを少し上品にして...ってごちゃごちゃしてきたぁ!でも返事しなきゃ。あ〜もうなんでもいいや。口から出る言葉で!
「なんだ?」
「あのお着替えをいたしますよ?」
「ああ」
そう返事をすると、シワひとつない白くて、胸に紋章みたいなのがついてる制服が持ち出された。なんとなく男の体を見たくなくて、目をつぶったまま着替えさせてもらう。それにしても、この服、肌触りが良く、全身にピッタリ沿うような感じのする高級品だ。ちょっとうっとりしてしまった。
その後すぐに、食堂に連れて行かれた。大広間のごとく大きな部屋には奥の壁に紋章が飾ってあった。三日月の上に黒猫が乗っていて、周りを緑の複雑な模様で飾られていて素敵な紋章だった。
朝食はフワッフワのパンに、ブラックコーヒー。当たり前のようにブラックコーヒーとパンを出されたのできっとルイはこれが当たり前だったのだろう。
...いや別にブラックコーヒーが嫌いなわけじゃないよ。飲めるし。でも、これが飲めるようになったのは私、大学3年生のときだったんだけど...。ちょっと複雑な気分。
朝食を食べ終わったあとは学園へ馬車で向かう。気分は重い。すると馬車を走らせていた男の人ーーこの人はルークというらしいーーが言った。
「坊ちゃまもついに学生ですか。あなた様の頭の良さが示せるときですね。入学式は楽しんできてください。ユーリ.サイアルの名に恥じぬように行動を」
「ああ、できる限りの努力はする」
私の本名はどうやらユーリ.サイアルというようだ。ユーリ.サイアル。それが生まれ変わった私の名前。
...なんか立派だな。前世の私の名前なんて吹っ飛んでいきそうだ。それにしても、学校につくまでもう少し掛かりそうだ。新しい人生を、あの声の人(仮)が言っていたことも含めておさらいしよう。

名前はユーリ.サイアル。年はおそらく中学生。でも、これから入学式だとすると背は高めの方だ。で、すっごくイケメン。神がかってるくらい。口調はなんかどっかの殿様的な感じだ。家はお金持ち。頭は良く、運動神経もいい。で、声の人(仮)によると、それはもともとの2倍。あとは魔法が使える。幸せに暮らせる。とこんな感じか。とすると私最強だな。イケメンで頭もよく家はお金持ちで運動神経もよく魔法も使える。ヤバ...。あれ、今気づいたけどなんかおかしいもの入ってない?魔法?使える?私が?
《ようやく気がついたか》
頭の中で声がした。でも私は驚かない。声の人(仮)で体験してるから。私、成長した。で、この声は誰だろう?
《声の人(仮)って...あの人は女神様だ。そしてこの俺は魔法物のリラだ。女神様に会って、マニュアル本を頂いてる。それに載ってることを説明して、お前のサポートをしにきた》
...えっ、女神様?魔法物?…マニュアル本?
「えっ、ええ〜!」
いきなり大きな声を出した私に驚いたようで、ルークの肩がびくっとはねた。それと同時に馬車が少し揺れる。私は慌てて口を抑え、頭の中で思う。どうやら思っていることが伝わっているらしいから。
...あなたは誰?私はどうして男になったの?魔法ってどういうこと?
声というか魔法物のリラは言った。
《やれやれ質問が多すぎだ。一つずつ答えてやろう。まず俺はお前の魔力から生まれた生物だ。更に付け加えるなら立体化したり、外を歩くこともできる。ちなみにその際は猫型をしている》
...えっ、ドラ●もん?
《ちがうっ!猫型ロボットではない!は〜…お前は本当に頭がいいのか?》
...なんで疑ってるの?
《わからないか?まあいい。次の質問は、お前がどうして男かだが、えーと、お前は男ではない。サイアル家にはユーリしか生まれてないが、次期当主が必要だ。だから、現当主は、ユーリを男として育てた。…まあ、よかったじゃないか。お前はなかなかのイケメンになってるし、モテるぞ〜》
...良かったかな?どうだろ。微妙な気持ちだ。
《お前の気持ちなんぞどうでもいい。で、最後の質問に対する答えは...ううん難しいな。まず、この世界はラブコメだ》
...はぁ?
突拍子もなさすぎて声すら出ない。リラは続ける。というか、めっちゃ棒読みだね。
《マニュアルを読んでるからな。まあ気にするな。で、そういうゲームがあってな。乙女ゲームというらしいんだが。ま、というかそのゲームの世界のパラレルワールドなんだが》
...どうしてパラレルワールドなの?
《そのゲームにはそのゲームの世界しかない。つまり、ゲームの内容に起こされた世界にしかないということだ。もちろん俺らが話している内容はゲームの中にはない。だからパラレルワールドなんだ》
...へえ、納得した。続きをどうぞ。
《で、主人公はお前じゃない。乙女ゲームは貧しい少女が主人公がお約束だからな》
...いや別に、乙女ゲームのお約束は聞いてない。で?話ずれてるよ。
《ご、ごほん。まあそれはともかく、この世界はラブコメのゲームの世界、正確にはそのパラレルワールドだが、そこはいいとして、このゲームの世界は魔法が使える。魔法を使えるやつは限られているが、全国を合わせると、数はなかなかに多い。小さな力だがな。で、お前は膨大な魔力を持っている。それこそ俺みたいな魔法物が生まれる程にな》
...ふうん。じゃあ私から、正確には私の魔力から生まれたと。でも、その魔力で何ができるの?
《質問しかないのか。はぁ。...でな、魔法には魔法の属性がある。それは【地】【炎】【水】【風】【光】【闇】。で、お前の属性は【闇】だ》
...うん?えっ?【闇】!?他の属性じゃなくて!?なんか嫌なんだけど!?悪役っぽくて!
《何を言ってる。【闇】【光】の属性はものすごく希少だ。一般的には【光】のほうが少ないと思われているが、属性の中で最強は【闇】。【光】より強く、他の属性とは比べ物にならない。女神様はお前を最強にしてくれたんだぞ。感謝しろ》
...そうだね。浅はかな考えだった。悪役っぽいのは我慢するよ。
《わかったならいい。ちなみに主人公は【光】の属性を持っていて、その攻略対象たちも膨大な魔力を持っている。お前とは比べ物にならんがな。とりあえず、ゲームの内容の説明をするぞ》
...待って。その前に聞きたいことがある。私が生まれ変わったのは今日。ということはその前に生きてた別の、というかユーリ本体がいるはず。その人はどうなったの?
《...あとにしようと思っていたんだがな。そいつ、ユーリ本体は…死んだ》
「えっ」
声に出てしまった。でもルークは気づいていないようだ。しかし私はそれどころじゃない。
...どういうこと!?なんで死んだの!?
《落ち着け。女神様からの配慮だ。【闇】という希少で、とても強い属性、それに膨大な魔力をある日いきなり与えられたユーリは、そのことに精神的に耐えられなかった。膨大な魔力を操るには精神的に強く大きな器がいる。ユーリは操れず、魔力を暴走させていた。で、お前がユーリになる前に魔力に食われて死んだ》
...じゃあ、私が幸せになるためにユーリは死んだの!?そんなの嫌だ!女神様の配慮なんかじゃない!
《落ち着け!》
リラはそう言った。そしていきなり影から黒猫が飛び出してきた。私は驚いて、一瞬固まった。
《落ち着け!おまえの命はそれだけ重い!簡単に死んではいけない!だからユーリ本体を幸せにするくらい、お前自身が幸せに暮らせ!ユーリのためにも、だ!》
いつの間にか私の目からは涙がこぼれていた。それを拭いながら、
「...うん、うん。そうする。絶対幸せになる。ユーリのために。そして私のためにも」
そう誓った。
《...そうか、ならいい》
リラは私の膝の上にぴょんと飛び乗った。猫の姿をしたリラは金色の目をして、黒くて艷やかな毛を持っている。リラを撫でていると、
「あ、あの、坊ちゃま大丈夫ですか」
ルークがそういった。そういえば私泣いてたな。見られてたのか。
「ああ。問題ない」
「ならいいんですが。...ちなみにその猫は?」
...なんて答えよう?
「...なんか窓から入ってきた。きれいだし飼おうと思う」
「...窓空いてませんよ」
「...」
「...」
「..飼うんだ。気にするな」
「はぁ。…あの、もう少しで着きます」
《…お前は本当に無茶苦茶だな。で、ゲームの説明を今度こそ始めるぞ。もう少しらしいから短くな》
…うん。いいよ。
《えーと、この国ミカエル王国という。ゲームの中では学園の部分しか出ていない。全部で三学年。十六歳になったら成人式をして卒業。学園は魔力を持っているものしか入れない。
そして、主人公はサラ.シリア。平民で【光】の属性を持っている。もちろんその魔力は膨大で、頭も良く美少女だ。優しくて、料理も上手い。天然。十三歳。
次に、攻略対象の説明をする。
第二王子ユリアス.ミカエル。王族で十三歳。【炎】の属性だ。美形だが、腹黒。頭もいい。というか攻略対象たちはみんな頭も良く魔力は膨大で、十三歳だからもうそこは言わない》
…いや、なんとなくわかってるよ。
《そうか。で、次は第三王子アイク.ミカエル。【風】の属性。やんちゃで単純。ツンデレ、だったか?まあ、野性味のある美形》
らしい、とリラは言う。
…へぇ。
《最後に宰相の息子シオン.アラクル。属性は【水】。いつも笑顔で子供っぽい。可愛い系の美形。意外と腹黒で鋭い。若干ユリアスとキャラがかぶっている可哀想なやつだ》
…そう言わないであげなよ。
《フン。次は攻略対象の敵キャラだ。
まず、第二王子のルートの敵キャラ。関係は第二王子の婚約者。魔力もショボく頭も悪い。属性は【地】。サラを徹底的にいじめ抜く。
次に第三王子のルートの敵キャラはそいつの婚約者だ。こいつは頭も良く魔力も強い。属性は【炎】。美少女。
そして宰相の息子ルートの敵キャラはそいつの幼馴染。属性はシオンと同じ【水】。美少女で頭も良く、魔力も強い》
…なんか第二王子の婚約者だけ可哀想なんだけど。
《知るか。最後はお前、ユーリ.サイアル。本当は魔力がないからゲームに登場しない。公爵家の嫡男。本当は公女だがな。魔力も強く属性は【闇】。頭も運動神経もいい。あと、視覚、聴覚、嗅覚もいいんだったか。ゲームの中で最強。強化魔法が使える。中性的な顔立ちの美形。
ゲームの登場人物の説明は以上だ》
…結構時間が経った気がするけど、大して経ってないね。十分くらいだ。ていうかなんで私の説明までしてんの?
《必要だと思ったからだ。本来ならお前はゲームに登場しない。この変化がどうなるか。見ものだな》
リラがそこまで言ったとき、ルークが
「坊っちゃま着きました」
そう言って馬車の扉を開ける。
「ああ」
降りるとリラが私の影に入った。ルークにはバレなかったようだ。
「それでは時間になったらお迎えに参ります。楽しんでいってらっしゃいませ」
「ありがとう」




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