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書籍紹介『「発達障害」だけで子どもを見ないで その子の「不可解」を理解する』

『「発達障害」だけで子どもを見ないで その子の「不可解」を理解する(田中 康雄)』という本の紹介です。

その行動ってなんなんだろう?

発達障がいと呼ばれる子たちの、友だちに手が出てしまう、授業中座っていられない、生活習慣がなかなか身につかない、問題行動とされるそんな行動に対して「なんでそんなことするの!」「駄目でしょ!」と叱責してしまうことがあるかもしれません。

周りの大人もどうしたらいいのかわからず困っているかもしれませんが、そんな困らせる言動は、困っている子のサインかもしれません。

この本は、そんな困っている子たちのサインから子どもの気持ちを想像し、親御さんも支えながら、生活の中でできる「普段のかかわり」を提案していく流れを教えてくれます。

田中さんが診察で心がけていること

少し長いですが、著者の田中さんがされているその過程を引用します。

 ある日、4歳のひろとくんを連れて外来に訪れたお母さんは、困り果てた表情でこんな話をしてくれました。
「うちの子、幼稚園でいろんな友達をたたいちゃうんです。それで、お友達にも先生にも『乱暴な子』って思われちゃってて……。確かにたたくのは悪いことなんだけど、この子なりにたたく理由があるんじゃないかなと思ったりもするんです」
 お母さんと一緒になって、ひろとくんの「たたく」という行動からその気持ちを想像してみると、「はなちゃんと遊びたくて、ちょっかい出しちゃうのかな」
「そうたくんのおもちゃが欲しくて、思わず手が出ちゃったかな」
「みさきちゃんには、今ちょっかいかけてもらいたくないってときに『No』のつもりが、たたく行動になっちゃったのかな」
 など、いろんな理由が浮かんできました。

 それをただの「乱暴者」というのか、それとも「ひろとくんはたたくという行動で何らかのメッセージを出そうとしているようだ」ととらえるのかでひろとくんへの理解やかかわりは大きく変わってきます。そして同時に、「この子の『たたく』には、いろいろな意味があるんですよね」ということを周囲にうまく伝えられるかどうか、ということも重要なポイントになってきます。


「たたくのも言葉です」と言ってしまうと、今度は「でも、たたかれるほうは泣くよね」「たたかれた子の親はやっぱり嫌だと思うよね」といったいろいろな思いが出てきます。では、そういったこともひっくるめて、ひろとくんの心をどう理解していったら良いのか……多面的に考えていく必要があります。
 ひろとくんが友達をたたいてしまったとき、そこで「仲良くしたかったんだよね」「腹が立ったんだよね」というふうに、幼稚園の先生が言葉を返すことによって、「そうなんだ。たたくっていう僕のこの行動は、仲良くしたいと思ったからなんだ」「腹が立ったっていうことなんだ」というように、ひろとくんの思いは言葉になることでしょう。
 では、「それを言葉にして相手に伝えるにはどうしたらいい?」ということをひろとくんの側に立って一緒に考え、「じゃあさ、先生と一緒に行こうよ。ねえはなちゃん、いーれーて!」と幼稚園の先生がつないでくれたら、ひろとくんは友達をたたかないで遊べたりするかもしれません。
「遊びを邪魔されたくないときにはたたくんじゃなくて『やめて』って言えばいいんだよ」というふうに、思いから生まれた行動を言葉に置き換えていく術を伝えていくのもひろとくんにとって必要なかかわりかもしれません。お手本を示すことで、ひろとくんも適切な言葉を獲得することができるし、周囲の子どもたちも「ひろとくんはこういうことを言いたかったんだ」と理解できるでしょう。
 必要であれば相談の場に幼稚園の先生にも来てもらい、「今しばらくは、先生がひろとくんの気持ちを通訳してあげるのはどうでしょう?年長さんくらいまでに自分で言えるようになったらいいですよね」と提案することもあります。
 そこでお母さんが「でも、小学校に上がっても変わらず友達をたたいていたら、学校に行けなくなっちゃいますよね」と不安を漏らしたら、「それは、年長の秋までの様子を見て考えましょう」と見通しを伝えます。
 こんなふうに、子どものわかりにくい言動に悩み、途方に暮れる親御さんと一緒になって、どうしたらその子の思いに近づけるかをあれこれ考える。子どもの小さな変化を親に伝え、変わらない実情は共に耐えて、それでも明日に期待が持てるように応援していく。僕が日々診察で行っているのはそういうことです。

この内容には、特別支援学校で働き、日々子どもたちや保護者と接する身として、とても共感します。発達障がいだから…ではなく、その子の気持ちを想像し、保護者の気持ちを受け止めながら、実践できる具体的な関わり方や環境や道具の工夫を提案していく、それは特別支援教育の基本でもあると思います。

12のストーリー

この本では、第1部で各ライフステージをイメージした12のストーリーが、第2部でそれぞれのストーリーで大切にされたことが掲載されています。それぞれのストーリーに対して、①子どもの言動の「仮の理解」、②相談者の思いに近づく、③かかわりの提案、④その子の「押さえどころ」という内容で解説されています。

田中さんも述べているように、発達障害に特化したアドバイスというよりは「その子と楽しく生きていくためにはどうしたら?」という内容がメインになっています(もちろん関わりの手立てとして有効なものがたくさん掲載されています)。

それぞれのストーリーのタイトルを紹介します。

乳児期(0〜3歳ごろ)1歳半ごろから心配が表面化
ストーリー1 かんしゃくが激しいわひろゆきくん(1歳8か月)
ストーリー2 寝ない、食べない、けんたくん(2歳1か月)
ストーリー3 言葉がなかなか出ない、たかしくん(3歳0か月)
ストーリー4 頑固な、ゆかりちゃん(3歳4か月)
幼児期(3〜6歳ごろ)初めての集団生活への不安
ストーリー5 クラスにいられない、かなちゃん(3歳10か月・年少児)
ストーリー6 友達に手が出てしまう、さとしくん(4歳6か月・年中児)
ストーリー7 生活習慣がなかなか身につかない、みきちゃん(5歳5か月・年長児)
就学期(6〜7歳ごろ)就学先選択という一大テーマ
ストーリー8 就学先に迷う、かいとくん(6歳半・年長児)
ストーリー9 授業中座っていられない、たいきくん(7歳・1年生)
学童期(6〜12歳ごろ)小学校生活の3つのステージ
ストーリー10 計算が極端に苦手な、みのるくん(9歳・3年生)
ストーリー11 不登校気味の、ゆうきくん(11歳・5年生)
ストーリー12 人間関係がうまくいかなき、ゆいちゃん(12歳・6年生)
オマケ 思春期(12〜17歳ごろ)親との距離感が大事な時期

ストーリーの詳しい内容は言えませんが、ぜひ本を読んでください。

まとめ

子どもを見るときに、発達障がいの●●さんという風にみていないでしょうか。当たり前ですが、発達障がいの特性はあっても、子どもたち自身も、その胸に抱く想いも一人ひとり違います。そして困っているのは周りの大人だけでなく、その子もです。

そんな子どもの言葉にならない思いを翻訳し、具体的な関わり方や環境や道具の工夫を伝える。それは特別支援教育の基本であり、僕自身も大事にしているものです。

紹介される12のストーリーは、子どもに寄り添い、その想いを想像する上でとても参考になるものだと思い、この本を紹介させていただきました。僕自身も見えない子どもの想いを想像することをこれからも大事にしていきたいです。



表紙の画像はAmazon.co.jpより引用しました。