特別支援学校からの発信「子どもたちの感覚過敏を知っておこう」
感覚過敏とは
感覚過敏とは、周囲の音や匂い、味覚、触覚など外部からの刺激が過剰に感じられ、激しい苦痛を伴って不快に感じられる状態のことです。個人の意志でどうこうなるものではなく、脳の情報の受け取り方の特性が原因ではないかと言われています。
感覚過敏は、聴覚、視覚、触覚、味覚、嗅覚などすべての感覚領域で、さまざまな刺激に対して起こります。ひとつの感覚だけに過敏性がみられる場合もあれば、複数にわたって生じることもあります。
(画像はTEENSより)
自閉スペクトラム症の診断基準(DSM-5)には感覚に関する項目が入っています。しかし、発達障がいと診断される人の全てに感覚過敏がある訳でもありません。逆に発達障がいの診断がなくても感覚過敏に苦しんでいる人はたくさんいます。
具体的な感覚過敏の例
1 聴覚
(画像はLITALICO発達ナビより)
特定の大きな音が頭の中に突き刺さり、その場から逃げ出すほど苦手(救急車や消防車のサイレン、花火、太鼓、雷、風船の割れる音、赤ちゃんの鳴き声、怒鳴り声、ドライヤー、掃除機、運動会のピストルなど)
人によっては、不快な音が引き金となり、パニック(その場に入れない、その場から動けない/座り込んでしまう、逃げ出してしまうなど)になってしまう場合もあります。
小さな物音が気になってしまう。(エアコンの空調や冷蔵庫、時計の秒針音などが気になって夜眠れない)
スピーカーのハウリング音やホイッスルなど高周波音が苦手。
飲み会など騒がしい場で話している相手の声が聞き取りづらい(音の取捨選択が難しくすべての音が聞こえてしまう)。
遠くの音が聞こえすぎたり、音の遠近の区別がわかりにくい(遠くの電話も近くで鳴っているような気がする)
騒がしい場だと急激に疲弊してしまう(電車や駅、ショッピングモール、繁華街など)。
対応としては、イヤーマフやノイズキャンセリングイヤホンを着用したり、音量を減らす/音がならない方法を考えるなどが考えられます。
(画像はLITALICO発達ナビより)
(画像は感覚過敏研究所より)
(画像はNHK未来スイッチより)
(画像はマクリンより)
2 視覚
(画像はLITALICO発達ナビより)
わずかな明かりが気になる(例:外の街灯のわずかな明かりでも眠りが浅くなる)
蛍光灯のちらつきが気になる。パソコンやタブレット、スマホの画面を長時間見ていられない。
太陽の直射光や反射が苦手。目が痛くなる。
真っ白のノートは光が反射して見にくい。
コントラストの強い色の組み合わせや派手な色の看板を見ると疲れる。
人混みで大勢の人が動いているのを見るのがしんどい。
視覚情報が多すぎると気が散って集中できない。
本の文字が歪んだりにじんだりして、読むのが困難。
いろいろな模様がちらついて見える。連続する図柄などの些末な違いが気になったり、目に飛び込んできたりする感覚がある。
対応としては、座席配置や遮光カーテン、パーテーションなどの光量を調整する、特定の光をカットするレンズやサングラス、帽子を着用する、黒板周りなどを綺麗に片付け不要な情報は隠す、タイポスコープやリーディングトラッカーなどで見る場所を限定する・示す、グリーンノートなど色つきの紙の使用、色付きの下敷きやクリアファイルを重なるなどがあります。
(画像はLITALICO発達ナビより)
(画像は東急ハンズより)
(画像はコクヨより)
(画像はジオム社より)
(画像はTwitter@crystalroad2006より)
(画像はTwitter@outotsu_kyozaiより)
(画像はTwitter@Miharu106より)
(画像はエルピス・ワンより)
3 触覚
(画像はYahoo!JAPANより)
手がべたべたしたり、皮膚に水がついたりや、粘りのある感覚を極端に嫌がる(粘土、のり、絵の具、ボンド、スライムなど)
皮膚に触れる衣服の素材についても、ニットのセーターは苦手など、かゆかったり、くすぐったかったりと不快に感じる刺激がある(化学繊維はダメで綿素材のみ可能という場合もある)。
特定の布や衣服の感覚しか受け付けない(家の中では裸で過ごす人も)。
衣服の縫い目やタグが触れるのが嫌。
手袋や靴下、スリッパなど、手元足元の触感がどうしても耐えられない。1年中裸足の場合も。
爪切りや散髪が苦手。
雨や風が当たると痛みや不快感を感じる。
人に触られるのが嫌で、手も繋ぎたくない。触られるだけで痛みを感じる場合もある。
病院の触診や超音波検査が苦手。
化粧品などで肌が荒れる。
対応としては、衣類などは心地よいと感じる素材の製品を身につけ、苦手なものは無理に着ないようにする、ゴム手袋などの道具を活用する、衣類のタグなどが触れて気になる場合には、タグを切ってもチクチクとした刺激となることがあるため、縫い目から取り除くなどがあります。
(画像はYahoo!JAPANより)
4 嗅覚
嗅覚に過敏があると、特定のにおいに対して極端な苦手さを感じるようになります。人によって苦手なにおいには違いがあります。
納豆やきゅうりなど、比較的においに特徴がある食品が苦手。
満員電車など人混みの匂いが苦手。
タバコや化粧品、インク、化学薬品など匂いのきついものが苦手。
柔軟剤や石けんなど世間一般のいい匂いが苦手。
動物園や化粧品売り場には近づけない。
対応としては、苦手なにおいのする場所には、できるだけ近づかないようにする、マスクを着用する、においが我慢できないときだけ、口呼吸をするなどがあります。不快なにおいを嗅いで気分が悪くなったときに備えて、自分の好きな香りを持ち歩き、気を紛らわす方もいらっしゃるようです。
5 味覚・食感
食べ物の好き嫌いがあり、苦味や甘味など特定の味を極端に嫌がる傾向にあります。どの味が嫌いかはかなり個人差があります。
味だけでなく、特定の食感についても苦手だと感じるのです。
生クリームや豆腐のように柔らかな食品、なめこやおくらなどネバネバした食品などが苦手。
しいたけやなすびのくにゅっとした食感が苦手り
フライの衣が刺さるように感じ、痛くて食べられない。
反対にカリカリした食感が好きでそれしか食べられない。
味覚の過敏が強い子の場合には、幼稚園や学校の給食を食べることがストレスになる場合があるため、お弁当を持参して良いか相談してみることも方法です。
偏食改善については別の記事で紹介しています。
6 身体感覚
身体の傾きやスピード、回転を感じる感覚のことを前庭感覚といいます。
乗り物酔いをしやすい。
動く遊具が嫌い、怖い。
鉄棒やプールなどで足が地面(床面)から離れる姿勢を怖がる。
高い所や足場の不安定な場所を怖がる。
ちょっと押されただけでも怖がり、過剰な反応(怒る、警戒する)をする。
また身体の位置や動き、力加減を感じる感覚のことを固有感覚といいます。固有感覚に過敏や鈍さがあると力加減が難しかったり、よく物を落としたりします。
心臓や胃腸の状態に関係する内受容感覚に過敏を示す人もいます。
7 その他
気圧の変化に弱い(台風や大雪のときなど頭痛や気持ち悪さから動けない)。
気温の変化に敏感で暑さや寒さが苦手。
いろいろな感覚過敏の具体例が子ども情報ステーションに掲載されています。
体調による過敏さの変化
「わがまま」と言われることもある感覚過敏ですが、体調によってその過敏さは変化します。当たり前ですが、疲れているときや不調のとき、不安なときやイライラしているときなどストレスを強く受けているときには、より感覚が過敏になってしまうことがあります。
体調だけでなく、季節や環境、また成長によっても変化していきます。
(画像はwoman exciteより)
過敏だけでなく鈍麻もある
感覚の過敏さだけでなく、「感覚|鈍麻《どんま≫》」と言って、感覚に対する反応の鈍さがある場合もあります。人によっては感覚過敏と感覚鈍麻を併せ持っている場合もあります。
例えば聴覚や触覚、前庭感覚に鈍麻があると、より強い刺激が欲しくて耳や身体を叩いたり、身体を壁などにぶつけたり、いつも身体を揺らしていたり、ぐるぐる回転を続けたりといった「常同行動」がみられる場合があります。
固有感覚に鈍麻があると、力の加減が難しくて乱暴な動作になったり、何かにぶつかったり段差のないところで転びやすかったり、姿勢が崩れやすかったりします。動きやダンスなどの模倣も苦手でボディイメージを獲得しにくいです。授業中にコツコツと鉛筆を机に当てる、靴の踵を踏むといつた自己刺激行動が見られる場合もあります。
また嗅覚に鈍麻があると「自分の体臭の違和感がわからない」ことがあり、お風呂に入らなかったり、汗をかいても着替えなくても不快感を感じない場合もあります。
また暑さや寒さをあまり感じないので一年中半袖短パンで過ごす子もいれば、熱さを感じない子もいます。
人によっては、自分の疲労感を感じずに限界を超えて頑張ってしまうことも、発熱しているのに気づかないことも、空腹感を感じずに食事をとり忘れてしまうこともあります。
痛覚に鈍麻がある場合は、骨折していても気づかなかったという方もいます。
また身体には感覚過敏の症状が出ているのに、本人にはその感覚が全然わからないといった過敏と鈍麻が共存している場合もあります。特定の触覚には過敏があるけど、他の触覚には鈍麻ということもあります。過敏と鈍麻は対比関係にあるのではなく、その人個人の中でグラデーションのように様々な存在するのです。
(画像はwoman exciteより)
(画像はMAZECOZE研究所より)
感覚過敏も感覚鈍麻もどちらも脳の感覚処理の障がいと考えられます。そして感覚過敏が原因で嫌な感覚刺激を避けること(感覚回避)も、感覚鈍麻(低反応)が原因で常同行動などより強い刺激を求めること(感覚探求)もあるのです。
(画像はMAZECOZE研究所より)
発達障がいの子たちの行動の背景には、実はこのような感覚過敏や感覚鈍麻があるかもしれないということを知っておいてください。
わがままじゃないよ
感覚過敏の特性は、そうでない人からすると理解しづらく、「わがままじやないのか」「我慢できるはずだ」と思ってしまうかもしれません。
しかし、当事者は相当な苦痛を感じており、我慢できるようなものではありません。もし無理をした場合、心や体調を崩してしまう可能性もあります。
感覚過敏はわがままではありません。「慣れれば大丈夫」と我慢を強要するものでもありません。
耳の聞こえにくい人に対して「頑張れば聞こえるようになるから努力するんだ!」とは誰もが言わないはずです。感覚過敏で音の刺激が強すぎるのも、努力不足ではなく「脳の(刺激の受け取り方の)特性」です。
感覚過敏から苦手の元がわかると、本人もまわりの人も、自分や誰かを責めることなく、共通の理解をもち、工夫を探すことができます。そして例えばイヤーマフやノイズキャンセリングイヤホンをしたり、音の刺激から離れるなどの工夫をします。よい対処方法がすぐに見つからなくても、周囲が協力して苦手と工夫を見つけようとすることは、安心と信頼感につながります。
感覚過敏を持たない方にとって、その感覚を理解するのは難しいと思います。感覚過敏を体験する動画などもありますので、参考にしてみてください。
理解のされにくさ=感覚過敏な人の生きづらさ
その人の感覚は周りからは目に見えないので、なかなか理解されにくく、それが感覚過敏な人の生きづらさに繋がります。
コロナ禍ではマスクの着用が当たり前になり、頻繁な手洗い消毒が励行されていますが、感覚過敏が原因でそれが難しい人もいます。
そしてマスク着用が当たり前の世の中で、マスクが着用できないことへの風当たりが強くなり、それが人間関係のトラブルに繋がりかねないのです。
最近でこそ聴覚過敏のイヤーマフは一般的になってきたように感じますが、感覚過敏があまり知られていないことが周囲の無理解になり、感覚過敏な人の生き辛さになるのです。
(画像はまいどなニュースより)
(画像はTEENSより)
周りの人にわかってもらえるよう、マスクをつけれないことをバッジやカードで示すものもあります。
学校生活でいえばこれも当たり前のように着ている制服が触覚の過敏さで着るのが難しい子もいます。
感覚過敏への関わり方の原則
感覚過敏に対しては無理強いしないことが原則になります。
その上で、次の3つが関わり方の基本になります。
(画像は子ども情報ステーションより)
①原因をとりのぞく、はなれる、さける
大きな音の近くはさける、気持ち悪くなったら退室する、タグはぬい目からとる、着心地のいい(刺激のない)服を着る、動物園や化粧品コーナーにど匂いの強い場所は避けるなど、原因を取り除き、離れ、避けることを考えましょう。無理矢理経験させて慣れるものではありません。
②道具を活用する
聴覚過敏への「耳せん、イヤーマフ、ノイズキャンセリングイヤフォン」、視覚過敏への「サングラス」「グリーンノート」、嗅覚過敏への「マスク」「いい匂いのお守り」などの道具があります。
触覚過敏の方に向けに、タグなし、縫い目外側の衣服なども販売されています。
また「発達障がいライフハック」がそんな道具や工夫の参考になるかもしれません。
③こころの準備や理解ができるように事前に説明し、見通しを持ってもらう
「大きな音が2回なります」「ブザーが鳴ったら暗くなるよ」「○○のために身体をさわります」などあらかじめ伝えることで、見通しが持てるようにします。急に無理矢理させることは逆効果です。取組む場合も本人の体調や意志に合わせてスモールステップでが基本になります。
感覚過敏についての説明に挙げた対応や工夫の例も参考にしてみてください。
(画像は子ども情報ステーションより)
(画像はX@a_luar222より)
感覚過敏マーク
株式会社クリスタルロードが運営する「感覚過敏研究所」では、所長である現役中学生の加藤路瑛さんを中心に、視覚過敏、聴覚過敏、嗅覚過敏、味覚過敏、触覚過敏の苦手な状態を、文字と動物のイラストでそれぞれ表現する「感覚過敏マーク」を考案し、普及プロジェクトが開始されています。
(画像はPR TIMESより)
またSNSなどで当事者の方が感覚過敏について発信されることも増えてきました。感覚過敏や鈍麻についての理解が広がればと思います。
まとめ
ある研修会の資料で「些細なこと」かどうかは、本人が決めるという言葉がありました。
繰り返しになりますが、感覚とは目に見えないものです。なので多くの人は自分の感覚が基準で、他の人も自分と同じように感じていると考えてしまいます。
でもここまでたくさん具体例をあげてきたように人の感覚は千差万別です。「そんな些細なことで…」「それくらい我慢できるんじゃないか」と考えるのは、あくまで周りにいる他人の私たちが自分の感覚をもとに考えているだけなのです。
自分と相手の感覚は違うかもしれないという前提の認識を持って想像の幅を広げましょう。
多様な感覚があることを知りましょう。
そうやって多様な感覚についての知識や想像の幅が広がれば…いろんなことが変わっていくんじゃないかなと思います。
感覚過敏を科学的な視点から解説した本について別の記事で紹介しています。
この記事がそんなお役に立てれば幸いです。
参考にしたサイト
1.OGメディック「感覚過敏とは?聴覚や視覚が敏感な人の特徴と対処法を解説」
3.子ども情報ステーション「みんなの感覚過敏 たくさん集まりました」
4.子ども情報ステーション「感覚過敏[かびん]と鈍麻[どんま]─発達障害にともないやすい感覚の特性」
5.TEEN S「【図表でわかる!】発達障害 × 感覚過敏・鈍麻 | 「我慢が足りない」わけじゃない!7つの感覚に分けて解説」
6.HugKum「【作業療法士監修】発達障害の子供に偏食が多いのはなぜ?対処法は?」
7.note うさみあやこ ~あずきバーと情操教育~「もう!それってわがままじゃん!!~感覚過敏のおはなし~」
8.LITALICO仕事ナビ「感覚過敏とは? どんな症状があるのか、日常生活や仕事をする際にできる対処法について紹介します」
表紙の画像はKaienより引用しました。