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書籍紹介『特別支援教育の学習指導案と授業研究』

『特別支援教育の学習指導案と授業研究 子どもたちが学ぶ楽しさを味わえる授業づくり(肥後祥治/雲井未歓)」』という本の紹介です。

この本は盲学校時代に先輩から勧められた本で、この本を読んでから改めて授業に対する意識が変わりました。

ちょっと個人的な話を

思い起こせば、人にものを教えることの楽しみを実感したのは学生時代の進学塾のアルバイトでした。国語の評論文や小説、古文や漢文、英語の文法や長文読解、日本史、倫理などを教えました。そこでの経験が教員という道を選ぶことにも繋がりましたが、そこで授業をするときに意識していたことは「わかりやすさ」でした。物事の中身や関係、特に日本史では因果関係の繋がりなどを噛み砕き、ときには何かに例えて(英語文法のifなんかではドラえもんがよく登場しました)、生徒たちが「学校の授業でわからなかったことがよくわかる」と言ってくれたから、この教員という道に進んだ僕がいるのかもしれません。

ただ教育実習で母校に帰ったときに、ある教員から「君の授業は塾の授業だね」と言われたことが、当時は納得していなかったのですが、心のどこかにトゲとなって刺さっていました。

第一の転機が訪れたのは、盲学校に来てからです。あまり学んだこともない世界史Bを週4コマ進めないといけなくなり、毎日予習しながら、社会科関係のセミナーや研修会に参加していました。そんな中で、教科書に載っていることをわかりやすく教えるだけでなく、社会科の本質とはなんだろうかと考えるようになりました。

僕の結論は、「社会科は多種多様な考え方のフレームを学ぶ教科であり、その学んだことを言語化し、自分の言葉で説明できることが身に付けて欲しい力だ」ということです。そのため、授業の最後に学んだこと、覚えて帰ろうと思うことを生徒たちが書く振り返りノートやプリントのサブタイトルにその題材で学んでほしい題材のキャッチフレーズ(大航海時代なら「なぜコロンブスはインドを目指したのか」「スペインが世界一の太陽の沈まぬ国になったのはなぜか」など)をつけたりするようになりました。

そして引き続き研修会で、支援学校向けのお金の授業や感情コントロールなどソーシャルスキルトレーニングを学んで授業で実践していた僕の第二の転機になったのがこの本です。

長くなりましたがこの本の紹介へ

ジアース教育新社のホームページに掲載されている本の説明はこうです。

特別支援教育の授業づくりのすべての過程が分かるように、授業づくりの考え方、設計、実施、評価、改善する方法までを具体的に記述しています。各教科等や領域・教科を合わせた指導ごとに学習指導案の具体的な書き方を例示し、そのポイントも記載しています。また、授業を振り返り、次の授業に向けて改善するための授業研究の考え方やその具体的方法についても紹介しています。教職を目指す学生、特別支援学校、特別支援学級等の教員に向けた、学習指導案策作成や授業研究・授業実践に役立つ参考書です。

その通り、それぞれの過程について丁寧に具体的に説明され、さまざまな教科・領域での指導案の見本も掲載されています。また掲載されているブラッシュアップは、指導案だけでなく、日々の子どもたちとの関わりの中で大切にしたいことが詰まっています。

その中でも一番考えさせられたのは、「子どもたちは何のために学ぶのか、学んだことが生活の中でどう生きるのか」という視点です。

 私たちの教育現場には歴史的にテスト信仰があり、さまざまな検査や調査、見立てといった過程で、ある一面(主に知的な機能ですが)からのみの情報で子どもたちの発達が位置付けられ、それらをもとにした指導目標や支援方法が設定され、評価が行われますを私たちの作成する指導案も、能力の発達を中心に実態を把握し、目標に「〜することができる。」といった表現を活用するなど、「できる」ことに着目した内容になっています。その能力を使って、どういう生活の世界を作り上げていく(「する」)かというところまでは言及できていないのです。
 この「できる」ことと「する」ことの混同は、発達と生活を混同してしまうことにもつながりかねません。例えば、「繰り上がりの足し算ができる。」ことを目標に指導を行い、その結果できるようになったとしても、足し算の能力を実際の生活場面の中で生かすことができない、使えない状況はよく見られます。生活の中で、足し算ができることが生きる力として機能していくためには、一つ一つの能力の発達を単体として捉えた指導だけでなく、それぞれの能力を複合的に絡め合わせ、その関係の中で全体として見ていく視点が、授業づくりの中でも必要になってくるのです。
そこで、本校の指導案の中には、指導計画に、下表のような「習得」と「活用」に関する欄を設け、できるだけ具体的に、「⚫︎⚫︎で学んだことを◼︎◼︎の状況の中で活用する。」等の内容を記述するようにしました。
(ブラッシュアップ5 「できる」ことと「する」ことより)
 子どもは、1日の活動の大半を学校で過ごします。しかし、基盤はやはり、家庭であり、地域であり、そこに「生活」があるのです。就学までにはぐくんだ時間、卒業後に自立していく場を考えれば、学校で過ごす時間よりもずっと長いのが生活の場となります。子どもは、たくさんの姿をもっています。学校で見せる姿、家庭で見せる姿、社会で見せる姿、どれもその子の一側面であり、大切にしてあげたい姿です。「Nさんは、学校では物静かで恥ずかしがり屋だけど、家では弟の着替えを手伝ってあげたりして、お姉ちゃんらしい姿を見せているんだって。」そうであるならば、Nさんのやさしさ、世話上手なところを学校でも生かせるよう、その姿を学校でも認めていく、認められるような場面を作っていくということは、円さんの力の広がりとして大切なことでしょう。また、Nさんが、文字や数字に興味をもっていて、名前や10までの数がわかるのであれば、学校で、読み書きができる文字の数を増やしたり、数の操作を教えたりするでしょう。このとき、できるようになるだけでなく、できることが発揮できるような場として生活を見つめることで、弟の名前も読める、絵本を読んであげられる、二人分のお菓子を分けられる、お風呂の中で温まるまで数えられると言ったように学んだことが生きる力として活用され、「できる私」が実感されるのではないでしょうか。
(ブラッシュアップ11 授業と生活の接続をより)

この視点を持てたことで、より一層、生活上の課題や将来の進路、社会生活を意識した授業づくりを行うようになりました。

また日々の授業や子どもたちとの関わりの中で、その視点を、「なぜ僕がこのような注意やアドバイスをするのか」「学んだことが生活や将来のどんなことに繋がるのか」を伝えるようにもしています。

僕の語彙力や説明力では全てを伝えることはできないのですが、そのような視点や具体的な取り組み例を学ぶことができる本です。あと、個人的には後半の研究協議の進め方はどんどん広まればいいのになとも思っています。順番に喋るだけの研究協議は嫌いなので笑。

特別支援教育だけでなく、小中学校でも「なぜ学ぶのか、学んだことが何に繋がるのか」を伝えることは、子どもたちの学ぶ意欲や態度に繋がる大事な要素です。

そんな訳で、教育関係の方、特に指導案づくりや研究授業で悩まれている方へおすすめの本です。



表紙の画像はAmazon.co.jpより引用しました。