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猫との暮らし(3)

前回の受診で、状態がよかったので、1ヶ月ほど空けて様子を見てみましょう、とのことで、このまま快方に向かって行って欲しいな〜と思いつつ、病院に行ってレントゲンを撮ってもらったところ、思いもよらず、前回より悪化していたのだ。胸の水が再び増えていた。様子も普段と変わらないし、ちゃんと薬もあげていたので、こちらとしてはショックは大きかった。病院の先生からは、胸水を減らすために利尿剤の使用も選択肢にはあるが、心臓の機能が低下している中で、血栓ができてしまう危険性が増える、というお話があった。妻との相談で、利尿剤は使わず、まずは現状続けている投薬を続けるという選択を取った。病院の先生も、現状ではその選択がいいかもしれない、ということだった。

そこから、3週間ほどたったある日、妻が「ちょっとお腹が大きくなってない・・・?」と言った。確かに。そこまでほっそりとした猫ではないものの、太っていたわけでもないが、明らかにお腹が膨らんできている。

定期の受診の際、先生も「腹水が溜まってきてます。心臓の機能の低下によって循環能力が下がり、胸水だけでなく腹水も溜まってきている。ただ、胸に比べるとお腹はまだ膨らむ余裕があるので、多少は大丈夫。溜まっても、心臓に近い胸に比べれば、水を抜く際の危険度も低い。」とのことで、引き続き投薬治療で様子を見ることにした。本人はもちろんお腹が重いだろうが、至って普通、元気に過ごしてくれているのだが、エコーを撮ったところ、心臓は相変わらずかなり良くない状況が続いている、とのことだった。最初に診てもらった時に「いつ、心停止してもおかしくない心臓だ」と言われていたのだが・・・

それから2週間。
お腹がかなり張っている状態になってきた。呼吸も以前より荒くなってきていたので、病院に連れて行った。

先生は「お腹の水を抜いた方がいいと思います。ただ、お腹の水を抜けばげんきになる保証はなく、むしろ、体内の水分のバランスなどが崩れて、体調が悪化する可能性もあります。」という、説明を受けた。しかし、我々としても、先生としても選択肢はそれしかないように思えたので、腹水を抜いてもらった。700ccも抜けたのだ。おなかもスッキリ!家に帰ると心なしか元気そうに見えた。次回の受診は2週間後。それまでにあまり水が溜まらないといいな〜と思っていた。

しかし、1週間ほどして、明らかに水が溜まり始めているのがわかった。ちょっとペースが早いんじゃないだろうか?もちろん、抜いた分はまた溜まります、と先生が言っていたので、仕方のないことだとは思うけど・・・次回の受診まであと1週間、ちょっとでもペースが落ちるといいな〜。

次の受診の前々日木曜日。猫はいつもよりも活動的ではなく、ほぼほぼ寝ていた。とはいえ、おやつをねだりにきたりもしていたので、ちょっと元気ないかな?また土曜日に水を抜いたら元気になるかな、と軽く思っていた。

金曜日。朝4時に起きて、サッカーW杯スペイン戦を観戦。劇的な勝利の余韻を引きずりつつ、自分は仕事のため家を出た。3時間後、妻から写真と共に、「(猫が)しんどそう。」とLINEが来た。お腹も大きく、呼吸もかなり辛そうだった。その日の夕方にでも病院に連れて行こう、ということになった。その後も、リビングで横になったままだったということで、仕事が終わって、すぐに家に帰った。

家に入って、リビングに行くと、自分を見つけた猫が窓際からテレビ台の下に移動するのが見えた。猫の様子を見ると、すでに口呼吸になっていた。素人目で見ても、状況が良くないのが分かった。リビングに来た妻が、「何か臭う」と言った。どうやら、おしっこを漏らしていた、というかトイレにいくこともできなかったようだ。しかし、妻の話によると、夕方にチュールは食べたんだとか。それなのに、こんなに急に悪くなるものなのか・・・と愕然としつつ、急いで病院に連絡。抱っこするのも憚られるほど辛そうである。

車で移動中も辛そうな鳴き声をあげており、ただことではないな、と思っていた。病院は優先的に診察してくれるということで、着いたらすぐに診てもらえた。心臓の状態が相当悪化していた。エコーで見ると、それまでは見えなかった血の流れが悪くなっていることを示すモヤモヤがしっかり見えてしまっていたのだ。酸素マスクを当てられつつ、今後どうするかを先生と相談。まずは血栓を防ぐ薬の投与は必要。心機能が低下しているので、強心剤を入れることや、胸の水を抜くことも選択肢に。また、酸素室に入れて様子を見ることも選択肢として提示された。しかし、どれもこれも根本的な治療にはなり得ないことも、先生から告げられた。今夜超えられるかも危ないだろう、とのことだった。

状態はどんどん悪化していた・・・

我が家の選択肢は、酸素ボンベとマスクを借り、まずは今夜をしのぐ、という選択だった。

なんとか帰宅し、酸素マスクを顔にあてがう。すでに横たわって、力なく口呼吸をするのがやっと、という感じだった。認めたくはないが、今夜、超えることができなさそうだな、と感じた。

前日、前々日まで、普通におやつをねだって、こちらの顔を見て「にゃー」と鳴いていたのに、なんでだよ・・・

次第に、マスクを嫌がるようになり、苦しそうに体制を変えたり、ふらふらと場所を移動するようになった。見る影もなく、ふらついている。ショックだった。時折、苦しそうな鳴き声をあげて、体制を変えたりふらふら歩いて、また横になる、というのが続いた。ふと、横になったまま、おしっこをしていた。それを拭いてあげていると、また立ち上がりふらふらとリビングの角に行った。
そこで、大きな、そして苦しそうな声を一声上げた。それが彼の最後の声だった。最後は大きく目と口を開き、体が硬直して、息を引き取った。


我が家に来て、5年ほど。まだ5歳そこそこの猫だった。保護主さんの躾もあって、本当になんの苦労もなく、我が家に馴染んでくれ、家族に笑顔と幸福感をもたらしてくれた。まだまだこれからたくさん一緒に過ごせると思っていたのに・・・彼の死に様は、今でも脳裏に焼き付いている。思い出すだけで、涙が出そうになる。どれほど苦しかったのだろうか。最後は、何もしてあげることができなかった。最初の咳で、なんですぐに病院に行かなかったのだろう。いろんなことがぐるぐる渦巻いた。

翌日、病院に酸素ボンベを返却しに行った。
先生は「お力になれず申し訳ない」と声をかけてくれた。最初に心臓が良くないことを指摘してくれた病院にも感謝したい。そして、常に状況と選択肢を明確に説明してくれた今の先生にも感謝しかない。ありがとうございました。

今、我が家には、彼の骨壷がある。後から我が家に来た猫がたまに探しているような素振り見せている。寂しいだろうな。

ネットをうろうろしていると、こんなことが書かれていた。
「猫が死ぬとき、家族の不幸を持っていってくれるのだとか。」
人間の勝手な思い込みなのかもしれないけど、もしかしたら彼も、我が家の不幸を全て持って行ってくれたのかもしれない。でも、そんなことをしなくても良かったんだよ。長生きして、そばにいて欲しかった。

のんびり、書いて行こうと思っていたこの記事。まさかの急展開が起きて、一気に書き殴った。

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