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梅の正しい追熟方法〜もうカビは見たくない〜

懺悔します。梅にカビをはやしてしまいました。
保育園の食育で、翌日使う予定の梅に…

とある木曜日、食育の梅干し作りに使う梅が早々に納品されました。
発注担当者が持ってきた白いビニール袋を開くと、ふわりとあたりに漂う芳しい香り。大粒の立派な梅たちが柔らかで繊細な肌をさらしています。その量2kg。肌の一部がほんのり黄色く染まっているものもありますが、大体の梅はまだ初々しさの感じられる緑色をしていました。

食育は翌週の火曜日。今から追熟すれば当日には梅干しにぴったりな完熟梅になるんじゃないだろうか。
わたしはそう思い、発注担当者から梅を受け取って職員の休憩室の片隅に梅を置いていくことにしました。

その翌日である金曜日、有給休暇をもらっていたわたしの出勤は無し。土日はもちろん休み。そして月曜日。
出勤してわたしはかわいい梅たちの様子を見に行きました。きっとみんな、キレイに黄色くなって、梅干しにしてくれるのを待ち焦がれているんじゃないだろうか…
白いビニール袋をがさりと開き、わたしの顔は一瞬にして蒼白しました。
梅にカビが、はえている。

約半分ほどの梅に白いほわほわとした綿毛のようなカビが生え、残りの梅にもその表面に茶色い斑点のようなシミができていました。触るとじゅわっと汁が出てきそうなほど、ぐじゅっと痛みかけているものもありました。

かわいい梅たちを台無しにしてしまったこと、翌日の食育用の梅が使えなくなってしまったことを、血の気が引く思いで園長先生に報告しました。
偶然にもその日、園長先生が買い出しへ行く予定があり、その時いっしょに梅を買ってもらえることになりました。とはいえ本来必要のなかった手間と出費です。申し訳ない気持ちで園長先生に謝罪していると「これはあなたの勉強代にしてください」と言葉をかけていただいたのです。

勉強代。
わたしがやるべきなのは、この失敗から学び2度と同じことを繰り返さないこと。
そこで正しい梅の保管方法と追熟方法を、記事にまとめることにしました。

1.梅の追熟ってなに?

そもそも梅の追熟とは何を指し、なぜ追熟が必要なのでしょうか。

「リンゴとエチレンガス」の話をします。
リンゴはエチレンガスを発生させているので、ほかの野菜や果物とリンゴをいっしょに袋に入れて密閉すると、いっしょに入れた野菜や果物の熟成がすすんでしまいます。
エチレンガスとは野菜や果物が分泌するホルモンであり、植物の成長を促進するはたらきがあります。リンゴと同様に、梅もエチレンガスを発生させます。このエチレンガスにより梅は収穫後も熟度を高めることができるのです。これが「追熟」です。ちなみに成熟するにつれて梅のエチレンガスの生成量は増えていきます。つまり追熟するにつれて追熟の速度は速まります。

梅干しは一般的に黄色く色づいた完熟梅で漬けるのがよいとされています。それはまだ熟していない青梅で漬けると、皮や実が固くなってしまい、一般的に美味しいとされるやわらかな梅干しが作れないためです。また青梅では梅酢が上がりにくく、梅干し作りが失敗するリスクが高まります。完熟梅は皮が薄く実がやわらかいので、完熟梅で漬けるとやわらかく食べやすい梅干しになります。

しかしそのやわらかさゆえに、完熟梅の状態で収穫すると輸送中に皮が破れてしまうため完熟梅には「流通させにくい」という難点があります。
以上の理由から梅はまだ皮が固い青梅の状態で収穫、流通、販売されるため、わたしたちは適切な熟度になるまで梅を追熟させる必要があるのです。

2.梅の追熟に適した環境は?

梅の追熟の際に気をつけたいのは ①温度 ②湿度 ③呼吸 です。

①温度
追熟に適した温度は20~30℃です。この温度帯のなかで、温度が低ければ追熟はゆっくり進み、温度が高ければ早く進みます。19℃以下だと茶色く変色して実が傷んでしまう低温障害になってしまうので、通常3~6℃、野菜室でも3~8℃である冷蔵庫での追熟はできません。直射日光にも当てないでください。

②湿度
梅の表面からは梅内部の水分が水蒸気として空気中へ出ていく「蒸散」が起こっています。そのため梅をそのままにしていると、梅内部の水分量が減って乾燥してしまいます。逆に水分が多すぎてもカビの原因となってしまいます。
追熟させるのに数日かかりそうな場合は、霧吹きで水を吹きかけてあげてください。梅がしっとり濡れてしまうほど水を吹きかけるとカビてしまうので、水を吹きかけるのは1日1回だけで十分です。水分補給は絶対に必要なことではないので、梅の様子を見て乾燥しそうであれば行ってください。

③呼吸
梅はその表面から酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する「呼吸」を行っています。追熟が進むほどにエチレンガスの生成量は増えると先述しましたが、呼吸も同じ。追熟が進むほどに呼吸量も増えていきます。このときに梅が袋に入って密閉されたような状態にあると、袋の中の酸素が減って二酸化炭素が増えてしまいます。すると梅は酸欠状態になり、異常を起こして脱水、腐敗してしまうのです。梅を購入したらまず、梅が入っていた袋から出してあげるのがいいでしょう。

ここでわたしの過ちを振り返ります。
わたしは梅を受け取り、梅が入っていたビニール袋のまま3日間放置してしまったのです。しかも「ほこりがかかりそう」と思い、辺りにあったお菓子の大きめの紙箱の中にビニール袋ごと入れてしまいました。ふたはゆるく閉じていたものの、ビニール袋のなかは梅が発した水蒸気で湿度が高まり、呼吸によって酸素は薄まり二酸化炭素濃度が高くなる。かわいい梅たちは“加湿・酸欠”状態にあったのです。

その証拠に3日後梅の様子を見たときに、ビニール袋の内側は大粒の水滴が付くくらい水でじっとりと濡れていました。梅と氷砂糖をいっしょに漬け込んで梅シロップを作るとき、水を加えていないのに梅からはたっぷりとエキス分が出てきますよね。梅にはそれだけ水分が含まれているということなのです。

①温度、②湿度、③呼吸という要素が梅の追熟において重要であることが分かりました。逆に言えばこの3要素をクリアすれば梅の追熟を攻略できるのです。
これらを踏まえて次からは実践編です。具体的な追熟の方法を紹介します。

3.梅を追熟してみよう!

ここまでの梅の特性を踏まえた、具体的な追熟方法について説明します。

追熟前に気をつけることが3つあります。
ひとつ目は、傷みがある梅は取り除いてください。実が潰れている、カビがはえている、変色しているなど傷みがある梅を入れておくと、ほかの梅も傷んでしまいます。

ふたつ目は、未熟果は取り除いてください。未熟果とは種が完全にできあがっておらず、種の外側が固くなっていない実のことです。未熟果を追熟しても、うまく黄色くならず茶色く変色して表面に乾燥したようなシワがよってきます。梅の実が青く(緑色で)お尻がとがっているものは未熟果なので、取り除くようにしてください。

三つ目は、梅を水に漬けないでください。先述のように水分が多いとカビの原因となってしまうので、水洗いなどの作業は追熟した後に行いましょう。

それでは、追熟方法を二つ紹介します。
一つは段ボール箱を使う方法、もう一つは竹ザルを使う方法です。

1.段ボール箱を使う

①乾いている段ボール箱の中に新聞紙を敷く
②梅を平に広げて入れる
③段ボール箱のふたはゆるく半開きにしておく
④直射日光が当たらない、風通しのよいところに置く

梅は多少であれば重なっても大丈夫ですが、あまり重ねると梅から発生した水蒸気がたまってカビがはえることがあります。段ボール箱が小さくてどうしても梅が重なってしまうときは、ときどき箱を開けて梅に空気を通してあげてください。

2.竹ザルを使う

①乾いた竹ザルを用意する
②梅を平に広げて並べる
③梅の上に新聞紙を広げてかける
④直射日光が当たらない、風通しのよいところに置く

竹ザルなんて持っていないという方もいるかもしれませんが、追熟だけでなく梅干しの天日干しをする際にもあると便利なので購入するのがおすすめです。
金ザルは、梅に金気が移って梅の風味が損なわれるのでやめておきましょう。風通しがよければ、プラスチック製のザルでも大丈夫です。ザルの目が細かく、風通しが悪そうなものは使用を避けます。

新聞紙は水分の蒸発を防いで湿度を保つためと、梅から発生するエチレンを分散させず効率よく追熟させるためのものなので、必ずかけてあげましょう。
梅の重なりについては段ボール箱の場合を参照してください。

追熟中は、梅に異変がないか1日に一度は様子を見てあげましょう。
わたしの場合、3日間も経過観察せずに放置してしまったことも梅をカビさせてしまった原因のひとつだと言えます。毎日様子を見ることができれば、ビニール袋の中に水分がたまってきていることに早めに気づいて、梅を袋から出すなど対策が取れたでしょう。反省、反省です。

4.追熟はいつ終了するの?

上手に追熟できれば、梅はすぐ色が変化してきます。
もとの梅の青さや環境にもよりますが、通常1〜5日で追熟は完了できます。
スーパーで購入したような梅は、流通の時点ですでに収穫から1〜2日経っていると考えられます。そのため追熟にもそこまで時間はかからないでしょう。

追熟を終える目安として、以下の3点をチェックしてください。

1.梅の色:薄い黄色みを帯びてくる
梅は青色(緑色)から徐々に薄い黄緑色になり、黄色くなっていきます。茶色い斑点が出てきたら置き過ぎです。慣れていないと色だけでは判別しにくいかもしれませんが、他のチェックポイントと合わせて判断してみてください。

2.梅の硬さ:表面がやわらかく弾力がある
新鮮な青梅はとても硬くつやつやと青い状態です。しばらく日が経つと黄緑色に変わり、青梅のときの硬さがやわらいできます。
触ってみて、実の外側に柔らかめの弾力がありつつ芯はしっかりしているものが梅干しにはちょうど良いです。
梅干しでは重石などをして漬けていくため、あまり柔らかすぎると実が潰れてしまうので、少し硬さが残るくらいの方が漬けやすいでしょう。

3.香り: 桃のようなフルーティーな香り
青梅はフレッシュな青りんごのような香りがします。それが徐々に変化し、熟すと桃のようなフルーティーな香りが漂います。

保育園で、追加購入した梅を使って園児と梅干しを漬けたときに、子どもたちがまさに「桃みたいなにおいがする〜!」と言っていました。梅干しにするにはぴったりな追熟状態の梅だったのですね。

熟度が異なる梅が混ざっている場合は、完熟しているものを先に漬けてしまって、青梅は追熟させてから漬け込み、梅酢が上がってきたところで2種類の梅を合わせると良いそうです。

5.おわりに

以上が、わたしの調べた梅の正しい追熟方法になります。
これを知っておけば、梅の追熟に失敗することはまずないでしょう。追熟の仕組みや追熟に適した環境から学ぶことで、例えば段ボール箱や竹ザルがない場合に梅の追熟に適した環境をどのようにすれば作れるか、自分で考えることができますね。

とはいえ今年2021年の梅の時期はもう終わってしまったようです。来年以降、この記事を読んだ方のお役に立てればうれしいです。わたし自身も、もう二度と梅にカビをはやさせません、梅を台無しにしませんと、保育園の園長先生に宣誓する気持ちを込めてこの記事を投稿したいと思います。

ではでは。

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