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真桑瓜

農家に生まれたと言うと、新鮮な野菜が食べられていいねって言う人が多いけれど、実際は野菜は商品で生活の糧。収穫された野菜は見栄えで等級毎に選別し出荷されるゆえ、自宅で食べるのはほとんど出荷にも出来ない野菜ばかりだった。見栄えも味もいまいちで、子供の頃は野菜が嫌いだった。私が野菜を好きになったのは、仕事を始めて自由に買い物に行き、レストランで綺麗な彩り良い色んな野菜を食べ始めてからだ。まぁ子供は苦みが苦手だったりするので野菜嫌いは多いけれど。今流行の家庭菜園では色んな野菜を少しづつ植え、楽しむ人が多いけれど、農家の場合は大抵一種類を大量に植えるのだ。よって毎日同じ野菜が食卓に乗り、飽き飽きして来るのは仕方ない事だ。

そんな農家にも楽しみがあり、それぞれ出荷するメインの野菜とは別に少しだけ畑の隅に好きな野菜を植えたりする。うちの母もそうで、夏になるとマクワウリを少しだけ作って食べていた。メロンと同じウリ科で、メロンより味が落ちるけれど甘くてさっぱり美味しい。白瓜は奈良漬けの材料になるので人気があり、出荷できるけれど、マクワウリはニーズがないため専ら農家が少しだけ作って家で食べている感じの野菜だった。メロンがまだ高級だった頃にはよく食べられていたらしい。あくまでもメロンの代用品の存在。

初めて韓国の市場へ行った時、このマクワウリが大量に売られているのを見て驚いた事がある。チャメと言って韓国でメロンと言えばマクワウリだそうだ。その後、何人もの韓国の人からメロンよりチャメの方がさっぱりして美味しい!と聞いた。(私は断然メロンなんだけど・・)もしかしたら今の日本みたいに安価でメロンが流通したら、マクワウリの存在も危うくなるかもしれないなぁと密かに思っている。韓国では種ごと食べる方が甘くて美味しいと言われている。私も試してみたのだが・・ジャキジャキ感が残っていまいちだった。(個人の感想)

最近の韓国ブームで、韓国好きの人の間ではこのチャメを食べてみたいと言う人が多い。もはやマクワウリと言う名前よりチャメで通っている。私の中では昔からあるこの瓜の存在、結構知られてない事に驚きだった。確かに田舎の農家でしか流通していないので都会の人は知らないのかも。わざわざ新大久保で輸入品のチャメを買っている人達をSNS等で見かけるようになった。(高級な輸入品を買わなくても田舎の道の駅なんかに安くてあるのになぁ・・)なんて密かに思ってたりしていた。

ところが今年の夏、やたらとマクワウリをスーパーで見かけるようになった。しかも1個300円はする事に驚き!田舎の道の駅では1個100円程度だったのに。田舎の畑の片隅で転がっている感じの地味な野菜がついに、脚光を浴びる日が来るとは!まるで逆輸入スター!

私の憶測だが・・コロナで韓国旅行へ行けない人達が急増、韓国ロスも起きている。TVでは相変わらずの韓国ドラマの人気。ドラマではよく食後にチャメを食べている→私も食べてみたい。って感じで人気沸騰→韓国より大量輸入で売れているのではなかろうか。

農業も今までみたいに定番の野菜ばかりを作らず、時代を読みながら生産するビジネス先行型に変わって行かなきゃいけないのではないかな。日本人の食生活や好みも多様化して色んな野菜のニーズも出て来るのではないかな・・でもそのニーズのひとつが、今では忘れ去られていたマクワウリとは何だか面白い。

真桑瓜、漢字の方が何だか立派で好きだなぁ。

ちなみにメロンもマクワウリもウリ科の野菜である。でもメロンは果実扱いにされていて、果物屋さんで売られているので”果実的野菜”と言われている。マクワウリも将来果実的野菜に昇格?して果物コーナーで売られる日が来るのかな。

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