【備忘録】みんな大好きガイドライン、再々改定は見送り
※画像は外務省フェイスブックより
日本メディアは「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)が大好きなようだ。各紙とも、昨年12月の安保関連3文書改定と自衛隊による反撃能力の保有方針決定を受けても、現時点でガイドラインを見直す予定はないという日米政府当局者の話を執拗に報じている。
ガイドライン見直しを巡っては、林芳正外務大臣が1月12日、米側との安全保障協議委員会(2プラス2)後の記者会見で「見直しが直ちに必要になるとは考えていない」と語った。松野博一官房長官も16日の記者会見で「わが国の反撃能力の保有の決定のみをもって、直ちに日米ガイドラインの見直しが必要になるとは考えていません」と明言。米国防総省のシン副報道官も19日、「現時点でガイドラインを改定する予定はない」と述べた。
いずれも記者会見における質問に対する回答という点が興味深い。シン副報道官に疑問をぶつけたのも、日本メディアだろう。
なぜメディアはガイドラインにこれほど固執するのか。乱暴に分析すれば、それが「自衛隊は盾、米軍は槍」という役割分担を明確に規定しているからだろう。反撃能力の保有をもって自衛隊は槍の一部を担うことになるのだから、「盾・槍」の関係を明示したガイドラインは当然改定されるはずだ、というわけだ。
しかし、先に記したように、反撃能力はほぼ弾道ミサイルへの対処にのみ焦点を当てており、日本政府はその保有に当たり、専守防衛(自衛隊は盾)というフィクションに適合するよう綿密に論理を練り上げたもようだ。日本政府に言わせればガイドラインを見直す政策上の必然性はまだないのである。
より具体的に、現行ガイドラインの内容を見てみよう。現行ガイドラインの弾道ミサイル対処に関する項目は、「日本に対する武力攻撃への対処行動」(日本に対する武力攻撃)「日本以外の国に対する武力攻撃への対処行動」(存立危機事態)の2カ所に出てくる。
いずれもミサイル発射の早期探知に向けた日米間の情報交換を定めた上で、それぞれ「自衛隊は、日本を防衛するため、弾道ミサイル防衛作戦を主体的に実施する」「自衛隊及び米軍は、各々の能力に基づき、適切な場合に、弾道ミサイルの迎撃において協力する」としている。これらに鑑みれば、現行ガイドラインの書きぶりで反撃能力を運用することは可能である。
もちろん、「ミサイル防衛作戦」に敵領域内の目標の打撃が含まれるのかという論点への回答がなく、打撃目標の位置情報の共有や自衛隊が発射したミサイルの誘導に関する記述もないなど、不十分な点はあり、ガイドラインを書き直したとしても不思議はない。
それでも日米両政府が改定はしないと表明したのは、やはり今ガイドラインを改定するなら、台湾有事における自衛隊と米軍の間の作戦構想も書き込まないと意味がないと日米が考えているためだろうと推測する。台湾有事における日米の作戦協力を今の時点で明確に打ち出すことは、刺激が強すぎるということではなかろうか。
2プラス2の共同文書は「同盟の役割及び任務の進化並びに(中略)安全保障上の課題に対応するための相互運用能力の強化」をうたうにとどまった。日米は結局、「必ずしもガイドライン再々改定に直結しない、自衛隊と米軍の役割・任務・能力(RMC)の進化に向けた実務協議の加速」という道を選んだようだ。