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【米国情勢】台湾政策ver.1.1

*タイトル画像クレジット Official White House Photo by Adam Schultz

 ようやっと日本においでなさったバイデンおじいさんが、岸田おじさんとの共同記者会見の最後の最後で「中国が台湾侵攻したら盾になっちゃる」的爆弾発言を投下し、世間をざわつかせた。

 長らく「失言製造機」と呼ばれてきたバイデン氏、これまでも2回ほど同様の不規則発言を行っている。今回も含め、直後にホワイトハウスの謎の高官による「米国の台湾政策は変わっていない」という声明が出て火消しを図る、までがテンプレートである。

 今回は、三度目の正直ということに加え、中国のお隣の国で、しかも公式の記者会見という場所での発言であって、老人ボケと軽くいなすわけにはいかないだろう。やはり中国を意識した意図的声明と捉えるべきで、米政府が取ってきた台湾に関する「曖昧政策」のちょっとした修正、という意図をかぎ取ることができる。

バイデンおじいさんの台湾失言史

 2021年に大統領に就任して以降のバイデンおじいさんの過去の失言をたどってみよう。まずは同年8月18日に行ったABCテレビとのインタビュー。

われわれはあらゆる誓約を守ってきた。実際にどこかの国が米国のNATO同盟国に侵攻しようとしたり、(そうした)行動を取ったりした場合に米国は対処するという、(NATO加盟国を防衛する義務を定めた北大西洋条約)第5条の神聖な誓約を結んだ。日本も、韓国も、台湾も同様だ。

 続いて同年10月21日、メリーランド州ボルティモアで開かれたCNN主催の市民との対話集会。

司会者:中国が攻撃した場合、米国は台湾防衛に駆け付けるのか。
バイデン:イエス。そうする誓約だ。

 いずれの発言後も、ホワイトハウス当局者は「台湾政策を変更したわけではない」と釈明した。その政策とはいわく、「米台の防衛関係は台湾関係法によっており、台湾の自衛を支援し、いかなる一方的な現状変更にも反対し続ける」。

台湾関係法とは

 ここで言う台湾関係法は、1979年の米中国交正常化の際、米国として台湾の安全保障に引き続き関与することを定めた米国内法。バイデンおじいさんも、まだイケオジだった上院議員時代に賛成票を投じた。防御的兵器の台湾への売却のほか、台湾市民の安全やアメリカの利益に対する危険について、大統領と議会は適切な行動をとることとしている(同法第3条C項)。

 キモは、「適切な行動」とは何かを明文化していない点だ。従って、軍事介入するという判断も、しないという判断も、いずれもあり得る。これが、米政府が今も変えていないと主張する、台湾有事の際に武力介入するかどうかを明確にしない「曖昧政策」である。

 裏返せば法律の建前上、議会が認める限り何をしても良いわけで、バイデンじいさんが「介入する」と言ったところで、それが台湾関係法に反しているわけではない。繰り返すが、バイデン「失言」は台湾関係法からの逸脱ではないので、「台湾関係法に基づく従来の政策に変わりはない」というホワイトハウス高官の説明は、釈明になっていないのだ。

「二重の抑止」の軸を修正

 「曖昧政策」の狙いは二つ。まず、米国が軍事介入する余地を残すことで、中国による台湾侵攻を抑止する。同時に、介入しない可能性を残すことで、台湾が米国の軍事的後ろ盾を得たと浮かれて独立やら中国相手の武力挑発に及ぶような冒険に及ぶことを防ぐ。「二重の抑止(Dual deterrence)」というやつである。

 ひるがえって、今回のバイデン発言は、中国が台湾に侵攻した場合に軍事介入する意思があるかと米国人記者に問われ、「イエス。それがわれわれの責務だ」と語ったというもの。

 そして例によって、直後のホワイトハウス高官による「台湾政策に変更なし」の釈明。今回はバイデン自身も翌日に「変更なし」と述べている。曖昧政策の枠組みは堅持する、という公式ラインの確認である。

 「責務(commitment)」という言葉が「義務」と似ていて気にはなるものの、バイデン「失言」は総じて、「台湾防衛義務を確認したわけじゃないけど、台湾に喧嘩売ったらお父さんいじめられっ子に加勢するつもりだからやめとけよ」という大統領個人としての中国へのメッセージ、戦略的コミュニケーションの一種だった、と捉えるのが妥当だろう。

 大陸反攻を画策した蒋介石大老が生きていた時代や、台湾アイデンティティーの高揚を図った李登輝おじいさんの時代と異なり、20年代の台湾は中国の軍事力の前に圧倒的に不利なこともあって、軍事的には言うに及ばず、政治的にも自ら挑発に挙に出る可能性は低い。

 そこで、「曖昧政策」という枠組みは維持しつつ、台湾抑止より中国抑止にやや軸足を移したということではなかろうか。これを称して、「曖昧政策ver.1.1」。

 バイデンおじいさんだって、過去2回も「失言」していれば、そのたび側近から叱られたりしてその重大性は分かっていようというもの。敢えて3度目に臨んだところに、意図的なものを感じるのである。そうでなければ、真性のボケですな。プーチンより危ないぞ。

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