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社員の創造的本能を解き放て!世界を変えるモノづくりベンチャー・メトロール快進撃の物語

皆さんは「メトロール」という会社をご存知でしょうか?

工作機械などの工具の先端の位置を精密に決め、設計図通りの細やかな加工を可能とする「精密位置決めスイッチ」というニッチな分野で世界トップシェアを誇る企業です。

2代目社長である松橋卓司氏は「世に残る唯一無二の製品を作り続けたい」というビジョンのもとに、働く若者の一人ひとりがイキイキと働く環境を作り上げ、世界トップの座を掴み取りました。

なぜ、小さな会社が画期的な機械を生み出せたのか。

今回は松橋氏に、世界トップを掴みとるまでに実践した挑戦や戦略・理念、それを支える組織づくりについてお聞きしました!

【ゲストスピーカー】
松橋 卓司 氏
株式会社メトロール 代表取締役社長
日本大学農獣医学部を卒業後、日清食品株式会社を経て、1998年父が創業したセンサメーカー(株)メトロールに入社。1990年代のインターネット黎明期より、海外向けのECサイトを立ち上げ、海外顧客との直接取引を開始。現在は欧州や北米などを中心に、世界74か国のべ7000社と電子直取引を行っている。「2012IT経営力大賞 経済大臣賞」「2015ベンチャー技術大賞優秀賞」「Forbes SMALL GIANTS AWARD 2021 ゲームチェンジャー賞」など多数受賞

【モデレーター】
佐藤 英丸 氏
btrax Japan Senior Advisor
早稲田大学理工学部卒業。米国スタンフォード大学大学院卒業後、日本ユニバック(現日本ユニシス)で、コンピュータアニメーションシステムの開発に携わる。95年にシチズン時計株式会社の米国現地法人代表に就任。97年にAOLジャパン株式会社の代表取締役に転進。03年4月、メディア·メトリックス·ジャパン株式会社CEO、アバカス·ジャパン株式会社の代表取締役社長、エクスペディア·ジャパン株式会社の日本法人代表、コムスコア·ジャパン株式会社の代表取締役を歴任。2014年より、ビートラックス·ジャパン合同会社のシニア·アドバイザーに就任し、日本企業のイノベーション創出のサポート、スタートアップ企業の支援などにも携わる

羽田 雅一 氏
ビジネスエンジニアリング株式会社 代表取締役・取締役社長、MIJS理事長
1987年にエンジニアリング会社に入社し、プログラマ・システムエンジニアとして製造業向けのシステム開発に携わる。1996年にお客様の導入システムをベースに4人で「mcframe」を企画・開発し、同システムの営業・導入などに携わる。1999年、ビジネスエンジニアリング株式会社設立と同時に入社、2007年より海外向けERP製品のA.S.I.A.(現mcframeGA)を併せて担当することになる。2016年よりCMO/CTOとして、全社の営業・技術を管掌する。2020年4月より取締役社長へ

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松橋氏:
今、工場はどんどん自動化が進んでます。ただ、ロボットが製作を担うにしても、使っているうちに関節にガタが来たり、熱膨張が起きたりして、最初にセッティングした位置からズレていくという問題があるんです。

そのコンピューター制御のところに、正確な位置信号を送るのが私たちの「精密位置決めスイッチ」。

工作機械の刃物の先端の位置をセンサーでチェックし、熱膨張や磨耗を検知しながら修正をかけて、最初の原点からほぼズレのない範囲で精密加工ができるようになっています。

羽田氏:
いろんな大手メーカーがあるなかで、なぜメトロールさんが他社より先に目をつけて「位置決めセンサースイッチ」を出せたのか。その理由は何ですか?

松橋氏:
一番最初のスタートは、なかに板バネが入っててカチッと接点をつくるような「マイクロスイッチ」や「リミットスイッチ」がもとになっています。

ところが、産業が近代化していくなかで、「摩耗」の問題が出てきた。

そこで世界の電機メーカーは、物理的なものは全部なくし、なかにアンプを入れました。磁場や光の変化をアンプで変換して、非接触で全部検知しないようにしたんです。それが、「近接センサー」や「光電センサー」です。

一方で、私の父だけはその流れに乗らず、「同じ機械式だったら精密な機械式にできるんじゃないか」と考えたんです。

電気的進化で生まれた非接触のセンサーは一見オールマイティーのようだけど、実は致命的な欠陥があります。

それは、磁場や光の変化というのはかなりアバウトで、温度などの変化で原点が変わってしまうということ。昔、六本木のビルの回転ドアで挟まり事故が起きましたが、あれは子どもが小さくてセンサーが検知しきれなかったことが原因です。

しかも、工作機械の世界となれば、それは1000分の1ミリから10000分の1ミリの世界。非接触で正確に検知することは難しいんです。そこで、私たちは機械的に進化することにしました。

そうして他の会社が誰もやらなかったことを極め、気がつけば精密機械式で進化しつづけている会社は私たちしか残っていなかった。それが理由になります。

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羽田氏:
ここに大手メーカーが新たに参入してこないのが不思議なのですが、これは何故なんですか?

松橋氏:
機械メーカーは、1台で最低でも何百万、何千万円の機械を売ってるんですね。そして、そのセンサーは機械ごとに全部種類が違うんですよ。そんな細かいものをいちいち作っていたら、本業がおろそかになってしまう。

一方で、僕たちは機械メーカーの機械ごとにすべてオーダーメイドで作れてしまいます。

コードの長さから、大きさから、全部カスタマイズしてその機械のジャストフィットなものを作れるので、大手メーカーもわざわざ自社で今から作ろうと思わないんですよ。

羽田氏:
大手メーカーだと、ロットがある程度大きくないと作らないところもありますけど、メトロールさんは数個でも作れますよね。そこはやはり現場がそういうふうに対応できるノウハウがあるからですか?

松橋氏:
そうです。私たちは1個から注文を受けられます。ただ、全部イチからオリジナルで作ると儲からなくなりますから、共通のベースとなる「リカちゃん人形」のようなものがあって、あとは「着せ替えの服」を作っているイメージです。

今は3次元CADというものがあって、工作機械も自社にありますから、海外のお客さん相手でも、1週間以内にサンプルを作れてしまいます。やり取りもすべてインターネット中心ですし、スピーディーな対応も売りのひとつですね。

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ーーメトロールさんは海外でも多くの企業と取引をしていますが、どのように展開していったのですか?

松橋氏:
1998年に私が入ったときは、日本の工作機械メーカーとしか取引していませんでした。

非常にオリジナリティのある製品だというのはわかっていたので、海外ユーザーに売ることを考えていたのですが、残念なことにうちには英語を喋る人もいないし、海外に駐在員を送ることもできなかった。

ただ、ちょうどインターネットが勃興した時期だったので、1999年から海外ユーザー向けにECサイトを作って、自分たちの製品を売りはじめたんです。

すると、さまざまなお客さんがECサイトを通じてアクセスしてきたんです。その後、Googleのアドワーズ広告も出てきて、メトロールの製品ナンバーを入れれば、検索できる仕組みが広がり、お客さんがどんどん増えていったんですよ。

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それと、もうひとつ力を入れたのは展示会の出展です。

工業用の展示会というのは世界中の都市で行われているので、それに片っ端から参加して、この20年間で延べ14ヵ国38都市・200回以上出展しました。

もともと他の国でも誰も作っていないようなセンサーなので、現地でエンジニアに実際に手に取ってもらうと、「こんなのがあるんだ!」と引き合いをいただくことが多かったです。

現在は海外企業だけで約3100社、あと国内企業を入れると約7000社と取引をしています。

羽田氏:
海外に出るとき、中小企業中堅企業だと商社を使うケースがほとんどだと思うんですよね。メトロールさんがあえて直販にこだわられている理由はあるんですか?

松橋氏:
ECサイトを作ったのは、ちょっと怒りがあったからなんですよ。ブローカーを何社も通した結果、うちが日本で1万円で売ったものが、ある国では20万円で売られていたことがあった。

それで、「1万円のものを20万円で売るんだったら、うちが5万円で売るよ!」と直販をするようになったんです。

国内メーカーの場合は大抵メーカー卸価格になるんですが、ユーザーと結ぶとユーザー価格になる。だから、その何倍もの値段で売っても非常に利益が取れるんです。

仮にその機械が中古市場に行っても、私たちが保守部品を提供しつづける限り、保守部品のビジネスを続けられます。

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羽田氏:
僕らも展示会に出展していますが、ソフトウェアだと展示会で売るのが難しくて苦戦しますね。一方で、メトロールさんの場合は本当に製品がユニークだから、ネットや展示会で、みんなが興味を持つんだと思うんですよ。

だからグローバルに出ようと思ったら、本当にユニークなものを作らなきゃいけないし、本当にユニークなものが作れば、そんなにお金をかけなくてもグローバル化が実現できる、というのが本質だと思いますね。

松橋氏:
製品の差別化はすごく実は大事ですね。近接センサーや光センサーでは世界シェアは取れないんですよ。同じ競合の強力なメーカーがヨーロッパにもアメリカにもいるから。

佐藤氏:
松橋さんはユーザー視点に立って今流行りのUXをきちっとやってらっしゃるんですよね。

私はアメリカの機械系のスタートアップをたくさん見てきましたが、皆ほとんどアメリカだけを見るのではなく、まずマーケット規模の時点からグローバル展開を見据えてる。

それを99年からやり始めたメトロールさんはすごく革新的です。エンジニアと話すことも、買う先の人たちのことを理解することも、引いてはUXを知ること。それを愚直にやられているところが素晴らしいなと思います。

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ーー最後に、ユニークな商品をどうやって生み出しているか、組織やチーム作りにまつわるお話をお聞きしたいです。

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松橋氏:
私の父はもともと内視鏡の開発者でした。当時の死亡原因の1位が胃ガンで、いかに早期発見するかが求められていたんです。ところが、胃のなかにカメラを入れると、胃液に浸かって壊れてしまうんですよ。

実験の途中に仮に感電死にでもなったりしたら、会社の名誉に関わる…ということで、当時初代開発者の深海正治さんは担当を外されてしまいました。それを引き継いだのがうちの父で、7年間も会社に隠れて開発を継続したそうです。

生前の父は、初代開発者の深見さんが何の公的表彰も受けていないことを嘆いてました。

それが逆に、「技術者が管理部門から管理されないで好き勝手にやれるような会社を作りたい」というメトロールの創業の意思に繋がったんです。

父が亡くなってしばらくして、「空圧式ギャップセンサー」という東京ベンチャー技術大賞2015をいただいた画期的な製品ができました。空気圧の変化で物が密着してるかどうかが見れるセンサーです。

工作機械の中で唯一、自動化できてない研削盤という機械があります。人間が未だに火花を見たり、手の感触で見ているのを、このセンサーを使えば自動で確認ができて、そしてNC制御にフィードバックできます。完全無人化の研削盤は世界初です。

こんなセンサーを開発するにはどうしたらいいか。

実はこれは、もともと80歳の技術者がメカ式で作り、新卒で入った20代の技術者がエレクトロニクスを加えて、製品をバージョンアップさせたことで生まれたものなんです。

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80歳のおじいちゃんと20代の若者は、普通の上司部下の関係で結ばれてはいませんでした。「議論」じゃなくて「対話」、「出世競争」じゃなくて「共生」のもと、開発を進めていたんです。

父の時代は父のアイディアでやれたけど、もうスーパーマンはいない。だったら一人ひとりの個人思考を対話によって融和させて、集団思考に昇華させれば、イノベーションが起きるんじゃないか、という仮説のもとに、今会社をやってます。

定期的に行っている合宿では、事業計画ではなく、ただお互いの人間関係や、「なぜ今メトロールでこんなことをやっているのか」ということをお互いに話す場となっています。

コロナ禍で集団対応ができなくなったときには、『ザ・メンタルモデル』(由佐美加子・天外伺朗著) ​​という本と巡り会いました。その本によると、経営者や社員はみんな恐れを抱いていて、その恐れを手放したときに初めて現場が安心安全の場になるといいます。

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もともと人間は焚き火を前にして対話するなかで、村の掟を決めてきました。外で採ってきたものを家で守る人たち、身体はもう動かないけど、たくさんの知識を持ってる長老たちと公平に獲物を分けることを、対話のなかでやってきたんですね。

一方で、西欧式の競争、つまり出世争いのなかではこの「安心安全の場」が形成できない。
そこで今は、「自分の恐れは何なのか」ということを一人ひとり内製化することで、組織改革に取り組んでいます。

佐藤氏:
あるスタートアップが世界中の定年を迎えた老練な技術者のデータベースを作っていて、若い会社に出向させる取り組みをしているそうです。いかにそういう技術を若い子たちに勉強させるか、盗ませるかというのは大切ですよね。

松橋氏:
実はうちのエンジニアは50歳以上で辞められた方をメンターとして受け入れて、先ほどみたいに若い子と一緒にジョインさせて開発をやらせています。上司じゃなくて、あくまでメンター。

「空圧式ギャップセンサー」のベースを作った80歳のエンジニアも、75歳で入社したんですよ。

羽田氏:
普通の会社は経営戦略があって、マーケティング調査をして、設計をして、工場で作って、検査して、営業の人が売る…というのが一般的で、ビジネスというのは個々に役割があることから、軍隊に例えられることが多いですよね。

一方でメトロールは、おじいちゃんと青年がいて、「これをやったら面白いんじゃないか」とやっていくなかで製品の開発がされているということですよね。

これが仮に命令として落ちてくると「失敗したら怖い」という思いから、当たり障りのないことをしてしまいがちなんですけど、そこで活きるのが「恐れを取り除いてあげる」ことなのかもしれないですね。

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松橋氏:
恐れがある限り、人は冒険をしないんです。保全業務はいいけど、小さな気付きから試してみることを楽しめない。

それに、うまくいった製品はみんなのいろんなアイディアが集まってできた製品で、特定の人間の手柄じゃないことを尊重できないと、イノベーションは起こせないと思うんです。

僕の世界でいうとメカだけじゃなくて、エレクトロニクスやソフトも入ってくる。いろんな専門家が絡み合って生まれるんです。

だから、リーダーは日替わりでいいし、失敗するのは当たり前。僕たち経営人は株主でもあるので、お金を作ってどんどんやってみようというスタンスです。

佐藤氏:
今よく言われてる「デザイン経営」そのものですね。開発、営業、マーケティング、企画などの別畑の人たちで集まって、何か作り出すことをやらないと、新しいものは絶対生まれないんですよ。

なおかつ、メトロールさんは人事や経理などのバックオフィスはほとんど外注を使っているおかげで、社員の皆さんも自由にできているような気がします。

松橋氏:
間接部門は1人ぐらいしかいないですね。経理はMFクラウドを入れて全部クレジットカードで決済されてます。

エンジニアが自由に冒険ができるための環境は、徹底的なキャッシュフロー経営ですから。僕たちみたいな中小企業のほうに税制がある場合は、設備投資も全部経費落としちゃいますから。償却も考えなくていいっていうぐらい極端にやります。

羽田氏:
会社って間接部門が強くなればなるほど保守的になりがちなので、それは大きいですよね。

製造業の場合、機械によって償却の仕方がバラバラだったり、固定資産の計算というのはとてつもなく面倒くさいんです。それを潔く1年でドンと落としちゃうから、複雑な計算をやる必要がない。業務をシンプルにして、デジタルは積極的に使って、間接部門を思い切り小さくしているんですね。

松橋氏:
父もその大企業にいたときにそれで苦しんだのでね。あくまでのベンチャー技術を開発するための会社であって、あとの部分はそれを支えるための部門という位置づけですから、あえて肥大化させないようにしています。

羽田氏:
本日はありがとうございました。
通常失敗したら責められて、ますます怖気付いてチャレンジできなくなるなか、そこを「キャッシュはいっぱいあるから、どんどん失敗しなさい」と場を提供することが経営だというのはすごく新鮮でした。

佐藤氏:
上からやれって言われると、気が削がれてしまうことがある。「松橋さんをびっくりさせてやるぞ!」という思いで取り組んでいるから、新しいものが生まれるのかもしれないですね。

ーー松橋さん、佐藤さん、羽田さん。本日はありがとうございました!

ライター いしかわゆき @milkprincess17
meetALIVE プロデューサー 森脇 匡紀 @moriwaking
meetALIVE コミュニティサポーター 植田成美 @763community

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開催日時:2021/8/25 (水) 18:00 - 19:40
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