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人文学のプロフェッショナルに学ぶ効果的コミュニケーション術・アーギュメントの作り方

2024年12月10日のmeetALIVEに登壇したのは、『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』の著者 阿部幸大さんです。アカデミック・ライティングと聞くと「ビジネスとは縁遠いのでは?」と感じる方も多いのではないでしょうか。しかし、アカデミックな議論の方法やアーギュメント(主張)を作る方法は、ビジネスにも応用できます。今回は、価値ある議論を行うためにアーギュメントを作る方法や、その引き出し方などを阿部さんに伺いました。

阿部幸大 氏
筑波大学人文社会系助教
2023年に博士号取得(PhD in Comparative Literature)。専門は日米文化史。研究コンサルティング事業を展開する筑波大学発ベンチャー、株式会社Ars Academica代表。近著『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』(光文社、2024年)。より詳しい情報はホームページを参照(kodaiabe.com

―― 「アーギュメント」とは何でしょうか? ビジネスでは聞き慣れない言葉です。
 
阿部さん
アーギュメントは、直訳すると「主張」という意味で、アカデミックの文脈においては「論文の主張」を指します。私は、アーギュメントを「論証を要求するテーゼである」と定義しています。
 
どういうことかというと、誰かが何かの主張をしたときに、相手が「それってどういうこと?」と説明を求めたり、「それは違うだろう」と反論したりするようなものという意味です。つまり、主張をしたときに相手が「なるほど」と納得してはいけない。これがアーギュメントです。
 
アーギュメントには説明責任が発生します。これを論文では「論証」と呼びます。アーギュメントが強いほど論証が難しくなり、弱いほど論証が簡単になります。
 
昨今のSNSでは人の気分を害する発言をすると炎上するような風潮がありますが、学者や研究者は、人が納得しない主張するのが当たり前の世界で生きています。つまり、炎上している状態が学者や研究者の正しい姿なのです。強い意見を出すことが難しくなっている時代に、あえて強い意見を出す。そして論証する。この点は、経営者などのビジネスパーソンにも通じるものがあると思います。
 
―― 著書のタイトルには「まったく新しいアカデミック・ライティング」とあります。これまでの方法と比較して何が新しいのでしょうか?
 
阿部さん
いくつかありますが、そのうちの一つはアーギュメントという概念を中核に据えたことです。これまでの論文は「問いを立てて、答える」のがおそらく最も影響力のある論文理解です。しかし、それでは問いを立てることに意識が集中してしまい、「どう答えるか」に対する注意力が散漫になってしまいます。
 
論文では、問いに答えたときに「何を言うか」が大事で、その答えがアーギュメントになっている必要があります。そうでなければ、論文に価値が発生しません。問いに答えるのではなく、強い主張が必要だという点が拙著の新しいところです。
 
―― スタートアップでも「お客様の課題は何か」といった問いを立てることはあります。課題が大きいほど反対意見も挙がりますが、一方で誰も挑んでいないからこそリターンも大きい。研究の世界でも同じなんですね。
 
そうですね。ビジネスで「大きなことを言ってしまったけど、結局できませんでした」というのが、論文の世界では「アーギュメントを立てたけど論証できませんでした」と同じです。

―― アーギュメントを作るには、どうしたらよいのでしょうか?
 
阿部さん
たとえば、「アンパンマンのジェンダーについて論文を書きたい」という学生がいたとします。これはアーギュメントではありません。なぜなら、「それってどういうこと?説明してよ」と思いませんよね。つまり、論証できる内容になっていない。これは何かを“指しただけ”です。
 
アンパンマンのジェンダーについて「自分はどのような主張を展開したいのか」を考えなければなりません。それが重要です。
 
それともう一つ。大きなビジョンを持つことです。たとえば、ビジネスで新しい事業やサービスを考えるときに、競合と被らないように隙間産業的な考え方をすることがあります。それ自体は成立するかもしれませんが、自分がしたいことからは離れていく可能性が高いです。
 
論文でも「過去に研究していないのでやりましょう」となることがあります。それでも論文は成立するのですが、つまらないし、自分は何をしているのだろうといった疑問が湧いてきます。だから、「究極自分は何がしたいのか」といった大きなビジョンを持って、現状とすり合わせながら築いていくのが大事です。
 
―― アーギュメントを引き出すコツがあれば教えてください。
 
阿部さん
アーギュメントを「他動詞モデル」で考えることです。他動詞モデルとは、主語と目的語の関係を記述する構文のこと。「A(主語)がB(目的語)をV(動詞)する」というもので、必ず目的語が含まれています。他動詞モデルで考えると、主語・目的語・動詞が明確になるのでわかりやすいです。
 
たとえば、先ほどのアンパンマンのジェンダーで例を挙げると、「男性中心主義が女性キャラクターを排除している」といった感じ。こうすると、主語は「男性中心主義」でいいのか、その働きかけられる対象は「女性キャラクター」でいいのか、動詞は「排除する」でいいのかと、一つひとつ吟味できます。
 
また、「男性中心主義が女性キャラクターを排除している」と聞くと、「えっ!どういうこと?」と思いますよね。これがアーギュメントです。他動詞モデルで書くと自分が何を言いたいのか、何を考えているのか、明確にならざるを得ないのです。
 
誰かのアーギュメントを引き出したいときは、相手の話を聞いて、他動詞モデルを使って整理してみてください。また、何らかの論議をしているときに論点がわからなくなったら、他動詞モデルを使って整理するとわかりやすくなります。

―― アーギュメントが弱い、または矛盾かあると感じた場合、どのような改善方法がありますか?
 
阿部さん
「強い動詞」を使うことです。先ほどの例では「排除する」という動詞を使いました。これは、強い動詞です。このように、自分が主張したい内容を言語化できる最も強い動詞で表現するのです。そうすれば、アーギュメントが強くなります。ただし、センセーショナリズムに流されないよう注意が必要です。説明責任が発生しますので、論証できる範囲内に留めなければなりません。
 
―― 会議などで、思っていることがあっても主張できなかった経験は、誰しもあるのではないかと思います。それを乗り越えて価値ある議論をするために、アドバイスがあればお願いします。
 
阿部さん
今はすぐに炎上する時代なので、主張を恐れる世の中になっています。アーギュメントがなく自明な意見のみが流通するようになると、共感の共同体ばかりができて、それぞれの共同体間は常に対立状態になってしまいます。これはあまりよい状態とはいえません。
 
我々の思考は、意見の対立によって引き出されるリアクションがないと進行しません。ずっと同じような人たちでかたまっていると、まったく話が進まないのです。
 
だから、意見が対立するのを恐れず、意見を出し合う。そして、「それってどういうこと?」と論証を求める態度に出る。これこそが議論です。意見が対立するのは当たり前ということを今一度、思い出してほしいです。

【まとめ】
「意見が対立するのは当たり前、疑問を持ったら論証を求める」。このようなマインドセットをみんなが持つことで、価値ある議論が増えていくのではないでしょうか。
あなたのアーギュメントは何ですか? ぜひ、一度考えてみてください。

ライター コクブサトシ @uraraka_sato
meetALIVE プロデューサー 森脇匡紀 @moriwaking
meetALIVE コミュニティマネージャー 小倉一葉 @osake1st
写真:集合写真家 武市真拓

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