第22話　蒼き山と碧き海

光の追い風を受けて↓

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蒼き山と碧き海


　山頂付近にある駐車場からの眺めはまさに絶景だった。
遠くの山々が緑濃く眼下に広がり、高い空ではたくさんのトンボたちが秋晴れを謳歌していた。

　鳥居をくぐるとしばらくは平坦な道が続く。
どうしてなのかはわからないけど、悲しくもないのに涙がぽろりぽろりと落ちてきた。自分の感情は無だというのに何かが感極まって奥から込み上げて止まらない。
　いい大人が隠しきれずに泣いていたのでたぶん不思議に思ったのだろう。
すれ違った家族連れの子供が、小さな声で「泣いてる。」と呟く声が聞こえてきたのだが、取り繕うほどの余裕もなかった。

　しばらく歩くと落ち着いてきたのか、涙はようやく止んできた。
もしかしたら徐々に山道へと足場が変わってきたので、そこに気を取られて泣くどころではなくなっただけなのかもしれないが。

　登って降りての山道はまだ始まったばかりだが、気がつくと樹齢何百年というたくさんの杉の巨木に囲まれていた。
　更なる結界との境目を示すのだろう。笠を被った空海が持っている錫杖（しゃくじょう）という杖が二本、ひっそり茂みに刺さっているサインに、目には見えない道案内係に丁寧にお迎えされているのを感じた。

　ここ玉木山とはある種の異界で、境内一の巨樹である神代杉（じんだいすぎ）は樹齢三千年を優に超えているというし、大杉は目線の高さの直径が11メートルもあるという。他にもそのクラスの名のある御神木たちが、想像もできない長い時を生きてきたのを目の当たりにすることは、それ自体が一種の奇跡ではないだろうか。

　それらの木々や、そこに棲みついた動物たちに生を与えているのは宇宙の中心をなすとも言われる遥か原初の神々で、この山一帯それ自体が、神代（かみよ）の時を未だ織りなす曼荼羅のような場所なのだ。


　通常ならば十五分かそこらで境内まで到着する道を、私もまおちゃんも木に呼ばれる度に立ち止まっては、大きく腕を回して体を預けながら進むものだから、少なく見積もっても三十分はかかったことになっただろう。
　ようやく辿り着いた拝殿は、陽の光を浴びて気に満ち満ちていた。
鋭さや精悍さはあまり感じられないが、その代わり大きく、温かく、包容力があった。泰然とした山そのもの、そんな感じがした。

　時間をかけて、境内を回った。
点在する摂社、末社にご挨拶をしながら、あちこちに生きている御神木も見て回る。

　例の神代杉や、夫婦杉などを拝みに行こうと、本殿の裏手、屋根を超える高さの裏山に登っていった時。
　どこからか、幼い可愛らしい歌声が聞こえていることに気がついた。

「むっかしーむっかしーうーらしーまはー

　たーすけーたかーめにーつーれらーれてー

　りゅーぐーじょーへーきってみーればー

　えーにもかっけなーいうっつくーしさー」


　おそらく本殿のあたりで歌っているのだろう。誰に咎められるわけでもない大きな歌声は、子供独特の自由で伸び伸びとした弾みを含んだものだった。

「ねえ、まおちゃん。子供、歌ってるよ。え、どうして？こんな場所でよりによって浦島太郎なんだけど。」


　『浦島太郎』。

　鎌倉から江戸時代に成立した御伽草子（おとぎぞうし）に編纂されたこの昔話は、古事記に見る『海幸彦と山幸彦』の物語にその原型があると言われる。

　アマテラスの孫にあたる天孫ニニギノミコトと、山の神オオヤマツミの娘であるコノハナサクヤヒメとの間に生まれた山幸彦（ヒコホホデミ）はある日、海幸彦とお互いの狩りの道具を交換して、釣りの道具をうっかり海に無くしてしまう。
　そして探しに出かけて行き着いた竜宮城で、海の神ワダツミの娘トヨタマビメとの間に子供をもうける。
　陸にあがったトヨタマビメは、龍の姿で出産したのを見られたことを恥ずかしく思うと海の底に帰ってしまい、代わりに赤ん坊を育てるために妹のタマヨリヒメが乳母としてやってくる。
　その時産まれた子供、アマテラスと山の神、それに龍神の血を引く男児こそ、カムヤマトイワレビコ、初代神武天皇その人だと言われているのだ。


「ほんとに、よりによってだね。だけど子供が見当たらないよね。」
「歌声だけが聞こえるよね。場所のせいかもしれないけど。」
「それにしても、声はするけどいないよね。」

　どこを探してもいなかった。本殿のあるあたりまで戻ると、その時にはまた別の方角から、歌声だけが響いてくる。そんなことを繰り返した。

「なんだか、座敷わらしみたいだよね。」

　この可愛らしい声の主はきっと神様のお使いなのだろう。
霊験ある山の上で、海の底の歌を聴く。さて、この子はどちらの神様からの一体なんのお使いなのかしら。
　謎は謎のままに。
　これ以上探したところできっと見つかりはしないよねと、まおちゃんと二人、顔を見合わせて笑った。


written by ひみ


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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説（笑）、ぜひお楽しみください。

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アメブロに、けーこと共に日常綴ってます。
……のつもりだったんだけど、わりとガッツリ、濃い目のスピ的内容書かされているのはなぜかしら。

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前回は、meetoo読んで不安を抱いた方へ「私も通ってきた道」の話と、
今回は、夏至というエネルギーが3次元と4次元でどうリンクしてるのか、
といったお話を日常に絡めて書きました。
『（noteの時にいる）meetoo』という、高次元意識体との共著ではなく、彼女と離れて書くもので、ひみのキャラがだいぶ変わっててすいません💦💦↓↓

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