第55話 perfect situation
春休み明けのその日は、すっきりと晴れてはいたけど風が冷たくて、校舎内に入るとその暖かさにホッとした。
旧一年8組の教室まで送ると、今は五人となった友人達が「また同じクラスになりたいね」とあきらの元に近寄ってきた。聞けば今日は、Rも保健室に登校しているとのことで、そのことがわかって少し安心した。
この日のスケジュールは一旦前のクラスに集まって、朝のホームルームでクラス替えのプリントをもらってから新しい教室に移動するのだという。
今年から後輩もできることだし、みんなの顔が緊張と成長の表情の間を行ったり来たりしているのを人ごととして見ている自分を「私、ひどい大人だな」と感じて笑ってしまった。
中学、高校以降はもう体験することがないこのクラス替えという青春イベントは彼らのものだ。「また一緒になったらあきらのことよろしくね。」とだけみんなに声をかけて、お迎えの時間まで校舎を後にした。
そしてお昼前。
二年生の教室は、今年は四階になったということしかわからない。ひとまずあきらと待ち合わせをしていた、四階エレベーターホールに向かうことにした。
角を曲がると、ほかには誰もいない廊下をスサナル先生が一人、ゆっくりと歩いていた。
私の姿を認めて、遠くからでも笑いかけてくれたのがわかった。
クラス替え、どうなりました?
そう聞こうとして、言葉を飲み込んだ。
先生が、困った顔をしながら笑ってくれていた。眉毛がハの字に下がり、たくさんまばたきをしながら笑ってくれていた。頑張って笑ってくれているのに「ごめんね」という想いが伝わってきて、なんだか泣きそうだった。ごめんね、あきらさんの担任になれなかったんだよ。
お互いに困った顔で笑ったまま、とうとう一言も言葉を交わすこともなく、廊下をすれ違った。そしてすれ違ったきり、振り返ることもできなかった。
四階にあがると、「あきらのママー!」と大きな声がした。
「あきらのママ、私、担任になりました。あきらがスサナル先生を気に入ってるのわかってるから私じゃ残念かもだけど、私も頑張って、目一杯あきらのこと見るんで。」
頭の上で大きく手を振りながら、“島T”が近づいてきた。
廊下の椅子の上には、生徒の荷物が置いてある。その体操着入れと思われる布バッグに『perfect timing ,perfect situation.』と書いてあるのが目に入った。
「島Tならあきらも喜びます。あの子、担任運は恵まれてるから。一年よろしくお願いします。」
そう言ってはみたけど、100パーセントパーフェクトとは思えなかった。スサナル先生が担任じゃないのに、このシンクロはとても意地悪に思えた。私にとって、少し悲しい新生活が始まった。
written by ひみ
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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
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あきらが中学生になるまで知らなかったんだけど、最近の子供たちは先生のことを、teacherのTをつけて呼ぶことが多いみたい。まあ地域性もあるだろうし、苗字との語感の相性次第なんだけど。
スサナル先生の本名の語感とは、このTの相性が悪かった。一度は本人もT呼びを定着させてみようと自ら工夫した結果、アリエッTみたいになっちゃって、それはそれで味があったんだけどね、生徒は誰も呼ばなかったよね笑
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