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料理人という人生



むかし「料理の鉄人」という番組があった。

僕はその番組が大好きでした。

今まで見ることができなかった

厨房の風景を

垣間見ることができるのだから。

きっと多くの人たちが

その華やかな舞台に憧れ、

料理人という職業が「エンターテイメント」

だと勘違いした。


実際の料理人の日常は

本当に地味だ。

地道の積み重ねだ。

足元が冷える厨房で

毎日ひたすら桂むきをしたり、

魚を捌いたりしている。

食材に触れるだけマシかもしれない。

最初は洗い物と掃除で1日が終わる。

板長と呼ばれるようになるには

気の遠くなるような日々が必要だ。

しかも誰もが慣れるわけではない。

今も残る縦社会。

古いしきたり。

日本の飲食業界はガラパゴス化している。

僕が日本を出た14年前と

さして変わっていない。



ドイツに来て

何人もの若いスタッフに料理を教えてきた。

海外で初めて料理に触れる日本人も少なくない。

現地のスタッフが

日本料理をリスペクトしてくれていて

いつか日本で修行がしたいという。

僕はみんなに正直に答える。

労働基準法はその店のシェフが決めるんだよ。

年間の休みだって1週間あればいい方かな。

病気で休めばその分ホリデーは削られるし、

もしくは給料が引かれる。

あるいは両方だってあるかもしれない。

先輩の言うことは絶対で、

逆らうことはできない。

もちろん全てがそうだとは言わないけど、

それが日本独自の「職人文化」なんだよ。


毒舌するつもりはないけれど

必要以上に夢を与えたくなくて

僕は経験した話をそのまま伝える。


当時は、その厳しさを乗り越えた

自信と誇りが僕自身を支えていた。

でも日本を出て世界を知ると、

時代はどんどん変化していることを教えてくれる。

なぜか日本だけは

時計が止まったままのようだ。

それが不思議でしかたなかった。


「オーケー、俺はあんたから学ぶよ」

だいたいそんな答えが返ってくる。

本当はそんな彼らの背中を押して、

日本行きを見送りたい。

いつかそんな日が来るんだろうか?



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