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アップデートされた「医療DX令和ビジョン2030」 とその考察


こんにちは。メドレーのGR(Government Relations)チームです。

先だっての2023年4月13日に、「『医療DX令和ビジョン2030』の実現に向けて」という政策提言が自民党から公表されました。
昨年、GRチームでは「医療ICTの視点からみる「骨太の方針」原案と「医療DX令和ビジョン2030」というnoteを書いたのですが、ここで取り上げた「医療DX令和ビジョン2030の提言」(2022年5月17日発表)の続編にあたるのが、今回公表された「『医療DX令和ビジョン2030』の実現に向けて」になります。

昨年のnoteでは、「医療DX令和ビジョン2030の提言」が、2022年の「骨太の方針」原案に与えた影響について書きました。
具体的には、2022年の「骨太の方針」における医療ICT関連の注目箇所として下記の4点をあげた上で、その背景にある自民党の「医療DX令和ビジョン2030」について解説しました。

振り返り:「骨太の方針2022」における医療ICT関連の注目箇所4点
・「医療DX推進本部(仮称)」の設置
・「全国医療情報プラットフォーム」の創設
・「診療報酬改定DX」の推進
・電子カルテ情報の標準化等

今般公表の「『医療DX令和ビジョン2030』の実現に向けて」では、「これらの提言を実際にどのように実現に向けて進めていくのか」が、より具体的にされたことから、本記事では、

・昨年のnoteから「『医療DX令和ビジョン2030』の実現に向けて」の公表の間に取られた政府や厚労省のアクション
「『医療DX令和ビジョン2030』の実現に向けて」の注目ポイント

について、解説したいと思います。

昨年のnoteから「『医療DX令和ビジョン2030』の実現に向けて」の公表の間に取られた、政府や厚労省のアクション

2022年6月に、「医療DX令和ビジョン2030」を踏まえた「骨太の方針」が閣議決定されたことを受け、医療DXを進めるため、同年9月に厚労省内に「医療DX令和ビジョン2030 厚生労働省推進チーム」が立ち上がり、その後、10月に総理を本部長とする「医療DX推進本部」が立ち上がりました。

「骨太の方針」閣議決定後の、医療DX推進のための政府と厚労省の動き
・2022/5/17    自民党「医療DX令和ビジョン2030の提言」公表
・2022/6/7    「経済財政運営と改革の基本方針2022」公表(通称:骨太の方針)
・2022/9/22    厚労省「『医療DX令和ビジョン2030』厚生労働省推進チーム」立ち上げ
・2022/10/12   総理を本部長とする「医療DX推進本部」立ち上げ

「『医療DX令和ビジョン2030』厚生労働省推進チーム」は、厚生労働大臣をチーム長とし、これまでもいくつかの検討会やその下部組織であるワーキンググループ(以下、WG)において議論されてきた、ICT利活用や医療情報に関する政策を扱います。タスクフォース(以下、TF)としては、「電子カルテ・医療情報基盤TF」​​「診療報酬DX TF」を設置し、より具体的な議論の場を設けています。

「医療DX推進本部」は、総理を筆頭とすることで政府全体として医療DXをより強力に進めていく形となり、今年度の上半期の間には、医療DXの進め方・スケジュールを記載した工程表を作成します。また工程表作成後も、各省庁での取り組み及びその実施状況のフォローアップを幹事会で行うこととされています。
なお、厚労省資料によると、「『医療DX令和ビジョン2030』 厚生労働省推進チーム」は、議論の内容を定期的に医療DX推進本部に報告することとなっています。

以上の政府や厚労省のアクションをまとめると、下記のような流れになっているようです。

政府や厚労省のアクション

また、それぞれの組織における会議体とその役割は、下記となっています。

・関連する主な会議体とその役割

「医療DX令和ビジョン2030の実現に向けて」の注目ポイント

ここまで流れを解説してきたので、ここからは、今回の提言の注目ポイントを考察したいと思います。

今回の提言では、冒頭に「グランドデザイン」の項目が記載されており、自民党が考える医療DX推進のためのポイントと、医療DXの定義が明確になりました。プロジェクトを推進するためのアイデンティティが定まり、さらに、人口減少下でも医療の質を向上させるべく、データドリブン社会に進化するために、「個人情報の『公益』への活用」に言及されたことは革新的です。

前回提言では、「日本の医療分野の情報のあり方を根本から解決するため」という大義名分のもと、3施策(全国医療情報PFの創設、電子カルテ情報の標準化等、診療報酬改定DX)の概要や、各ステークホルダーのメリットが記載されているものだったので、そこからかなり具体性が出てきた形となります。

具体的な施策における、注目のポイントは下記です。

1. 医療DXの母体としての「支払基金の抜本的な改組」を提案
2. クラウドベースの標準型電子カルテの強力な推進
3. 診療報酬DXは、診療報酬そのものの明確化・簡素化の検討

1. 医療DXの母体としての「支払基金の抜本的な改組」を提案

今回の提言には、具体的に取り組むべき事項の冒頭に、「医療DXの推進体制(ガバナンス)の強化」という項目が設けられており、肝心の「誰がシステム開発・運用の推進主体となるか」については、「社会保険診療報酬支払基金」が担う案が記載されています。
「支払基金」(社会保険診療報酬支払基金)とは、健康保険制度における診療報酬の「審査」及び「支払」について、審査を行う専門機関であり、このような医療DXの推進主体が前提の組織ではありませんが、「抜本的な改組を前提として」その主体を「支払基金」が取り組むことが想定されています。

同基金が、レセプトの収集・分析や、オンライン資格確認などシステム基盤の開発などの経験やノウハウを活かすことを前提に、今後は、「クラウドを活用したシステムのモダン化を含め、審査支払い期間の請求審査にかかるシステムの一本化」など、新たな内容にも取り組むことになりそうです。

2. クラウドベースの標準型電子カルテの強力な推進

電子カルテ情報の標準化等については、従来より「医療システムのクラウド化を進める」という強い意思が伺える中、特に、クラウドベースの標準型電子カルテについては、「開発を最大のミッション」という記載があるなど、強力に推進していくことが明確になっています。

「電子カルテ情報の標準化等」の項目における一部抜粋
・クラウドベースの標準型電子カルテについては、その開発を最大のミッションとし、診療報酬改定DXの取り組として検討が進められている共通算定モジュールと連携できるものとする。
・現行の電子カルテを標準型電子カルテに入れ替えていく等により、レガシーな技術から早急に脱却し、モダンな技術による電子カルテシステムの構築を推進する。
・(略)診療科別に多数存在する部門別のシステムについては、現状において標準化やクラウド化が十分進んでいない。(略)クラウド化等を優先的に進めるべき部門システムについて、検討を進める"

3. 診療報酬DXは、診療報酬そのものの明確化・簡素化の検討

診療報酬DXについては、従来より、医療機関・ベンダーの労力、費用負担に始まる診療報酬改定にまつわる様々なコストの低減化についての言及がなされていましたが、今回は、「社会保険診療支払い基金と連携しつつ、国が責任を持ってマスタを改善・開発」、「デジタル化に対応するため診療報酬点数表におけるルールの明確化・簡素化を図る」など、前回よりも踏み込んだ内容となっています。
特に診療報酬制度は年々複雑化しており、行政・医療機関・ベンダーそれぞれの対応コストが増大し続けていることを踏まえると、診療報酬制度そのものの簡素化に言及されていることは重要ですし、既に本年3月に公表された政府の「医療DXの推進に関する工程表(骨子案)」にも同様の文言が盛り込まれているため、期待が大きいところです。

「診療報酬DX」の項目における一部抜粋
・医療機関等における診療報酬改定に伴う間接経費の極小化に向け、支払基金と連携しつつ、国が責任を持ってマスタを改善・開発し、早期に提供。
・さらに、標準化されたマスタ・コードによって結ばれた共通算定モジュール・標準型電子カルテを合わせて提供し、医療機関システムを抜本的に改革する。
・その際、医療機関などから送信される日々の診療報酬算定にかかる情報の活用について、併せて検討する。
・さらに、デジタル化に対応するため診療報酬点数表におけるルールの明確化・簡素化を図る。

最後に
最後に、OECDで公表されている、「診療所の電子カルテ普及率」などを記載した「諸外国の電子カルテおよび標準化の取り組みにかかる状況について」を掲載します。

"Proportion of primary care physician offices using electronic medical records, 2012 and 2021"(OECD)などからメドレー作成

ご覧の通り、様々な背景はあるものの日本の電子カルテ普及率は低く(※)、現時点での医療DXの遅れは際立っています。
しかしながら、政府、与党、厚労省が、ともに医療DXのアクセルを踏み始めたことは期待が持てると感じています。
今後の動きについても、引き続き注視し、またこのnoteでも紹介していきたいと思います。

※本記事執筆時の最新の厚生労働省による調査「電子カルテシステム等の普及状況の推移」(2020年)では、我が国の一般診療所における普及率は49.9%。OECD調査は2017年の同データを引用していると推測される。


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