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「骨太の方針2023」が示す「医療DXの推進に関する工程表」を読み解く

骨太の方針2023が決まる


こんにちは。メドレーの政策渉外チームの篠崎です。

6月16日に「骨太の方針2023」が閣議決定されました。「骨太の方針」とは、年に1度、国の経済・財政政策の基本的な方向性を示すもので、各省庁はその方向性に沿って、法改正や予算化といった政策を展開します。つまり、さまざまな分野における国の今後の方針を知ることができるものです。

昨年の「骨太の方針2022」では、「全国医療情報プラットフォームの創設」「電子カルテ情報の標準化等」「診療報酬改定DX」について、総理大臣をトップとする医療DX推進本部の下で推進していくことが初めて示されるなど、医療のデジタル化に関して大きな動きがありました。

今年は医療DX推進本部において策定した工程表に基づき、政府を挙げて医療DXの実現に向けた取組を着実に推進する。」ことがまず示されました。すなわち、今後、医療DXはこの工程表(以下「医療DX工程表」)に沿って進んでいくことが政府全体の合意事項として明確化されました。

では、この医療DX工程表には何が書かれているのでしょうか。前回の政策渉外チームの記事では、自民党の「医療DX令和ビジョン2030」のアップデートについて触れました。アップデートのポイント(※1)がこの医療DX工程表にどう反映されたのかも含め、医療DX工程表により今後どういう動きがあるのかなどを見ていきたいと思います。

※1 前回の記事の注目ポイントは下記の通り

・医療DXの母体としての「支払基金の抜本的な改組」を提案
・クラウドベースの標準型電子カルテの強力な推進
・診療報酬DXは、診療報酬そのものの明確化・簡素化の検討

医療DX工程表の内容と今後の動向

医療DX工程表で示された具体的な政策は、以下の5項目に分かれます。それぞれの気になるトピックを順に見ていきたいと思います。

1.「マイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速等」


ここでは、以下のことが書かれています。(2〜5でも同様にポイントを抜粋しています)

・マイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認が医療DXの基盤
・2024年秋の健康保険証の廃止を目指す

健康保険証の廃止については、6月にマイナンバー改正関連法が成立し、2024年秋の廃止が決定しました。報道されているように、現在、マイナンバーカードについては誤登録等のミスやトラブルが指摘されており、政府としても総点検を実施しているところですが、2023年6月末時点での方針変更はないようです。メリットなどは以前に「 健康保険証からマイナンバーカードへ 」という記事をまとめましたので良かったらご覧下さい。

2.「全国医療情報プラットフォームの構築」


①「電子処方箋・電子カルテ情報共有サービス」

・2025年3月までに概ね全ての医療機関で電子処方箋に導入することを目指す
・電子カルテ情報の共有は2024年度中に運用を開始する
・すでに電子カルテが導入されている医療機関における、標準規格に対応した電子カルテへの改修や更新を推進する

政府はこれまで閣議決定文書で電子処方箋の導入目標を示したことはありませんでした。一方、2023年6月現在で電子処方箋について導入申請をしている医療機関は約3.4万施設で医療機関全体の約2割、薬局は約2万施設で薬局全体の約3割に留まっています。義務ではない中、あと2年弱でほぼ100%に引き上げるには、導入のインセンティブをどう設計するのかが課題です。特に診療報酬上の手当の有無については、今後の中央社会保険医療協議会(以下「中医協」)の議論に注目です。

また、電子カルテ情報の共有が2024年度からスタートすることが示されました。つまり、2024年度には標準規格に対応した電子カルテが世の中に一定数ある想定です。「全体像」(下図参照)において、医療情報化支援基金(※2)の活用に関し2023年度から2025年度で線が引かれていることや、同基金には電子カルテ標準化分として現在149億円が積まれている(※3)ことを踏まえると、今後、標準規格に対応した電子カルテの導入費補助が実施されるのかにも注目したいです。

※2 オンライン資格確認ネットワークの普及や電子カルテの普及などを目的とした厚生労働省(以下「厚労省」)の基金。
※3 (出典)https://www.ssk.or.jp/pressrelease/pressrelease_r04/press_050322_1.files/pressrelease_050322_1_1.pdf

②「自治体、介護事業所等とも、必要な情報を安全に共有できる仕組みの構築」

・介護情報の共有について、2023年度中に共有すべき情報の検討を行い、2024年度から希望自治体で先行実施し、2026年度から全国実施をしていく
・乳幼児健診や妊婦健診の情報共有について、2023年度中に希望自治体から開始し、順次展開する
・公費負担医療や地方単独医療費助成のオンライン資格確認対応について、2023年度から希望自治体で事業を開始し、順次展開する

電子カルテ情報だけではなく、市区町村が保有する介護情報、乳幼児健診や妊婦健診等の情報も共有していく方針が示されました。あるべき姿である一方、約1,700ある市区町村でこの取組を予算化・実行していくのは、なかなか時間と労力がかかることです。そのため、当面は所在する市区町村によって取得できる介護情報・健診情報が異なる形になりそうです。
また、上記3点目により、これまで紙の保険証と受給者証(例:子どもの医療費助成の受給者証)を提出していたものが、マイナンバーカード一つで済むことになりますが、こちらも同様に当面は市区町村によって紙が残るなど対応が分かれることになりそうです。

3.「電子カルテ情報の標準化等」


①「電子カルテ情報の標準化等」

・3文書6情報(※4)の共有を進め、順次対象となる情報の範囲を拡大する(例:透析、アレルギー関係、蘇生処置等の関連情報、歯科・看護等の領域の関連情報、救急)
・医療情報を薬局側に共有できるよう、薬局におけるレセプトコンピュータ・薬歴システムにおける標準規格(HL7FHIR)への対応を検討する

※4 診療情報提供書、退院時サマリー、健康診断結果報告書、傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報(救急・生活習慣病)、処方情報

電子カルテの3文書6情報の共有からスタートする話は、これまでの厚労省の検討会でも示されてきたところです。今後、薬局のシステムについても検討が開始されます。

②「標準型カルテ」

・クラウド型の標準型電子カルテを2024年度に開発し、一部の医療機関で試行的実施
・2030年までに概ね全ての医療機関に電子カルテ導入を目指す

国はクラウドベースの電子カルテを標準とし、今後開発する方針のように見えます。これは自民党の「医療DX令和ビジョン2030の実現に向けて」で示された方向性に沿うものです。また、電子カルテ導入の目標設定も「医療DX令和ビジョン2030」に掲げられていたものを念頭に置いていますが、こうした目標が政府計画に明記されたのは初めてであり画期的です。この目標の達成にむけて、政府が官民の役割分担をどう整理するのかという点や、厚労省が令和7年度予算をどういった内容にするのかという点に注目です。

4.「診療報酬改定DX」

・デジタル化に対応するため、診療報酬点数表におけるルールの明確化・簡素化を図る
・共通算定モジュールの開発を進め、2026年度から本格的に提供する
・診療報酬改定の施行時期の後ろ倒しの実施年度・実施時期は、中医協の議論を踏まえて検討する

こちらも「医療DX令和ビジョン2030の実現に向けて」に示された方針に沿った内容となっています。診療報酬制度が改正の度に複雑化し、結果的に膨大な分量になっている現状を鑑みると、診療報酬点数表におけるルールの明確化・簡素化がどういった形になっていくのか注目です。
また、診療報酬改定の施行時期の後ろ倒しについて、税制などでは10月からの施行例があることを踏まえると、早ければ令和6年度診療報酬改定から半年ほど後ろ倒しにする、ということもあるのかもしれません。

5.「医療DXの実施主体」

・社会保険診療報酬支払基金を、審査支払機能に加え、医療DXに関するシステムの開発・運用主体の母体とし、抜本的に改組する

こちらも「医療DX令和ビジョン2030の実現に向けて」で示された内容を踏襲しており、自民党と政府の方向性は一致しています。医療DXは国家プロジェクトであり、その要となる社会保険診療報酬支払基金の活躍が期待されます。

最後に

我々の今後の注目ポイントをまとめますと以下になります。

医療DXは引き続き、政府動向から目が離せない状況ですので、しっかりと追いかけていきたいと思います。

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