【創作SF】人間


人間って聞いたことある?

そう聞かれたのが、去年の19月ごろだった。
気温はまだ−175℃くらいで、蒸し暑かったのを覚えている。今年はもっと暑くなるって聞いたから、ちょっとうんざりしちゃうな。

物知りのミミは、何でも知っている。
例えば、「人間」のこと。

ミミが言うには、この星には数億年前、人間という種族が別の星から移住してきたらしい。それが私たちの先祖。私たちよりも小さくて、手と足は2本ずつあって、「ことば」を話したんだって。

「ことば」については、学校で習った。
口の動きで空気の音をふるわせて、情報を伝える太古の技術。私たちは脳内メモリーを介して会話ができるけれど、人間にはメモリーがなかったらしい。それってすごく不便だろうな。

それからミミに聞いたのは、人間はお互いに傷つけあったり、奪い合ったり、殺し合っていたということ。まだ知能が未熟だったからってミミは言っていたけれど、そんな生き物が先祖だと思うとゾッとする。

私たちは生まれた時から、周りを傷つけないようにプログラムされている。攻撃的な遺伝子を持った個体は生まれてからすぐに修正されるから、この星はいつでも平和で、愛と優しさと笑顔にあふれている。争いが起こらないために、財産も知能も外見も、全て政府から平等に分け与えられる。

政府は毎年一斉に私たちの遺伝子検査をして、少しでも異常があれば遺伝子適応センターに入所させる。友達のルルは、3年生の春にセンターに入ったっきり今も出てこない。もう407年は経ったと思うけど、ルルは私の頭を叩くくらい野蛮な遺伝子を持っていたから、修正にはまだ時間がかかるだろうな。ルルみたいな遺伝子を持つ人がセンターの外にいたらとても危険だから、政府がしっかりと保護してくれて良かった。

とにかく、私は太古にこの星に住んでいた人間という生物について、興味を持ち始めていた。今年の論文のテーマにしようと思っている。
私たちは毎年、論文を書いて政府に送る。この星を良くするために活かすのだ。知識はみんなの財産だから、独り占めしてはいけない。

私は自分の脳内メモリーに意識をつないで、ミミのメモリーへメッセージを送った。

To mimi: code30688594
〈私、今年の研究は人間のことにしようと思う。〉
From nana: code30688595

To nana: code30688595
〈素晴らしいアイデアだね。きっとみんなの役に立つよ。〉
From mimi: code30688594

ミミも賛成してくれている。きっとこの論文はうまく書けるだろう。さっそく、人間についての文献を集めないと。人間の歴史や「言葉」について調べて、この星に活かせることがないか探そう。そうすれば、この星はもっと良くなって、みんなが幸せに生きられるだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?