スタートアップ/ベンチャーはシニア人材をもっと使えばいい。そしてシニア人材は経験・知見をベンチャーやスタートアップに還元を。加えて博士号持ち実務家なら、ベンチャー/スタートアップに貢献するのにいい制度がある。。。という話。
ここしばらく、プレシード、シード、アーリーステージ、ミドルステージぐらいのステージにいるベンチャーやスタートアップの代表や事業開発、マーケティング従事者とミーティングを重ねることが多いのだが、その都度、日本のスタートアップは、「シニア人材の活用」という視点が今はまだ無いのだなと感じる。
米国スタートアップにおけるシニア人材
米国のスタートアップ企業などを見ていると、シニア層がボードメンバーなどとして、ファウンダーやCEOら含む若いスタートアップの面々と一緒に働いていることがある。実際に私が所属していたことのあるサンフランシスコのスタートアップでも、20代〜30代の若いメンバーと40代〜50代、時には60代のシニアがいた。
例えば、Googleの Larry Page と Sergey Brin が Eric Schmidt を引き入れたり、ビジネス部門を見る Omid Kordestani を引き入れたりして、事業環境を整えるようにしていった話は非常に有名なところだろう。
こうした経験豊富な senior talent を引き入れることによって、事業・製品開発、営業戦略・マーケティング戦略、人事、財務について、若いメンバーだけでは乗り越えられない課題を乗り越えようとする、そういったことがシリコンバレーのみならず、米国のスタートアップ界隈ではよく見られる。
以前はこうした senior talent を引き入れる際に、フルタイムで契約をしていたケースがよく見られたが、最近では "fractional role" や "fractional work"として契約をしていることも多い。
日本では「副業」や「副業人材」という名称で、主たる所属先があって、文字通り"副"の仕事として別のことをやる・・・という言葉が普及しているが、この"fractinal role"、"fractional work"、直訳すると「分数化された役割」、「分数化された仕事」というもの。役割そのものを分割し、その中のある部分を担当するとか、自分の時間の何分のいくつかをそれぞれの契約先の仕事に当てるといった考えである。これは主に independent のアドバイザーやコンサルタントの立場になっている人が行っている職となっている。
なので、日本で「副業」と言っている人たちと違うのは、「主」がないことにある。
Fractional executive
特にこの "fractional role"や"fractional role"における、senior の executive人材については、別の "fractional executive"という言葉を与えられているぐらい。あちらも人材不足なのだろうが、役職者 executive の職務の分割・分数化が進んでいることがわかる。
※同様の言葉に interim executive という言葉もある。interim とは"一時的な"という言葉であり、スタートアップが成長するまでの「つなぎ」の executive という意味合い。
こうした fractional executive たちは、これまでに経験してきた会社で高給や上場益を得てきていて、多くの報酬を必要としない人も少なくない。それゆえに、パートタイムで、報酬が安くても fractinal な仕事を引き受けることができている。
日本のスタートアップと高度(職業)人材活用
日本の場合、もともの年功序列制度やスタートアップが育たない環境が長く続いたため、米国などのように高給取りの executive や上場益を手にしている「シニア」はさほど多くないだろう。また、「シニア」が獲得してきた知見や経験とスタートアップが必要とする fractinal role とのマッチングも難しいように思えるし、そもそも"高給"を求める可能性もある。このあたりに、日本における「シニア」の活用が進まない理由があるのではないか?と感じなくもない。
しかしながら、豊富な経験や高度な知識というものをある角度から見ると、日本のスタートアップも「外部人材」として、そうした「高度(職業)人材」を活用することが可能になると考える。
ここでいう「高度(職業)人材」というものを、一旦、「高度人材」というものとして、経産省の定義を挙げると次のようになる。
さて、上記の設定が妥当かどうかについてはここでは触れないでおくが、普通に考えると"高度”な人材をフルタイムで雇おうとすると相当な金額で雇い入れないといけない。
しかしながら、fractional な役割・職務・業務として雇い入れるのであれば、必要な人材コストも fractional にすることができるだろう。
そして今回の文章で一番伝えたい部分。
上記の定義の引用元となる経産省主導の制度というのは、
というものであり、以前は社外の関係者に渡すことについて難易度が高かったストックオプションについて、その税制を高度な知識・経験を持った「外部人材」に対しても適用するというものである。これによって、ストックオプションをインセンティブにして、外部高度人材を活用できるようにする、という制度となっている。
これはスタートアップについては、限りある資金の使い方を抑えることにもなり、また fractional role につく外部高度人材については「夢のある報酬」を得ることで責任をもった仕事ができるようになるという、(個人的には)非常に素晴らしい制度が誕生していたなと思う。
博士号持ち実務家は、もっとスタートアップと関わって、育成せよ
最初に書いたように、私はスタートアップにアドバイスをする機会が増えてきている。そうしたアドバイスを継続的に行うにあたり、さすがに無償のボランティアで続けることはしない。
アドバイスをするスタートアップが、プレシードくらいならエンジェルとして投資をし、またすでにシードよりもあとのラウンドに入っている場合は、株が購入できる場合は購入していることもあるし、また今後は上記の制度を用いてストックオプションにおける報酬も検討することができる。
博士号の知見や知識は、実務家としての経験とハイブリッドに活用することができれば、とんでもない「高度(職業)人」として、外部人材としてスタートアップに貢献することができる。しかし悲しいかな、日本の場合は博士号を持っている人材というのは、(実務家であっても)得てしてお金が無いことが多いため、エンジェル投資や株を買うということは難易度が高かったり、「お金を出すリスク」を感じて躊躇してしまうだろう。かといって、高いフィーを出すのも、スタートアップには難しい。
だからこそ、「社外高度人材に対するストックオプション税制の適用」の拡大という制度を利用して、スタートアップと経験豊富な博士号実務家との蜜月で、スタートアップの育成をもっとしていくべきだと思う。
「博士号は足の裏の米粒」と「取らないと気持ち悪いが、取っても食えない」と言われることもありますが、こと、スタートアップを支援するという高度(職業)人材の立場になれば、そんなことはない。むしろ、やりがいと夢を手に入れることができるのだ、と主張したい。
そしてスタートアップとその界隈の人たちへ。
シニアや外部高度人材を上手く使うのだ!
※もし上述した内容に関連して私にコンタクトを取りたい方がいらっしゃいましたら、以下よりご連絡をください。
追記。これもシニア人材活用例ですね。
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