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「音楽なんてキライだ!」第12話 震える足は小鹿のよう

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震える足は小鹿のよう

「苦手なことがシリーズ化する」
イベントを終え一週間くらい経ったころ、この言葉が私の内側に響いてきた。

苦手なことってなんだろう? 
しばらくの間、内側に響いてきた言葉を思い出しては、くり返し考えていた。そしてあるときを境に、一つのアイデアが浮かび上がり、今までの体験が結びつくかのように具体性をもつようになっていった。それは、自分が作詞作曲をしたものをメインとして、歌と声のワークショップをする、というものだった。

しかし、企画を表に出す勇気がなかなか出ない。
まさかこんなことを自分がするなんて思ってもみなかったし、不安ばかりがこみ上げてくる。自問自答をする日々の中、ちょっとだけ湧き上がるワクワク感を頼りに、前に進むことを決めた。
Mさんにサポートをしてもらうとよさそうな感覚があったから、思い切ってMさんにメールをすることにした。ワークショップの内容とMさんさえよかったら手伝ってもらいたいという気持ちを込めて。
どんな返事が来るか、予想もつかず少し怖かったけど、Mさんは「喜んでお手伝いします」と返信をくれた。

イベントでは大勢の前で歌ったのだから、歌のワークショップもできるだろうと、そんなふうにも思えるかもしれないが、自分にとってはそんな簡単なことではなかった。
人生の中で一番苦手だと思えるものが音楽だったし、そのワークショップのことを考えただけでも、怖さがひしひしと浮かび上がってくる。
しかし、もう後戻りできないくらいに自分の中で、大きな流れみたいなものがうごめいていた。もう一人の大きな自分が、弱気になる自分をも包み込んで運んでいっているかのようだった。
それでも、ワークショップのために会場へ下見に行くと、気持ちも上向きになっていった。会場は、民間の施設のいい雰囲気で落ち着きのある音楽室。グランドピアノが部屋全体のシックな感じをより引き立てていた。駅から歩いて7~8分だから、参加者が電車で通えるところもよかった。

ワークショップは、1か月半に1回くらいのペースで、約2年間続いた。とにかく最初の数回は、私自身が緊張にさらに輪をかけて緊張しているような感じで、ワークショップを終えたときの安堵感はそれ相当に大きなものだった。
参加してくれた人たちは多い回で12人、少ないときでも6人くらいで、私にとっては程よい人数だった。
毎回のごとくブログで告知をして、そしてワークショップの数日前になると、近くの公民館の音楽室を借りて、ピアノを弾きながら参加者をリードしていく練習をした。
ワークショップでは、グランドピアノの前に立ち、右手でメロディーラインを弾きながら参加者と一緒に歌っていくのだけど、最初のころは、もうそれだけで精いっぱい、という感じになっていた。
また、ピアノを弾いてみんなをリードしているときに、不意に自分の内側から複雑な感情がわき上がってきて、その場から立ち去ってしまいたいと、強く思うこともあった。
そんなときは回が終わるたび、自宅に帰ってからじっくり呼吸法をして、どうして自分がそのようになってしまうのか、時間をかけて原因をひも解くこともした。

結局ワークショップでは、毎回のように「ゆるし、そして祈り」を歌うことになった。たまには他の歌にしたほうがいいかと迷ったこともあったけど、参加者のみなさんの感想を聞くたびに、この歌だけにしようと思うようになっていた。
それにしても一番だけではすぐにみんなが覚えてしまうから、折をみて2番と3番の詩も書き足し、楽譜を作り替えることもした。
最初の数回は両親も参加してくれて、楽譜を持ってみんなで輪になって歌うなど、和気あいあいとしていた。詩吟の先生でもあった私の母が、急にみんなの前で「お腹のこの辺から声を出すといいんだよ」と説明をしだしたときは、少しヒヤヒヤしたけど。こんな光景を見ながら私は何度思ったことだろう。あのとき生徒の方に言ってもらったメッセージが現実になっていると。
私がメディスンマッサージの練習台になったとき、「楽譜を持ってみんなで楽しそうに歌っています」と、生徒の方に未来へのメッセージを伝えてもらったのだけど、それがまさか現実になるなんて思ってもみなかったのだ。

毎回のワークショップは、まず私の独唱から始まった。誰が言ってくれたかは忘れたけど、私が作った歌だから、まずは最初に聴かせてくれないと、と言ってもらったことがきっけだったように思う。
しかし、最初に独りで歌う、ということがプレッシャーでもあった。会がはじまり、その場がまだ落ち着いていない段階で、しかも伴奏がない状態で、アカペラで歌うことにしていたからだ。
それは、緊張や怖さ、不安までが入り交じる感覚でもあった。自分が大切にしている歌を人前で披露することは、とても勇気が必要だったし、足が震えてしまうこともあった。

しかし、あるときから人前で歌うこと自体が当時の自分にとっては、将来に向けたよいトレーニングになっていることにも気づいていた。おそらく今後自分に訪れるであろう、大勢の人の前で話をすることに対して、事前の練習になりえるものだと、捉えるようになっていたのだ。

またこんなこともあった。ワークショップを始めてから半年が経ったころのこと。私は、参加者が来る30分くらい前に会場入りして、独りで歌の練習をしていた。すると、Mさんがドアを開けて入ってきた。私は歌の途中だったからそのまま歌い続けていたが、歌い終わったところで、Mさんは思いがけない一言を言った。
「ひろきさん、もう殺されることはないんだから大丈夫だよ」
「え?」
私は一瞬戸惑った。内心、Mさんはあの私の過去世のことを知っているんだっけ? と思い、返す言葉も見当たらずそのまま黙っていた。
するとMさんは、「私が入ってきたとき、声の音量が少し下がっていたよ」と言ってくれた。
自分では気づかなかったけど、Mさんが会場に入ってきたときに、おそらく瞬間的に怖さが私の内側に立ち現れてきたのだろう。これを一つの機会として、自分の内側にある「人前で歌うことへの怖さ」とも時間をかけて向き合っていった。

歌っているときにわき上がる恐怖心は、過去世で体験したトラウマが、深く影響していることが日に日に明らかになった。道端で歌っているときに刺されて死んでいった、その当時に体験した心苦しさが今の私にも影響を与えていたのだ。
伝えたいことを表現していただけなのに、どれだけ無念だったか。その当時の心境に対して今の自分自身から、心からの愛を送っていった。このようにして、深い部分に意識を注いでいった結果、心の奥底にあったものは、少しずつ癒やされていき、人前で歌うことに対しての怖さは薄れていった。




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