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【第12回】Complex TKAに対する考え方-3

阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター 総長
格谷義徳 かどや よしのり

Zonal Fixation

Zone 2:Metaphysis;骨幹端

Coneによる骨幹端部での固定性の獲得”は再置換術におけるGame changerだと言える。Game changerとは試合の流れを一気に変えてしまう活躍をする選手」を指し,広い意味で「大きな変革をもたらす革新的なもの・こと」を意味する。TKA領域では止血対策としてのトラネキサム酸もGame changerとなり,これは周術期の出血対策を一変させた。

話をもとに戻そう。再置換術では骨幹端部の海綿骨が失われ,骨硬化を伴う症例が多い。そのような症例ではセメントのみでは充分な固定性が得られない。そんな時にも固定性を得るための秘密兵器として考案されたのがCone やSleeveである。

前者(Cone)は骨母床側を形成,補強するもの,後者(Sleeve)はインプラント側に組み付けてカスタムインプラントを作成するものと定義される。両者には得失があり,その優劣に関しては論議があるが,コンセプトの違いを理解しておくことが重要である。個人的にはConeの方が汎用性が高く,“まず骨母床を補強して,その上でインプラントを固定する”と言う具合に,段階的に考えられるのでこちらを使用している(Sleeveの使用経験はない)。PCCKでは日本人向けに小さなサイズのConeが追加されて非常に使用しやすくなった。場合によってはオフセットステムやメタルオーギュメントとも併用可能なので,様々な形,大きさの骨欠損に対応可能である(図4)。

前述したようにZone 2の海綿骨が欠損したり,骨硬化を伴ったりする場合はConeが絶大な威力を発揮する。旧来の方法ではほとんど固定力が得られなかった部位だからその差は大きい。 Coneを骨欠損部にプレスフィットさせて骨母床を補強し,そこにステム付きのインプラントをセメント固定するのが基本的な使用方法となる(術中写真1,2および症例写真1)。皮質骨が欠損している場合は皮質骨用Coneの適応となる。このように様々な形状・大きさのConeを使い分けることにより,大多数の症例で十分な初期固定が得られるが,必要に応じて骨移植あるいいは骨セメントを併用する。

骨幹端部でのセメント固定(Metaphyseal Cementation)

骨幹端部に海綿骨が残存していれば,(Coneを使用しなくても)セメントで固定力が得られる理屈になる。しかし骨幹部も含めて,閉鎖空間が確保されていない部位にセメントを圧入するのは決して簡単ではない(というよりかなり難しい)。だから“××とセメントは使いよう”なのである。

そこで我々が推奨するのが人差し指(75mmのテーパーステムとほぼ同じ長さである)を使って,指が届く範囲に全周性にセメントを圧入する手技である(図5〜7)。

この方法により骨幹端部(Zone 2)および骨幹部(Zone 3)の一部にセメントを圧入できる。旧来のステムでは全周性にセメント固定すると,抜去が困難になるのではという不安があったが,PCCKのセメントステムは表面がポリッシュ加工なので,比較的容易に抜去可能である。

Zonal Fixationの考え方の応用

Zonal Fixationの考え方では,Coneあるいはセメントを用いてZone 2で固定性が得られれば,もう1カ所,即ちZone 1または3で固定性を獲得すれば良い事になる。とは言え術中に遭遇する状況はそれほど単純ではない。例えばZone 1での固定性が皆無(即ち0)であるのはむしろ稀で,3割(0.3)とか7割(0.7)位の固定性が残存しているのがむしろ普通である。Zone 2で固定性を確保した上で,Zone 1に残存する固定性を勘案しながら,Zone 3(骨幹部)でどの程度固定性を追加するかは術者の裁量になる。つまり

Zone 1:0.3+ Zone 2:1.0 + Zone 3:0.7 = 全体で2とか
Zone 1:0.7+ Zone 2:1.0 + Zone 3:0.3 = 全体で2

といった応用問題になるのだ。場合によってはConeあるいはセメントによるZone 2での固定性を1以上にカウントしてもよい場合もあるだろう(これは筆者の私見だが)。もちろん全体で2以上になっても全く問題はない。

とりあえずPCCKではステムの選択肢が飛躍的に増大した(図8)ので,ステムの種類の選択やセメント手技により様々な調節が可能になった。

例えば,Zone 1での固定性が比較的保たれているものの,念のために固定性を増したい様な状況では,ショートステムもしくはミッドステムを全周性に固定すればよい(図7上)。オプションとして,長めのステムを(セメントorノンセメント)で使用してアライメントを確実にすると言う選択もある(図9下)。

手術に際しては,骨粗鬆症,あるいはBMI・活動性が高い等の理由で,念のため追加の固定力が欲しいと感じることは稀ではない。また最終段階で不安定背への対応のためにステムレスCCKの必要性が出た場合も同様である(詳細は『阪和人工関節センター TKA マニュアル -Advanced Course-』成書を参照されたい)。このような状況下では短いステムをセメンティングする方法は,簡便であり魅力的なオプションになりうる。どちらの方法を優先するかについては,得失があるので術者の総合的な判断に委ねられるが,このような場合もZonal Fixationの応用問題として考えると良いだろう。

Zone 1での固定性が不十分であるにもかかわらず,サイズなどの理由でCone も使用できない様な場合はどうすればよいだろう? このような最悪の状況では,Zone 2に加えてZone 3までセメントの固定範囲を延長せざるを得ない(図9)。その場合は遠位にセメントプラグを使用する事も選択肢となる(私自身は経験がない)。ちなみにRevision先進国のアメリカでは,比較的短いステムをセメントプラグを併用しながらセメンティングする手技が多く用いられているようである。

以上述べてきたようにPCCKではConeの導入に加えてステムの種類,長さ,そしてセメントの範囲の選択肢が著しく豊富になったのが最大の改良点である。選択肢が増えたので,判断(Judgement)と言う意味で手術が難しくなった事は間違いない。

しかし考えてみてほしい。難治症例や再置換術のような“切羽詰まった”状況では選択肢=術者の引き出しだと考えるべきなのだ困ったときに次の手が出てくる(思いつく)のが良い(信頼すべき)術者である。

そのためにはまず引き出しを多く作っておく,つまりゼロから1にしておくことが大切である。だから頭の中だけでも良いから本稿を読んでシミュレーションしておこう。実際の手術に当たっては,その引き出しの中から選択して遂行できるように修練していくのが術者としての次のステップになる。

(つづく)


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