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【第13回】Complex TKAに対する考え方-4

阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター 総長
格谷義徳 かどや よしのり

Zonal Fixation

Zone 3 骨幹部 (ステムによる固定)

TKAで骨幹部にまで破壊が進むことは,難治症例や再置換術であってもごく稀である。だからここで確実に固定性を得ることは,Zonal Fixationを確実にするための奥の手(Last resort)だと言える。

“奥の手”は英語でLast resortというらしい。最後の楽園と言う意味ではないようだ。

セメントレスステムとセメントステムの得失については,古くから多くの論議があるので下にまとめておく(図11セメントレスステムをプレスフィットすればアライメントは確保されるが自由度が失われ,Zone 1や2での固定との整合性が取りにくい(両立しにくい)。逆に短いセメントステムを使えば自由度は得られるが,アライメントが保証されなくなる。さらに抜去に際しての難易度も考慮しておくべきであり,全周性にセメント固定した場合,表面がポリシュされていないと抜去が著しく困難になる。その他両者には様々な得失があるので総合的な判断が必要になる。

実際にどのように固定法を選択していくのかを分かりやすく,体系的に記載するのは容易ではない。私自身も自験例には限りがあり,理解・整理が十分とは言えなかった。そこで本稿の準備に当たり,一番経験の多い水野先生が,彼の考え方や手技をまとめてくれた(図12)ので,それを材料に解説してみよう。自身での経験がない手技も含まれているが “俺に分からんモンは皆も分からんやろう”と開き直って私なりの解釈をしていくことにする。

具体的にはZone 1,Zone 2の状態に応じてステムの選択とセメンティングの範囲を調節していくことになる。ここでは敢えてConstraintの影響については考慮していないので,それについては別項の関節安定性とConstraintの項も参考にしていただきたい。

それでは図の上から下に向かって見ていこう。

固定Zone:左から右に向かうほど骨母床の状態が悪く,厳しい状況を想定している。通常はZone 1→Zone 2の順に段階的に固定部位が失われ,最終的にZone 3まで破壊が進むことは稀である。Zone 1での固定性がある程度保たれていれば,Zone 2で固定性を確保すればよい。さらに状況が厳しくなりZone 1での固定性が失われていればZone 2に加えてZone 3での固定が必要になる。

① 骨母床の評価:骨欠損の範囲及び残存骨母床の骨質を評価する。具体的には海綿骨が残存しているか? 骨硬化の有無,contained defectかnon-contained defectを確認する。

② 骨欠損への対応:必要となる骨補填材を準備する。基本的にはZone 1→Zone 2の順番で考えれば良い。基本的な考え方については拙書『阪和人工関節センター TKA マニュアル -Advanced Course-』も参照されたいが,原則としては

●小さな(< 5mm)骨欠損は骨移植により対応する(移植骨が用意できれば)
●それより大きな(>5mm)骨欠損にはメタルブロックによる補填を考慮する
●セメントは有効な手段だが骨母床に海綿骨が残存していることが望ましい
●Coneを使用すれば骨硬化や皮質骨欠損症例でも固定性が得られる

特に最後のConeによるZone 2での固定は,これまで無視されてきた部位で固定性が得られるためインパクトが大きい(Game changerたる所以である)。

③ ステムの長さとセメント範囲:色々な骨母床の状況を仮定して,それに対する対処法を示している。

A:Zone 1が保たれており,Zone 2の海綿骨が残存している場合
▶初回手術時や再置換術でも理想的にインプラントが抜去された場合が当てはまる。この状況ではショートステムを追加し,全周性にセメント固定すればよい。
B:Zone 1に軽度の骨欠損があるが,Zone 2の海綿骨が残存している場合
▶Zone 1の骨欠損はブロック,セメントで充填し,さらにミッドステムをフルセメントすることによりZone 2およびZone 3の一部で固定性を得る
C:Zone 1に骨欠損が著明で,Zone 2の海綿骨が欠損and/or骨硬化を伴う場合
▶感染に対するスペーサー留置後の再置換術でしばしば経験する状況である。Coneを用いてZone 2での固定性を獲得し,さらにミッドステムを全周性にセメントすることによりZone 3での固定性を追加する
●D:Zone 2に骨欠損が進行しているが,海綿骨が残存している場合
▶Zone 1が利用できそうならメタルブロックを使用して可及的に固定性を得る。Zone 2にはセメントを圧入した上で,ロングステムをハイブリッド固定してZone 3での固定性を追加する
●E:Zone 2の骨欠損が進行した場合(海綿骨が欠損し骨硬化を伴う)
▶Coneを用いてZone 2での固定性を確保し,さらにロングステムをハイブリッド固定してZone 3での固定性を追加する
F:Zone 2の骨欠損がさらに進行した場合
▶Zone 2では同様にConeを使用して固定性を確保し,さらにロングステムをフルセメントで固定する

ここに示したのは仮想的な骨欠損とそれに対する対応であり,実際には術中に総合的な判断をしていく必要がある。実際には固定性だけでなく屈曲伸展ギャップ,内外反バランス,ジョイントラインも考慮しなければならない。そんな困難な状況下においてステムの選択肢が豊富になったのは,術者にとって大きな朗報になる。難治症例や再置換術のような“切羽詰まった”状況では選択肢イコール術者の引き出しである。あらかじめ知識を得ておいて選択肢を持っておくことが重要だから,まずゼロを1にしておこう。武器がないと戦えない。

(つづく)


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