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女性放射線科医のリアルライフ~東京医科歯科大学医学部附属病院、同大学医学部附属病院放射線科|高橋麻里絵~

はじめに

 私は大学病院に勤める放射線科診断医であり…救急医です。ここ2年半ほどは放射線科のスタッフとしてIVRや画像診断を担当しており、救急外来には立っていないので三次救急のリーダー医師はもうできないかもしれない…。そんな私が、「救急医です!!」と大きな声で言っていいものやらわかりませんが、かといって放射線科医ですと言い切っていいのか。自分がいったい何科の医師なのか、分類がもはやわからないですし、人に尋ねられた時は臨機応変八方美人的な応答をしていますが、個人的には救急が実家で、放射線科が今の家庭のような感覚でいます(実家との関係が良好なパターン)。そんな、ちょっと変わった私のリアルライフを紹介します。

年間スケジュール

 ここ数年はIVR学会での発表と、専門医などの資格取得あるいは更新を1つすることを毎年の課題にしています。あとは日々の業務をこなして、月2、3回程度の時間外IVRを担当、その間にイレギュラーに入ってくる原稿仕事や、学会や研究会への参加や発表をしています。週の業務の内訳は外勤も併せると大体、読影とIVRが40%ずつ、20%くらいが研究や教育です。コロナ禍でも学会がonlineになったくらいでスケジュール自体はほとんど変わっていません。IVRの件数も第1波のころは減りましたが、今はwithコロナが当たり前になっていて対応もシステム化されており、件数としては通常程度に戻っています。

Q1.なぜ放射線科医を選択したのか?

A.初期研修終了後に私が入局した東京医科歯科大学(以下、医科歯科大)の救命センターでは(ややこしいですが現在も所属中)“救急科”のほかにもサブスペシャリティーを持つのが通例で、ダブルボード取得を目指したプログラムが組まれています。ほとんどの同僚は外科とのダブルボードで、3年程度の外科研修を経て外科専門医を取得し外傷・救急外科医として働いています。外傷外科ももちろん魅力的ですが、私は幼い頃から“周りと違うことがしたい”という気持ちが強く、救急科研修を続けながら他の道を模索しました。その日々の診療の中で、画像が診断の決定打となることが多いのにもかかわらず自信を持って画像診断をすることができない恐怖感や“撮れてしまう”時代に自分には見えていないものが沢山あるのではないかというモヤモヤがいつもありました。さらに救急医として手術に替わる治療を完結できる技術を身につけたいとも思っていたので、画像診断・IVRを学ぼうと決めました。

Q2.現在の医局に入局したきっかけ

A.画像診断・IVRを学ぼうと決めたものの救急医局内で前例がなく自分で計画を立てなければいけませんでした。出産・育児や救急医としての研修で手一杯で、実際本格的に動き出したのは医師5年目の頃です。放射線科医として初めに所属したのは聖マリアンナ医科大学の放射線医学教室です。どうやって研修先を選んだかよく聞かれるのですが嘘のような本当の話で、進路を決めてまずgoogleに『救急』・『画像診断』と打ち込んで検索しました。当時、聖マリアンナ医科大学放射線科が検索結果の1番に出てきたのでHPをよくよく見てみると、なんと救急科との間に救急放射線というセクションがあるではないですか!医局の歴史や指導体制を含め全てが私の描いていたものと合致しており、(この時代、リクルートにはHP命ですね)これはもう運命だ、そう思って担当者であった松本純一先生に連絡をし、さまざまな調整をへて医師7年目から聖マリアンナ医科大放射線科での研修をはじめました。聖マリアンナ医科大に移ってからの3年間は大変でもありましたが、数年経った今振り返っても全てが思い出深く、忘れられない出来事ばかりです。私のほかにも全国からIVRや画像診断を学びにきている若手が多く賑やかで、先輩方の指導も熱心で、技師さんにも沢山教えていただきました。

Q3.AIへの対応

A.医者人生の多くを大学病院で過ごしてきた私ですが、なかなか研究に手が出せずにここまできていました。時間がないと思いつつも、本当に時間がないのか、サボってるだけではないのか、と研究業績のなさはいつもどこかにつきまとうコンプレックスでした。ここ1年は同僚のサポートもあり、COVID-19肺炎に関してdeeplearningを利用した研究をしました。
 画像診断はAI・deep learningと相性が良いと言われており、急速に研究や一部では臨床への活用が進んでいます。臨床での決定打に関わるような利用はまだまだ遠いと感じますが、年々より低侵襲に膨大で繊細な画像データが収集できるようになっている今、人の目と共に働いて業務量を減らしてくれるようなツールにはもうすぐなるのではと期待しています。

Q4.コロナで変わったプライベート

A.仕事に比べてプライベートの方がコロナ禍で大きく変化しました。夫の在宅勤務が始まったので(在宅といってもonline業務で大忙しです。これを忘れないことが重要ポイントです)小学生の子ども2人が帰宅した時に家に誰かがいてくれるという安心感が大きいです。第1波の頃は学校や習い事が休校になっていたので、夫の在宅がなければ乗り越えられなかったと思います。そして何といっても、家に常に人がいるようになったので、念願の犬を飼うことができました!共働きの我が家で子犬を迎え入れるのはリタイア後かと諦めていましたが、子ども達が小さい頃に迎えることができてとても嬉しいです。我が家の最大の癒しです。

Q5.仕事とプライベート(育児や家庭、趣味など)との両立

A.家庭や育児との両立は…できません!できるわけがないから諦めた方がいいです。
 私も救急医時代は妊娠出産や子育てに専念していた間の分の遅れは常に感じながら働いていましたし、今ももっと沢山仕事をしたり、研究会や学会に参加したり、読影やIVRのスキルも上げなくてはいけないのにとどこか追われている感じはいつもあります。だったら家事や育児をアウトソーシングして仕事をすればいいかというとそういうことでも無いんです。仕事もしたいけど、家事をしたり、習い事のサポートも、日々の成長を傍で見守ることも、ある程度は私がやりたいのです。始めに言い切りましたが、言い方を変えると仕事もプライベートも100%理想とするような人並みにやることが両立ならそれは無理です、ということです。人に評価されて生きる世界なので難しいですが、自分の限界を理解してそれを周りに提示する、そして自分も納得するしかないと思っています。その上でできることを探してやっていく。器用にいろんなことを両立している人は周りに沢山いて眩しい限りですが、みなさんきっとそれぞれ自分なりの折り合いをつけているんだと思います。私は普段oncallや緊急呼び出しに対応していますが、仕事に定時以上の時間を一秒も設けない時期もありますし、忙しくて夕飯マックで!(子ども大喜び!)ということだってあります。

Q6.やりがいやキャリアアップについて

A.やりがいを感じるのは自分の画像診断が治療に寄与できた時です。IVRがうまくいって救命できたと感じた時は、人を救うことで自分が救われていることを強く感じます。前述したように仕事とプライベートの100%両立は諦めた私ですが、毎年のIVR学会の発表と資格取得or更新という緩めのノルマは死守、去年からは研究も始めました。同期から遅れている部分も多い私で焦りもありますが、微々たる変化でも継続することを大切に日々過ごしています。

Q7.美容事情

A.わざわざ人に言うほどのことは何もしていませんが、年々明らかに疲れやすくなっており、寝不足が続くと体調や肌荒れがコントロール不良になるので、睡眠の質をあげるように考えています

Q8.若い人に向けて一言

A.私個人的には、進路に迷ったら他の人があまりやらないことに挑戦することをお勧めします。マニアックでも需要が必ずある領域や技術を見つけて研鑽を積むことができれば、人に頼ってもらいながら仕事をしたり、人と違ってもさまざまな形で組織に貢献することができると思います(実際はマニアックな人ばかりでも困りますので…王道を行く優秀な沢山の先生方に支えられているわけですが)。
 もう1つは、周りの人たちとの関りを大切にすることです。私は今までも今も本当に人に恵まれています。救急から放射線科に移った時も、今の立場で働けていることも、その時々で周りの方々が大いに尽力してくださったおかげです。だから今、私もお返しできることがないか考えながら向上心を持って働けているのだと思います。
 ここまで個人的な経歴や考えを書き連ねてきましたが、こんな私の存在がどこかの誰かの悩みに少しでも寄り添うことができたら幸せに思います。


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