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【メタバースとは何か?】バーチャルリアリティとの違いは?結局何が変わるのか?

Mark ZuckerbergがFacebook社の社名を「Meta」に変更することを発表して以来、「metaverse」(メタバース)に関するいい加減な冷かし記事や報道が雨後の筍の如くメディアを賑わしています。

未だに不正確で不適切な記事や報道がメディアで横行するドローン(drone)分野もある意味同じような状況かもしれませんが、「メタバース」は完全なバズワード(buzzword)であるという点で明らかに性格を異にします。

躍るバズワードのバブルに便乗しようとするマーケティング担当を尻目に「メタバース」の実現を真摯に目指していた人々は恐らく頭を抱えていることでしょう。

そこで本稿では売上高12兆円のIT(テック)企業でCSOを務めた私が改めて「メタバース」について解説しますと言いたいところですが、私などよりもまず話を聞くべき人物がいます。ドローンのことならまず私と言っても過言ではないのかもしれませんが、今回の「メタバース」についてはまずこの人物の話を聞くべきでしょう。それはOculusのコンサルティングCTOであるJohn Carmackです。

John CarmackはMark Zuckerbergが社名変更を発表したFacebook『Connect 2021』で同じく基調講演(Keynote)を行なっています。そこでMeta社のメタバース計画について警告を述べています。少なくともMeta社のメタバース計画を見るときは最低限このふたりの基調講演をチェックしておく必要があります。

ただし、今回の「メタバース狂想曲」で結局何が変わるのかという私の結論から先に言えば、ポストスマホ時代が早まるというだけのことです。つまり、5Gが普及すれば私たちが普段使用するIoTデバイス(携帯端末)がスマホではなく別のIoTデバイスに取って代わられると考えられていましたが、それが必然に迫られるというだけの話です。

Mark Zuckerbergが「メタバース」をバズワードとして用いFacebook社の社名を「Meta」に変更したのは(日本では余り報道されていませんが)内部告発「The Facebook Papers」によって地に落ちた会社の信用と毀損したブランドイメージから目を逸らさせることが最大の狙いでしょう。

2018年6月にOculusエグゼクティブのJason RubinがFacebookボードメンバーのMarc Andreessenに送信したレポート『The Metaverse』ではメタバース構築のためのグループ内環境を用意周到に整え、世界の脅威となるポジションを水面下で確立した段階で発表することが提言されていました。脅威を与えられなければそれは「メタバース」ではなく「ミニバース」(Mini-verse)だと書いています。

If delivering the Metaverse we set out to build doesn’t scare the living hell out of us, then it is not the Metaverse we should be building, it is not what customers want, and it is, therefore, meaningless.
Anything else is a Mini-verse.
(Jason Rubin『The Metaverse』2018年6月)

ですが、John Carmackが『Connect 2021』の基調講演で指摘しているように現状の「Horizon Workrooms」などは「メタバース」には程遠く、明らかな準備不足のまま社名変更を見切り発車したことがその証左です。今回の社名改名劇は文字通りFacebookによる「vaguebooking」に過ぎません。

さて、本稿ではまず上述のJohn Carmack『Connect 2021』基調講演を紹介します。その後、改めて「メタバース」について簡素に考察したいと思います。

John Carmack『Connect 2021』基調講演

「私は本当に(メタバースを)気にかけていますし、そのビジョンにも賛同しています」と述べた後、「私は買収前でさえ社内でメタバースの取り組みを始めようとする度にかなり積極的に反対意見を述べてきました」と彼は付け加えています。

一見矛盾するように見える姿勢ですが、「メタバースを構築しようとすることが実際にはメタバースを構築する最善の方法ではないと信じるに足る十分な理由がある」と彼は主張します。

「メタバースへの最も簡単に見える道は『Roblox』のような1つの単一なユニバーサルアプリを持つことです」が、壁に囲まれた「1つのアプリケーションが(メタバースの)全てを受け入れられるレベルになるとは思えない」と言います。

そして彼は「メタバース」のアイデアは「アーキテクチャ宇宙飛行士」(architecture astronauts)の「ハニーポットの罠」になる恐れがあると指摘します。それはプログラマーやデザイナーが「非常に高いレベルからしか物事を見ようとしない」からであり、実際にどのように機能するのかという「肝心な部分」を省いてしまうためだということです。

また、彼は「メタバース」の全てが3Dモデルや物理オブジェクトの再現を中心に構築されるべきだという考えに疑問を投げ掛け、リソース管理と最適化の技術的な問題も指摘しています。

「メタバース」とは何か?

以上ここまでは「メタバース」を何となく『Ready Player One』『ソードアート・オンライン』のイメージで書いてきましたが、そもそも「メタバース」の定義とは何でしょうか?

「メタバース」(metaverse)という語の出典はNeal StephensonのSF小説『Snow Crash』(1992)であり、「meta」と「universe」を合わせた造語とされています。

「meta」とはオブジェクトがそれ自体を参照していることを意味する形容詞であり、「universe」は宇宙を表す名詞です。

この小説で「メタバース」は「バーチャルリアリティ、オーグメンテッドリアリティ、インターネットを組み込んだバーチャル共有空間」という意味で使われているようですが、定義は明確ではありません。

Mark ZuckerbergあるいはMeta社の定義は「an embodied internet where instead of just viewing the content-you are in it」(コンテンツを見るだけでなく、その中に身を置くことができる具現化されたインターネット)であり、端的に言えば「バーチャル空間に重きを置いた新しいバージョンのインターネット」という非常にざっくりしたものでしかありません。

つまり、「メタバース」には明確な定義が存在しません。強いて言うなら「新しいインターネット」であり、「新しい資本主義」と同じく単なるバズワードに過ぎないのです。

「メタバース」と「バーチャルリアリティ」の違い

上述のように「メタバース」には明確な定義が存在しません。「メタバース」と「バーチャルリアリティ」(virtual reality)の違いは定義の有無にあります。

「バーチャルリアリティ」(VR)には「見掛けや形は原物そのものではないが、本質的あるいは効果としては現実であり原物であることを感じられるテクノロジーおよびその体験」という明確な定義が存在します。因みに、従前より指摘されている通り「virtual」を「仮想」あるいは「擬似」と翻訳するのは誤りです。「virtual」(バーチャル)は「仮想」あるいは「擬似」という意味ではありません。

対して明確な定義が存在しない「メタバース」は闇鍋ごった煮の何でもあり状態で完全なるバズワードでしかありません。

「メタバース」は現実に囚われた空間

さらに「メタバース」に関する曖昧なイメージから共通項を抽出すると、「virtual reality」「augmented reality」「mixed reality」と全て「reality」(現実)と結び付いたものであり、漠然と一般的に抱かれているゲーム世界観的空間や非現実的なサイバー空間に存在するパラレルワールドと言った印象とは掛離れた現実(リアル)の延長線上であることが分かります。

つまり、「メタバース」には現実逃避の余地はないということです。容姿はアバターになっても「メタバース」には箱庭ゲームほどの自由度もなく、結局はリアルに保有する暗号資産やステータスなどのリソースが物を言う決して現実から逃れることの出来ない「新しいインターネット」となりそうです。「メタバース」はあくまでも現実(リアル)のデジタルツイン(digital twin)でしかないのです。

「メタバース」で世界はどう変わるのか?

それで結局「メタバース」で世界はどう変わるのでしょうか?Meta社以外にもMicrosoft社、Roblox社、Niantic社、Qualcomm社、Samsung社、Match社、Tencent社、Unity社、あるいは「メタバース」と類似するコンセプト「omniverse」(オムニバース)を掲げるNvidia社などがメタバース構築に意欲を見せています。

しかし、「メタバース」を構築しようとするデジタル社会による電力需要の増加に加え、意図して形成した脱炭素の時勢によって最終的に得をするのはBill Gatesの原子力発電会社TerraPowerなどの新型原子力発電会社です。先日もTerraPower社初となる原子炉建設がワイオミング州に決定したばかりです。これまで持ち上げられてきた再生可能エネルギーがグリーンウォッシングだったということで、核融合発電が実用化されない限り新型原子力発電の重要度が増すでしょう。

ポストスマホの始まり

では、一般ユーザーにはどのような変化が起こるのでしょうか?冒頭で述べたように「メタバース」という「新しいインターネット」で変わることは実にシンプルです。私たちが普段使用するIoTデバイス(携帯端末)がスマホ(スマートフォン)ではなく別のIoTデバイスに取って代わるだけのことです。

これまでの二次元視覚、聴覚、バイブの携帯端末から三次元視覚、聴覚、触覚のIoTデバイスへ移り変わります。個人的にはどんなデバイスがスマホに取って代わるのかが非常に気になるところです。スマートグラスでしょうか?私としては以前から言語コミュニケーション可能なAI搭載自律型ペットドローン「ドローンえもん」を提唱しているのですが、残念ながら出番はまだまだ先になることでしょう。

「メタバース」によるコネクテッドヘルス

そこで「メタバース」の活用が進むことを期待しているのは医療分野です。現在はドローンやスマホ、スマートウォッチやスマートリングといったIoTデバイスとAI(人工知能)によるコネクテッドヘルス(connected health)プラットフォームである「救急医療ドローンプラットフォーム」(Emergency Medical Drone Platform)の構築を目指していますが、三次元視覚、聴覚、触覚の双方向伝達ができるIoTデバイスが登場すればさらに高度な遠隔医療の可能性が広がります。

現時点では定義の曖昧なバズワードに過ぎない「メタバース」ですが、経済活性化と医療技術(ヘルステック)の進歩、さらにはSDGsに繋がることを期して後押ししたいと思います。

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